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誇りを胸に隊旗を掲げ


アドラスブルクVSプロジャ戦が続いています。皇帝夫妻のイチャコラとか、家族とのキャッキャウフフを摂取しにいらしているかた、もう少々お待ちください。



 プリグでのオストリヒテ=アジュール軍最高幹部会議の席で、プロジャの鉄道網に対する破壊工作を提案したのは、わたしである。


 イザベラ妃とゾラさまとわかれて汽車でプリグへ戻るときに、行きは利用できたプロジャ領内経由路線の切符が、とくに説明もなく買えなくなっていたので、軍がプロジャ鉄道を使っているのだなと気がついた。

 ヴァリアシュテルンまわりになって、直線距離としては近いのに時間がかかってしまった。プロジャ鉄道のほうが機関車は高馬力だし、石炭や水の補充もスムーズなのだ。


 鉄道を軍隊の移動や補給に使うという発想自体は、とくに目新しいものでもない。

 リュースがポリニカ鎮圧のためにしばしば用いていたし、バルティア・ロカーナ地方をめぐってアドラスブルクとメロヴィグ=ザフィーアン同盟が戦った七年前には、メロヴィグ軍がエトヴィラへ兵を送り込むのに使って、怯懦なグライ将軍を後退させている。

 もっともそのときは、機関車が非力な上にレールもまだすべて鋼鉄製ではなかったので、列車には兵士だけを乗せて、大砲や馬匹は船便で運んでいたのだが。


 開戦初日は、ベミエンを三方向から半包囲しているプロジャ軍のうち、四王国への宣戦布告と同時に、西配備の第三群が進撃を開始し、北がわのプロジャ第一群、東の第二群はアドラスブルク領を侵犯しなかった。

 政治的・道義的見地から、アドラスブルク帝国の宣戦布告を受けて立つかたちにこだわった、エルンスト王と宰相ディズマールの意を受けた待機であるとともに、西部第三群がサクノス王国をどのていどの時間で突破できるか、目算をつけるためだった。


 覇道ではなく王道を志向したプロジャがわの騎士道精神を逆手に取った奇襲攻撃、卑劣というそしりを否定しようとは思いません。


 むろんながら、王都であるベルンド方面に配置されているプロジャ第一群は、攻防一体の陣容であって全軍の中でもっとも数が多い。哨戒網にも手落ちがあったわけではないが、深夜に出撃したアジュール・ポリニカ騎兵部隊は、プロジャ軍がアドラスブルク・サクノス領との国境地帯すべてを薄く覆っていた警戒線の、一点のみを突き破ってプロジャ領内に侵入した。


 プロジャがわは電信によってすぐさま警報を発令、深夜にもかかわらず、見事な統制で各地の要衝を固める。

 ただし、こちらの狙いは都市でも要塞でもなければ、たっぷり砲弾を貯蔵しているプロジャ軍の弾薬庫でもない。


 ここ数年来アドラスブルクの軍容の要となっているアジュール騎兵と、ハーツィア地方で招集した有翼騎士(フサリア)の伝統を引き継ぐポリニカ騎兵たちは、プロジャ鉄道の沿線を進みながら、斧でつぎつぎと枕木を両断してまわった。

 枕木を割られると、レールが無傷でも重機関車や貨物列車は走れなくなってしまうのだという。軽編成の徐行運転しかできないとなれば、もう軍用としては使えない。


 さらにアジュール・ポリニカ強襲騎兵隊は、伐採した材木を保管している貯木施設に火を放つ。枕木の材料を焼いてしまうのだ。充分に乾燥させた、軽くて強度のある材木でないと枕木には使用できない。生木を切り倒して仮ごしらえした枕木での応急修理はできないでもないが、一編成通過するたびに再点検・修理を要する、実質使い捨てになる。


 鉄道橋や隧道(トンネル)にプロジャ軍が手厚い防御を敷いていることはわかっているので、積極的には狙わない。それでも、夜間ゆえに守備隊の集結がうまくいかなかったらしい数本の橋梁が爆破された。


 ――こうして、開戦そうそうにプロジャ第一群へ軍需物資を供給する鉄道が寸断されたが、プロジャがわは動揺することなく、翌朝にアドラスブルク帝国へ逆宣戦を布告するとともに前進を開始した。


