2目の前にある面倒事をかたずける
闘技場には2人の男が立っていた。
1人はよく知っている人物、俺よりも少し背が高く色黒で短い銀髪、王国騎士団長モーガン・グラウスだ。父上の代から騎士団をまとめ上げている。
「ランスロット王子、予定通り今回の試合の審判は私がさせていただきます」
「よろしく頼む」
そして目の前にもう1人今回の優勝者の少年
「この者が今回の優勝者です」
俺が闘技場に現れてから片膝をつき頭を下げている少年に声をかける。
「頭を上げ、名乗るがいい」
「マリク・バージスでございます。本日はこのような機会を頂きありがとうございます」
こんな大舞台で王子と試合をするとなれば緊張するのはとうぜんだがカチカチだ。
「緊張するなとゆうのは無理だろうが、緊張していては力を発揮できないぞマリク・バージス」
モーガンが声をかけているがむしろ青ざめている。
「マリク、貴様はなぜ騎士団に入りたいと思った?」
「ランスロット様が3年前に、身分など関係なく能力あるものは騎士団へ入団することを歓迎すると演説をされていました」
「その通りだ」
「私は平民ですがチャンスだと思いました。騎士団に入れば家族に仕送りをして楽をさせてあげられます。なので私はこの試合に参加しました」
なるほど、だから闘技場で使う鎧をつけているのか。
貴族ならば特注の鎧を、家臣たちが面倒を見ていた者ならば騎士の訓練用鎧をつけているはずなのにおかしいと思っていたが。
この者は平民でありながらその者たちを倒してきたのか。
「素直だな。優勝したことによって貴様は騎士団に入団できる仕送りもできるだろう。貴様は今日参加した誰よりも強い、貴族たちが強いと言っていた者や騎士団所属の者達が目をかけていた者達を倒して私の前に立っている。凄いことだ」
「ありがとうございます」
マリクがふるえながら頭を全力で下げている
俺はつい試したくなった。
「だがそれだけで満足か?」
「それはどうゆう意味でしょうか??」
「この試合もし貴様の剣が私の体に一太刀でも浴びせることができれば、騎士団の中でもそれなりの地位を約束しよう給料も一般騎士より良いぞ」
「えっそ、、、え?」
マリクは混乱していて言葉が出てこないようだ。
「モーガンどうだ面白いと思わないか?この私に一太刀あびせられる者は将来有望だと思わないか?」
モーガンはため息をついていたが、すぐに表情を切り替えて答えた。
「良いと思います。後はマリク・バージス次第ですが、、、」
「これを受ければ貴様は全力で私に挑むことができるぞ?今のままでは全力もだせまい」
この提案に食いつくのであば少しは期待できるほんのすこしだけ。
マリクは大きく息を吸い、呼吸を整え顔つきをかえた。
「よろしくお願いいたします」
それを聞いた俺は闘技場に響き渡るように大声で宣言した。
「この試合でマリク・バージスが一度でも私に一太刀あびせる事が出来たら騎士団の中でも良き地位を約束することをランスロット・ブラントがここに宣言する」
「「うおおおおおお」」
闘技場が熱狂に包まれた。普通なら貴族たちから反感を買いそうなものだが、王子としての兄の人望があるからこそこの反応なんだ。流石としか言いようがない。
「それでは試合を始めましょう」
モーガンがそう言うと俺たちは少し距離をとり構えた。
「遠慮するなよマリク。回復魔法ですぐに直せるんだからな」
「はい。全力で挑ませていただきます」
僕の目の前にいるランスロット・ブラント王子、この国ができてからの歴代最高で最強の王族。
まさか試合とはいえ目の前に立つことになるとは、それどころか剣を交えることになるなんて、一太刀浴びせることができたら騎士団の地位まで約束してもらえるんだ。こんなチャンス今後もらえるとも限らない。
