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両面《Janus》を飼いしディズマール


アドラスブルクとプロジャによるデウチェ王者争奪戦、地球史では普墺戦争にあたるパートの開始です。

恋愛小説としては読み飛ばして差し支えないエピソードとなります。

セシーリアによる頭脳戦が冴える、主人公ツエーシーンもありますけどね。



 デウチェ連合会議でアドラスブルク帝国とプロジャ王国の仲が決定的に決裂したその日のうちに、プロジャ宰相ディズマールは、サクノス、ハルファーデン、デュレンゲンブルク、ヴァリアシュテルンの四王国に対し、最後通牒を発した。


 すでにプロジャとの国境地帯に軍を展開していたサクノスに対しては、動員を解除し軍を兵舎へ戻せ、さもなくば宣戦布告とみなす――と。


 ハルファーデンに対しては、プロジャ軍に追われて逃げ込んだバームガルデン司政官以下アドラスブルクのヘムシュタイン統治委員を引き渡し、オストリヒテ=アジュール軍の武装を解除させよ、したがわない場合は宣戦布告とみなす――と。


 デュレンゲンブルクとヴァリアシュテルンに対しては、プロジャとの同盟条約に調印し、アドラスブルクとは同盟しないことを誓約せよ、しからずんば宣戦布告とみなす――と。


 ……いやはや、見事なまでの超強気、高圧一辺倒。


 もちろん、四王国は脅しに屈しなかった。覚悟を固めたからこそ、連合会議でプロジャ懲罰動議に賛成票を投じたのである。


 べつに、アドラスブルクが善なる正義の国で、プロジャは悪の間違っている国だから、四王国は旗幟を鮮明にしたわけではない。


 アドラスブルク帝国にデウチェ全域を制覇し支配する力はないけれど、プロジャ王国はデウチェを征することが可能だからである。

 四王国は、その主権を、王冠を返上するつもりなどなかった。統一デウチェ、あるいは大プロジャ帝国のいしずえになる気など、さらさらないというだけである。


 これは、ディズマールが待っていた反応でもあった。


 ディズマールはさっそく民族主義者向けのキャンペーンを張り、あらかじめ大量印刷しておいたビラをデウチェ各地でバラ撒いた。


「王家のエゴがデウチェ統一を妨げている」

「民族の悲願に背を向ける裏切り者に玉座はふさわしくない」

「デウチェはひとつ! いまこそ分断を終わらせよう!!」


 民衆へ革命を呼びかけているとしか思えない過激な論調で、これまでディズマールに協力してきた、保守派、王党派がドン引きするほどのアジテーションであり、プロパガンダ工作であった。

 各デウチェ君侯の王権をあまりにないがしろにしては、いつかプロジャ王家自身もその正統性を問いただされる日が訪れかねない。


 だが、ディズマールは迷わなかった。


 初代バルトポルテによるデウチェ征服とその後の再編成の方便によって生み落とされたにすぎない連合各国の君主と、プロジャ王家は格が違うのだと。


 プロジャは神聖帝国(ハイリジェス・ライヒ)が存在していたころから独自の君主権を確立している、アドラスブルクにつぐ歴史を誇るデウチェの王統であった。

 アドラスブルク家のことを真のデウチェ君侯だと認めていないプロジャ至上主義の立場からすれば、むしろプロジャ王家こそがデウチェ最古の、最初の王であり、それすなわちデウチェの主なのだ。


 ……ただ、実際には狂信的プロジャ王家絶対主義者は、普通選挙導入を唱え大衆を動員したディズマールを裏切り者だと考えて、その方針に同調していなかった。


 ディズマールは保守派からは革命の煽動屋だと指弾され、民主派からは反動政治家だと厭われて、結果的には政治的両翼から等しく距離を取る格好になっていた。

 イデオロギーの極所へ近寄らないように、狙ってやっていたのかもしれない。


 実態が大プロジャ極右なのか、全デウチェ極左なのかはともかく、プロジャの主導権を拒んだデウチェ連合各国に対しては、ディズマールは民族主義にもとづいた()()()として振る舞った。


「旧体制の支配者のみを敵とし人民を敵とせず」


 そのスローガンを掲げて各地の制圧にかかったプロジャ軍に対し、デウチェ諸邦国の多くは効果的な抗戦ができなかった。

 民衆はプロジャ軍を大歓迎まではしなかったものの、パルチザン活動を組織しようとはしなかったし、占領された地方行政局はこれまでどおりに仕事をつづけて、報告書と集めた税金の納付先をプロジャ政府へ変えることに同意した。


 地元君主への忠誠心が高かったり、あるいはもう充分民主的な政策に浴していたために全デウチェを覆うディズマール独裁政権誕生を危惧したり、そんな理由でいくつかの邦国では激しい抵抗があったが、戦闘となればツゥナイゼ銃とフゼッペ鋼鉄砲を備えたプロジャ軍が圧倒した。

 装備がすぐれているだけではなく、プロジャ軍は調練の面でもデウチェ連合内で一頭抜きん出ている。


 連合会議でプロジャ懲罰動議に賛成票を投じた17の邦国は、一邦また一邦とプロジャ軍によって占領されていった。


    +++++


 当然のことではあるけれど、アドラスブルク帝国とプロジャ王国のあいだでも戦端が開かれていた。


 順序としては、

 