 プロジャ第一群を指揮するのは、第二王子ゲオルクである。

 補給路が一時不通になったといっても、部隊の展開はすでに完了している。まだ戦闘は発生していないので弾薬は各部隊が充分に携行しており、プロジャ領内での宿営だったので、兵士たちの背嚢に入っている携行口糧も消費されていない。

 前線を押し出してアドラスブルクがわからの再度の強襲を困難にさせて、破壊された路線を修復すれば問題なかろう。


 ……という算段で国境を越えたプロジャ第一群が目にしたのは、鉄橋も隧道もすべて爆破され、レールはそのままだが枕木を抜き取られているベミエン北部の鉄道路線だった。


 いっぽう、第一群と足並みをそろえて東のトゥレナジェンからベミエンへ進攻したプロジャ第二群の前には、こちらは無傷のままの鉄道を利用して移動してきたオストリヒテ=アジュール軍が()()()()をすべく待ちかまえていた。


 プロジャ第二群を率いているのはプロジャの王太子ヴィルヘルムであり、将兵ともに士気は高い。前衛を率いていたシュナイダー将軍から「敵発見」の電信を受けたヴィルヘルムは、交戦許可を出した。

 兵力はどちらも三万ほど。プロジャ軍は必勝を期して戦闘に臨む。


 ヴィルヘルム王子やシュナイダー将軍が自信過剰だったわけではない。アドラスブルク帝国軍のうち、右翼のアジュール軍が装備している大砲が、50門すべてフゼッペ砲だということを知らなかっただけである。

 小銃も、フゼッペ社から買った鋼鉄製の部材で、帝国中の鉄砲工場にツゥナイゼ銃のコピー品を作らせている。まだ全軍に行き渡らせる数はないので、すべて騎兵銃(カービン)仕様で、アジュール騎兵隊に配備されていた。


 首相アングレアム伯自らが率いるアジュール軍は、後装砲の集中砲火でプロジャ軍左翼に風穴を穿ち、その間隙に騎兵部隊を突入させて完全に引き裂いた。大砲の総数はプロジャ軍のほうが多かったが、オストリヒテ=アジュール軍は虎の子の新型をすべて右翼に集めていたのだ。


 プロジャ右翼を自ら指揮し、敵左翼オストリヒテ軍を圧倒しているところだったシュナイダー将軍は、ありえない事態に驚愕しながらも、直属部隊を転回させて相手の精鋭部隊と直接決着をつけようとした。


 そこへ、帝国軍の後方から予備の砲兵部隊が進んできて、砲門を並べる。


 アドラスブルクが新型大砲を大量導入している可能性に心胆を冷やし、シュナイダー将軍は退却を命じた。


 ……もちろん、ハッタリである。撃てば前装の旧式砲だとバレてしまうので、撤退していくプロジャ軍への追い撃ちに予備砲兵隊は参加できず、大打撃を与えることはできなかった。


 いちおう戦闘はアドラスブルク帝国軍の勝利に終わったが、プロジャ軍の損害は大したものではなかった。


 後退してきたシュナイダー将軍から報告を受けた王太子ヴィルヘルムは、自ら敵軍と砲火を交えると決め、麾下のうち半数ほどになる六万の兵を集結させて前進する。


 先日に両軍がぶつかったのは、戦術的価値のある小高い台地があったからで、シュナイダー軍を退けたオストリヒテ=アジュールがわが陣取っていた。

 前衛部隊どうしの戦闘に勝ってから後続を合流させ、アングレアム伯はヴィルヘルムとほぼ同数の兵力を率いてプロジャ軍がやってくるのを待ち受けている。


 小手調べの段階は終わったと、王太子自らに率いられたプロジャ軍は気迫充分で攻撃を開始した。


 敵のうちで、手強いのは右翼のアジュール軍と踏んで左翼部隊を増強していたヴィルヘルムだったが、今度は帝国軍の中央、高台に配置されていた100門以上の大砲がつぎつぎと榴弾を放った。まぎれもなくフゼッペ社製の後装式鋼鉄砲である。