「それでは、はじめ!」
その瞬間、僕の顔の左に剣が迫っていた。ガキィンと剣が交わる音が鳴り響く。ギリギリ防いだはずだったがそのまま壁まで吹き飛ばされた。
「がっ」
壁に激突した衝撃は大型モンスターに突進された時とかわらない。
それよりも驚べきことは片手で吹き飛ばされたことだ。
一度剣を交えただけでわかってしまった。
僕と王子との差はこの距離以上だ。
「今のを防いだのは誉めてやろう」
少しだけ驚いた。防げる程度の速度で切りつけたが剣が顔に当たる直前に気がついて反射で防ぎやがった。面白い男だマリク・バージス。
「さてマリクよ私を楽しませてみろ」
俺は距離を一気につめ再度攻撃を開始しする。
「くっ」
マリクは防戦一方だ。何度も俺に攻撃されても何とか防いでいる。
「どうしたどうしたどうしたぁあ。マリクよ防いでばかりでは私に一太刀も浴びせられないぞ。折角観客達のテンションも上げたんだ。しょうもなく負けるんじゃないぞ!」
闘技場の隠し部屋でランスロットは頭を抱えていた。
「あーだめだ。大声で演説した時からこうなるんじゃないかと思ってはいたんだよなぁ。アーサーは戦いとなると無駄にテンションが上がる」
これではまた私が家臣達から、王子の戦い方は勇猛果敢で猛獣も近づけないほどの圧倒的な力で、普段の王子とは別人とか言われるんだよ。最近じゃあ市民からも戦っている王子かっこいいとか口調や立ち振る舞いを真似したりしてると聞く。俺じゃないから恥ずかしいんだよ。
「こうなるからやりすぎるなと言ったのに、またしばらく私を見る皆の目があのテンションの王子を見る目になるのか、恥ずかしい、、、」
あれ以上のことにならないことを願うしかない。
モーガンは審判をしながら感心していた。
「良く防ぐ」
つい口に出してしまった。思ってた以上にマリク・バージスに関心をしているからだろうか、私は王子の本気を今まで見たことがない、今後も見る機会があるとは言えない。マリク・バージスに合わせて力の調整をしているとはいえ、ギリギリで何度も防いでいるのは凄いことだ。あそこまで防ぐものは騎士団の中にも片手で数えるくらいしかいないだろう。
だが流石にそろそろ限界か。
「良く防いでいるなマリク、だがそれだけだ。終わりにしてやろう」
これ以上やっても反撃の期待はできないな。残念ではあるが仕方がない。
マリクに向かって踏み込み剣を振り上げた。ギリギリ防ぐことができたマリクは大きく体勢をくずした。マリクの鎧を掴み上空に飛ばす、観客が全員闘技場よりも上空まで飛ばされたマリクを見上げている。
俺は地面を蹴り上空のマリクに追いついた。
「よう、さっきぶりだな」
「なっ」
マリクは理解できないっとゆうような声をあげた。
「これで最後だ」
俺は剣を振り下ろした。
マリクは勢いよく地面にたたきつけられ、姿が見えないほどの砂煙が舞っている。
観客がざわついている。
俺は魔法を使い砂煙を圧縮して消し去った。
マリクが倒れている場所は元の原型をとどめていない、俺が直前に魔法で吸収性のある素材に地面を変えておいた。
「そこまで!」
モーガンが試合終了の合図をだした。
闘技場が歓声で埋め尽くされている、俺の戦いを見れたことによるものとマリクが奮闘して防ぎ続けていたことへの歓声だ。
「ランスロット様」
息を整えたマリクがボロボロな体で起き上がり跪いた。
ボロボロでフラフラ、それでも立ち上がるとは根性がある。
「本日はありがとうございました」
「うむ、貴様は強くなる私が保証しよう。一太刀どころか反撃することすらできていなかったが、なかなかの反射神経だったぞ」
「ありがとうございます」
