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目立ちたく無い俺、腹黒聖女様に懐かれる  作者: おとら@7シリーズ商業化


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15/52

登山にて

 昼食を済ませたら、山登りが再開する。


 流石に皆疲れてきたのか、前の方からも会話が減ってきた。


 当然、俺は平気だが……俺は明らかに疲れてきてる悟に近づく。


 ちなみに森川は意外と体力があるらしく、少し前の方を清水と歩いている。


「悟、平気か?」


「う、うん、なんとか……女の子より弱いのはショックだね」


「悟はインドアだしな。あの子は違うのか?」


「インドアではあるけど、グッズを買うために店をハシゴしたり、バイトのお金で遠征とかするみたい」


「ああ、なるほど。そうなると、結構体力がいるわな」


 どうやら、見た目とは違ってタフらしい。

 ほんと、人っていうのは接しないと分からない。


「うん、そうだよね。僕も体力つけた方がいいかなぁ」


「なんだ? 出かける約束でもしたか?」


「う、うん、社交辞令かもしれないけど」


「そういうタイプには見えないが。まあ、どっちしろ良いことだ」


 悟は優しくて良いやつだ。

 自分が悪口を言われても、人の悪口を言わないし。


「ぼ、僕みたいのがそんなことして良いのかわからないけど」


「別に良いだろ。一度きりの高校生活だし、誰にだって楽しむ権利は……」


「優馬君?」


「いや、なんでもない」


 なにを人に偉そうに言ってるんだ。

 俺が、普段から言われてることじゃねえか。

 ……俺も楽しんで良いのだろうか?



 ◇


 そんな会話をしつつ、歩いていると……。


「あっ!」


「あぶない……間に合った」


「す、すみません!」


「ううん、段差には気をつけようね」


 どうやら、森川が段差に躓いたらしい。

 それを清水が咄嗟に腕を取って回避したのか。

 それを見ていた悟が、慌てて駆け寄る。

 さっきまで、一歩も動けないみたいな顔をしてたのに……すごいな。


「だ、大丈夫!?」


「へ、平気、清水さんが支えてくれたから」


「そ、そっか」


「ふふ、あとは河合くんにお願いするね」


 そうして、入れ替わるように俺の隣にやってくる。

 そして、再び歩き出す。

 悟も頑張って、森川と一緒に登っていく。


「あと、どれくらいだ?」


「えっと……もうすぐよ。あと、三十分くらいかな」


「んじゃ、悟も保ちそうだな」


「ふふ、友達思いなのね? 随分と励ましてたけど」


「どうやら、カッコ悪いところを見せたくないみたいでな」


「……そういうことね」


 俺と清水は前を歩く二人を、微笑まして見守るのだった。

 そして、さらに歩くこと十分くらいで……俺はあることに気づく。

 というより、少し前から確信していた。


「悟ー! 靴紐ほどけたから少し先に行っててくれ!」


「うん! わかった!」


「じゃあ、私は待ってるわ」


 俺はなるべく時間が稼げるように、ゆっくりと靴紐を結び直す。

 よし、これで悟たちとの距離ができたな。


「大丈夫? 随分と時間かかってるけど……」


「それはこっちのセリフだ——いつから足が痛い?」


「……どうしてわかったの?」


「こう見えて中学時代は武道もやっていたからな。歩き方や庇い方で、大体はわかる。やっぱり、さっき森川を庇った時か?」


 俺は剣道をずっとやってきたから、足の動きには敏感だ。

 それに母さんは足が悪いので、それを庇う歩き方をしてる人はすぐにわかる。

 そして大した怪我じゃなく見えても、後で悪化した例も知ってる。


「……そうよ。ただ、少し足をくじいただけだから平気」


「そういうのが一番危ないんだよ。ほら、見せてみろ」


「……随分と強引なのね。その、変なことしない?」


「するかよ」


「ご、ごめんなさい……これでいい?」


 清水が恐る恐る靴下を脱いで出した足を観察する。

 見たところ腫れてはいないが、中はどうだろう。


「少し触ってもいいか?」


「う、うん」


「これで……」


「っ……!?」


「なるほど、少し捻ってるな。ちょっと待ってろ」


 少し足首を動かしたら、清水の顔が強張った。

 なのでリュックからテーピングを出して、患部らしき場所に巻き付ける。


「これでよしと。ひとまず、応急処置でしかないが」


「あ、ありがとう……随分と準備がいいのね」


「まあ、こういうのに怪我は付き物だしな。後は、さっきも言ったが昔の名残だ。ほら、ゆっくり歩くぞ。今なら誰もいないから肩を貸してもいいし。どうせ、森川には知られたくなったんだろ?」


「う、うん……なんなのよ……なんでわかるのよ」


 俺は下を向いてぶつくさ呟いてる清水に肩を貸し、残りの山道を登っていくのだった。


 別に大したことじゃない。


 我慢して人を気遣う人を、ずっと側で見てきたから。


 ……当時は何も気づかない馬鹿だったけどな。

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