 同じ大砲であれば、高所を占めているほうが有利なのは理の当然。ヴィルヘルムが見込んだとおり、アジュール軍の砲兵隊もフゼッペ砲で間断なく榴弾を撃ち込んでくる。

 台地への無理攻めを断念し、自らが率いる手厚い陣形の左翼を盾にしながら撤退するよう、ヴィルヘルムは中央と右翼の味方へ指令を発した。 


 算を乱しての敗走ではない。そもそもプロジャ軍の基本戦略は分進合撃であり、無理して同数の敵相手に死闘を演じる必要がないよう計画されているのだ。


 われわれアドラスブルクがわの目的はプロジャ第二群に対する決定的勝利ではなく、破壊工作で第一群を足止めしているあいだにヴィルヘルム王子に新型砲の存在を見せつけることなので、これでいいのである。嵩にかかって攻めれば新兵器の数がすくないことを知られてしまい、プロジャ軍の逆撃でこちらが壊滅してしまう。


 一時撤退したヴィルヘルムがさらに自軍を呼び集め、気を取り直して前進を再開したときには、オストリヒテ=アジュール軍はベミエン東部鉄道の橋を爆破し、枕木を割ったり燃やしたりしながら、プリグ方面へと撤収してしまっていた。


 アングレアム伯率いるオストリヒテ=アジュール軍東部防衛群は、プリグ北東のムレド・ボズメルまで引き揚げ、プロジャ第二群が急進してきた場合に備えて大半を当地で待機とする。

 アジュール軍の中核部隊15000のみ、鉄道で西部へと向かう。指揮は、アングレアム伯からアジュール陸軍相バラジョヴァ大将に引き継がれた。


 そのころ、北部のプロジャ第一群は、先制奇襲で破壊された自国領内の路線と、アドラスブルク軍によってあらかじめ毀損されているベミエン北鉄道、両方の修理に追われながらの進撃で、当初の予定よりもかなり遅れていた。

 つまり、北部ではまだ戦闘でプロジャ軍を足止めする必要がない。


 西から攻めてくるプロジャ軍第三群に対しては、アドラスブルクから五万の増援を受けたサクノス王国軍が、10日ほどをかけながら徐々にプリグ方面へと後退する遅滞戦術を取っているところだった。

 サクノス軍は兵力25000、総数で75000のアドラスブルク・サクノス連合では、兵数でも装備でも上まわるプロジャ軍に正面からの決戦を挑むには力不足だった。


 それでも、サクノスの首都ドラクツェンは要塞化されており、ベミエンの西部にはアドラスブルク軍の要塞が三ヶ所あったため、大きな損害を受けることなく退がってくることができていた。


 王都ベルンドを背にしている第一群よりはすくないものの、第二群とはほぼ同規模、総員12万のプロジャの第三群だったが、ドラクツェンはじめとする占領した都市へ守備隊をおき、アドラスブルク軍の要塞を監視(要塞というのは、攻め落とすのは難しいが、野戦部隊と切り離して孤立させてしまえば、要塞砲の射程内に不用意に近寄らないかぎり無害である)する兵を配しているうちに、だんだん数が減ってくる。


 開戦から二週間ほどがすぎたところで、サクノス・アドラスブルクの国境から約70キロ(直線距離だと30キロほどだが山地があるので道なりだとけっこう遠い)、ベミエン北西部の小都市ノヴィボル近郊において、アジュール軍15000の合流によりおよそ九万の兵力を確保した三軍連合部隊が、八万弱となっていたアインフェルト大将率いるプロジャ第三群へと襲いかかった。



騎兵による鉄道急襲は、守備隊が機関銃を装備していなかった、戦史上のわずかな期間のみ有効性を期待できた作戦です。ガトリング砲はすでに発明されていて、新大陸から売り込みのエージェントが欧州各国を回ったりしていたのですが。


地球史での普墺戦争は、プロイセンが兵制や装備の面でオーストリアを上回っていたのみならず、プロイセン司令部の判断は的確で、オーストリア司令部には判断ミスが目立つ戦役でした。さらにビスマルクの政治力によって、イタリア側では紛争が再発し、ハンガリーでも叛乱危機があって、背後を脅かされプロイセン相手に戦力の全投入をできなかったオーストリアには、最初から勝ち目のない戦いだったといえます。

前提を変えてあるので、この作中世界でアドラスブルク帝国が善戦できるのは当然のことですが、プロジャ軍も、地球史でのプロイセンより強力な陣容になっています。ハンガリー抜きのオーストリア帝国を倒せばよかったプロイセンと違って、プロジャの相手は既にオストリヒテ=アジュールになっていますからね。

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