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跡に残るは雪ばかり。  作者: 朝日 橋立
第三章 新しい生活について
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第三十五話 将来のことについてです。

 新しい年が始まって幾許か経った頃合い、私が丁度十二になった日のことです。

 私はレイラさんとお茶をしていました。

 いつも関わっているルナさんやソフィアさんは、その日は何やら用事があったらしく、早めに帰ってしまったそうです。それに、レイラさんは少し怒った調子で言っていました。

「あの人達はどうして全く何も言わないのよ」と。


 その様子が少し面白かったのを覚えています。

 ですが、諫める様に言います。


「お二人とも色々忙しくて忘れていたんですよ。お二人とも、きっとお見合いとかがある筈ですよね」

「そうだけど……。酷いと思わない?」


「まあまあ」と、諫めながらもふと思ったことを問いかけます。

「そういえば、レイラさんはお見合いとかはないのですか? 毎日こちらに来ていると思いますが……」


 口にしてから、しまったと後悔をします。

 プライベートが過ぎる話題でありますから。


「そうねー」と、レイラさんは頬杖をついて、悩ましそうに唸ります。

 依然として、その様子を残したまま口を開きます。


「結婚をしようか迷い中なのよね」

「迷い中ですか? えっと、修道院にでも入るのですか?」

「そういう訳じゃないわ。純粋に嫌なのよね。政略というのかしらね、それに翻弄されるのが」


 確かに、豪商の娘にはそれなりの相手が宛がわれるのでしょう。

 よくよく考えずとも、そういうのは何だか嫌だなと思います。


 なるほどなー、と心中で納得をしているとレイラさんは口を開きました。

「だから、此処を出たら外へ行こうかなと思ってるの」と。


「外というと、北のミンチェスターの方ですか?」

 自分の故郷の景色を思い出しながら、レイラさんに問いかけます。

 彼女は、ゆっくりと首を横に振りました。


「そこじゃまだ外じゃないでしょう」

「えっと、それじゃあ更に北の方ですか? あっちはやめた方が良いと思いますよ。山ばかりですし、大きな町がないので生活が大変ですから」


 流石にグラテンの北の方は生活が難しいだろう、とレイラさんを引き留めようと言葉を弄していると、彼女は溜息混じりに言いました。


「まず貴方は、勘違いしてるわ。私は国の外に行こうと思ってるの」

「国の外ですか。それはまたどうして?」

「考古学を勉強したいと思っているの。だから、こっちよりも外の方が勉強しやすいでしょう」


 何だか凄い行動力だな、と驚きました。

 そもそも国外に出よう、という考えさえ私にはどう足掻いても出てこないものでしょうから。


「えっと、フランツさんから許可は下りているんですか?」

「ええ、お父様には許されてるわ」

「許されるものなのですね」

「それは当然よ。私も色んな所に手紙を出したりして、頑張っていたもの」


 レイラさんもレイラさんで、将来のためにいろいろと行為を始めているのだな、と何となく感心しました。


「いつ頃この国を出ていくのですか?」と、問いかけます。

 レイラさんは悩みがちに、顎を撫でています。


「そうね、卒業したらすぐに行こうと思うわ。だから、もう少しね」

「もう少しですか……。卒業は何月頃なのですか?」

「四月の中頃だった筈よ。まあ、でもそこから準備をする期間もあるから実際に出るのは、たぶん五月の初めになると思うわ」


 もうだいぶちょっとの時間しか残されていないのだな、と思うと寂しくなりますが、同時に彼女の門出を応援したいという欲求もありました。


「だいぶ早いですが、頑張ってください。応援しています」

「ええ、勿論よ。ありがとうね」


 レイラさんは、微笑むと少し悩んだ様子を見せて言います。


「そういえば、貴方は将来のこととか何か考えてるの? まだまだ早いと思うけれど」

「そうですね……」


 レイラさんの問いかけに、少し考えます。

 自分はどう考えているのだろうか、と。


 きっと、将来のことなど何一つ考えていなかったでしょう。

 誰か良い人と何というのでしょう……。結婚をしたいという欲求はたぶんないのです。でも、そういったものを未来に描いている。

 本当によく分からない妄想をしていました。


「そうね……。何かしたいこととかはあるかしら?」と、答えに窮す私にレイラさんは助け舟を出してくださいました。

 しかし、そう問われても難しいものです。


「したいことですか……。たぶん先生ですかね?」


 焦って考えた末には、白々しい嘘が出ます。

 一見して偉く見える仕事で、お茶を濁そうと思ったのです。


「へえ、それは良いじゃない! 子供とかが好きなの?」と、レイラさんは驚いたという様子で口を開きます。


「そうですね。……たぶん好きだと思います」

 故郷でのことを思い出しながら返答をします。

 あちらの方では、一応私もお姉さんでした。

 ですから、小さな子とも遊んでいました。彼らの凄まじい体力には心底驚いたものです。私には全くもって理解のできないものでした。


 思い出せば、そもそも木陰で昼寝ばかりをしていた私と、走り回っていた彼らでは随分と体力に違いがあるのも当然のものです。

 少しだけ微笑みをこぼしたのを覚えています。


「もし先生になったら、シアはずっとここにいるの?」

「そうですね……。一度故郷に戻るのも良いかもしれません」


 その後も適当な会話を続けたのを覚えています。

 純粋に楽しい、今後の別れを感じさせない雑談です。

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