 プロジャからサクノスなど四王国への最後通牒

 四王国がプロジャの要求に応じず

 プロジャが四王国へ宣戦布告し攻撃開始(随時周囲の小邦に対しても最後通牒を突きつけ、拒否か無視の場合は宣戦して侵攻)

 アドラスブルクが友好国への侵略を理由にプロジャへ宣戦布告

 プロジャからアドラスブルクへの逆宣戦


 という経緯であった。


 さらに、エトヴィラ王国からアドラスブルク帝国に対して宣戦布告が通知されてきた。

 プロジャは、小邦を勘定に入れないとしても同時に五ヶ国相手の戦争に踏み切ってきたが、アドラスブルクも二正面を強いられることになった。


 ディズマールに教唆されて「()()()()()()に不可分なエトヴィラの一部」たるロカーナ地方の奪還、を大義名分に攻め込んできた、エトヴィラ王国軍とカリオッツィの義勇軍に対するは、カール大公率いるオストリヒテ軍である。


 スレズヴェルヒ・ヘムシュタイン紛争で活躍したオストリヒテ海軍は、今回は母港トライエットがわ、地中海の配置となった。

 反面、北洋でプロジャ海軍を妨害する艦隊が不在となったため、ハルファーデンは海から川を遡上しての素早いプロジャ軍の揚陸作戦によって、四王国でもっとも短期間のうちに全域を占領されてしまうことになる。

 ディズマールの外交が、艦隊ひとつぶんの仕事をしたといえよう。


 プロジャ陸軍は、アドラスブルク領に対して三方向から攻め入る構えを見せていた。


 第一群は、ベミエンとの国境地帯に展開している。プロジャ首都ベルンド方面の守りを固めつつ、南下のかまえ。

 第二群は、ベミエンの東、トゥレナジェン地方に展開しており、西進するかまえ。

 第三群は、ベミエンの西どなり、サクノス王国との国境地帯に展開している。サクノスを攻め取って、その勢いのまま東進してくるかまえ。


 この三方からの分進合撃で首府プリグを陥落させ、ベミエンを掌握したら、さらに南下してオストリヒテ本領へ進攻し、帝都フィレンに迫る戦略だ。


 ただし、プロジャの各将軍は、宣戦布告を待たずに先制攻撃によって戦争を開始することを、エルンスト王と宰相ディズマールから固く禁じられていた。


 道義的正当性を求めるディズマールは、最後の最後まで向こうから最初の一弾が放たれることを待ちつづけたが、けっきょくは四王国による最後通牒の黙殺を受けて、プロジャから宣戦布告することを余儀なくされていた。


 プロジャから見ると、サクノス王国をいかに短時間で突破し、ベミエンへ進入するかが作戦の大きなポイントだった。

 予定のとおりに三日以内でサクノスを抜けられるようなら、北と東からも足並みをそろえ、プリグに向けて進撃する。

 プリグはベミエンのほぼ中央部にあるので、アドラスブルクがわは三方向すべてに迎撃部隊を向かわせるか、プリグ手前で防御陣地を築くか、選択しなければならない。


 装備の優越によって、一個群どうしでの個別の戦闘には勝利できると、プロジャ参謀本部は確信していた。アドラスブルクがわが防御態勢を取るなら、三方向から包囲攻撃をしかけることができ、さらに勝率が高まる。


 ベミエン攻防に投入可能な、アドラスブルクとプロジャ、双方の総兵力はほぼ互角であるが、三分割されているからといってプロジャがわは各個撃破される心配をする必要がなかった。

 アドラスブルクが全軍をもってプロジャの一方面群を撃破し、さらにつぎの方面群を撃破し……というような撫で斬り作戦を実現させるには、道路と鉄道が足りないのだ。


 プロジャが軍を三分しているのも、プリグへ向けて進んで行ける交通手段が許す、上限の数をそれぞれに振り分けているからであった。

 したがって、アドラスブルクがわに可能な防戦手段はパターンが限られる。


 もし一方面のプロジャ軍のみに狙いを絞って、アドラスブルクの全軍が向かってくるなら、残余のプロジャ二個群はプリグを攻撃する。仮に一個群が全滅しても、プリグを陥落させるほうが重要だ。

 北か東か西、いずれかのプロジャ軍に全力をたたきつけたアドラスブルク軍が、つぎの獲物に追いついて攻撃をしかける前にプリグは陥ちてしまう。


 プロジャの戦略プランを構築した参謀総長メネルケンは、立案した作戦に自信を持っていた。実際、どうあがこうとアドラスブルクに勝ち目はなかった。負けずにすませるのが限界である。


 電信による作戦伝達網を完備しているプロジャ軍は、進軍ペースを調整して足並みをそろえることができるので、戦略目標であるプリグから等距離には配置されていない、ただその一点だけがつけ目だった。


 友好国である四王国へのプロジャの侵攻を理由に、アドラスブルク帝国が宣戦布告を発したのは、プロジャが宣戦した日の深夜23時。

 宣戦布告と同時に、あらかじめサクノス北国境まで移動して待機していた、アジュール人とポリニカ人で編成されている騎兵部隊がプロジャ領内へと突入し、鉄道網に対する破壊工作を敢行した。


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