「モーガン貴様の直属の部下にどうだ?将来が楽しみだろ?」
モーガンにどうだ?と言ってはいるが選択肢などない。
俺の顔を見たモーガンは表情を変えずに答えた。
「ご期待通りに育ててみせます」
「私は城に戻るとしよう」
そう言って闘技場から出ていき控室で兄と合流した。
「おつかれ、よくやったっと言いたいが、やっぱりやってしまったなアーサー」
「やってしまったってなんだ。いつも通りランスロット・ブラントとして振る舞っていたじゃないか」
「いつも通りじゃなーーーーーい」
かなり不満な顔をして大声で文句言い出した。
「おいおい、ここでそんな大声だすんじゃない。兄上と俺が二人でここにいるのはまずいとりあえず俺は城に戻るから、兄上は義姉上のところに戻らないと」
「くぅう帰ったら話すぞ!」
兄は勢いよく控室を出ていった。
「わかったわかった。先に戻ってるよ」
俺は兄を見送った後、城の隠し部屋には戻らず魔法を使い国から離れた雲の上にいた。
手加減していたといえ、予想を超えられると面白くなるものだが物足りなくなる。
「さて、この有り余った気持ちの高鳴りをどうしてくれようか」
そう言いながらも俺は剣を思いっきり振った。
空に漂う雲が数キロ先まで2つに割れるようにわかれた。
「被害を出さないためにも何もないところを切ってはいるがこれだけでは物足りん」
視線を落とし、北の山脈を見た。危険な魔物が多く住み、誰も近寄らないと言われている。
「人が住める環境でもないし、魔物が減ることはいいことだろう」
俺は山に向かってまた剣を振るう。
山が大きな音をたてながら山の中腹から上がずれた。
「ふぅ少しは気が晴れた。今日はこれくらいにして戻るとするか」
そろそろ戻らないと兄に小言を言われてしまう。
俺は城の隠し部屋に戻った。
「待っていたぞアーサー」
「早かったな兄上」
「当たり前だ。闘技場でのお前を見て皆からの視線が恥ずかしいのだ」
「何を言っているいつも通りだっただろ?」
「俺はあんな表情や言動はせん!あれは完全にお前だ!戦闘するたびに、誰から見ても戦闘大好き人間のような表情と言動しているんだぞ」
「変わっていないだろ?」
「本当にそのままどと思っているのがたちがわるい。私はあんな楽しそうに戦いもしなければ、煽るような言動もしないぞ」
「そうか?」
「そうだ!家臣達からは勇猛果敢だの猛獣もよりつかないだの言われているんだぞ」
「いいじゃないか強い王子だ」
「普段の私からそんな印象もたれるとか、恥ずかしいわ」
なんとも言い合わせない表情で絶望感を漂わせている。
俺は兄が言っていることが理解できない。変わってないと思っているから。
「ふむ」
「普段の私からどーしたら、あのような発言をするようになるんだ。政務をしている時の私とは大違いじゃないか」
政務してる時に煽るような発言はしないだろうよ。
兄は気がついていないのだ。
戦場で戦術を披露している時や、戦略を練る遊びで相手を追い詰める時に見せる笑顔のことを、あれは俺から見ても結構やばい笑顔だ。その結果俺が帳尻合わせのように、あのような発言をしているとゆうのに。
「まぁ落ち着いてくれ兄上、今更じゃないか俺が影武者になってから今日まで上手くやってこれているのだから問題はないさ」
「気持ちの問題だ」
「そんな細かいと気にしていても仕方がないさ」
「ちくしょう!!!!、だが代わりに出てくれていた事について助かった。流石アーサーだありがとう」
そう言うと部屋から兄が出ていった。疲れ切った後姿は小さく見える。
試合を見ていただけでなぜそこまで疲れるのか。
「さて、明日からまたゆっくり魔法の研究でできるな」
こうして俺の面倒な一日が終わった。