第二十五話 ちょっとした幸福の自覚です。
この頃忙しくて、執筆の時間がないためとりあえずで連載を再開しています。本章最終話がまだ途中なので、11話ほど投稿してたぶん止まります。
これからバンドとかも始まるので、さらに忙しくなって連載のお休みが長くなりますが、許してくださると幸いです。
……思えばそうです。
私はきっと幸運だったのかも知れません。
けれども、その幸運すら帳消しです。
空には、沈むことのない太陽が私を嘲笑っています。
これが現実なのです。
過去に幾ら美しい幻想、幸福を夢見てもそれが些かわざとらしく見えます。
思えばそうです!
私の人生は全てがこれです。
全てがその先にある不幸の舞台装置で、それをより際立たせるための過程に過ぎないのです。
ええ、そうです。ですからこそ、私は幸せだったのです。
……私は不幸です。
それは忘れてはいけません。
でなければ、きっと此処で死んでしまう。
死にたくはありません。
私は甦る過去にただ縋りました。
今の不幸を裏付ける良かった思い出に、ただただ縋りました。
その日は欠伸をしながら部屋の天井を見上げていました。
ここ最近、短い間に色々なことが起きたような気がします。
初めは学校に行くことになって、それから色々な人と出会って、遂にはチャールズ男爵ともよく話すことが出来ました。
人生は不幸の連続だと考えていました。
全てが私を苦しめるために存在し、そして作動をすると。
どうしようもない自己中的考え方です。
けれども、これの間違いを確信していました。
人生には幸福があって、全ての不幸はそれへの過程に過ぎない、と。
さて、このまま惰性で寝続けてはいけない、と思いながらも再度欠伸をします。
ベッドから這い出し、適当なものを探します。
その中でふと思い立ち、ペンを手にします。
そして手の甲にインクを付けました。
紙であるとか、他の布の類いに付けるのはどうも憚られました。
自己本位的な事柄で、借り物であるとか、貰った物を無駄に汚すのは越えてはいけない一線に思われたのです。
手の上でインクが乾いていくのを待ちながら、ただその様子を眺めます。
魔法の練習をしよう、と思ったのです。
少し前、魔法が出来るようになりました。
そのあと、フランツ・クロージャーさんにお褒め頂いたこともありました。
ですが、まだ完全とは言えないと思うのです。
些か出が遅いのです。
何事にも時間とかいうのは、短ければ短いほどよいと思います。
やっとインクが乾いたところで、魔法を使います。
こすり落とすイメージではなく、汚れをパッと消すイメージです。
ぐぬぬと唸り声を上げます。
手のインクは依然としてあります。
魔法はたぶん人体の機能の一つです。
それもひどく融通の利かない不便なもの。
ですから、明確さが必要なのでしょう。
「うーん」と、唸りながらベッドに座ります。
……大本から削り取って落とす形ならどうでしょう?
ふと思いついた考えを試してみます。
肌の一番外、そこを掠めるようなイメージで……。
……あっ、成功しました。
「なるほど……」と手の甲を見つめます。
この方法はそこまでやるべきではないかも知れません。
肌が剥がれたような跡があります。
……少し後悔しました。
痛くはありませんし、そこまで大きくもありません。
でも、これはたぶん自傷の一種です。
ソワソワとする不安というべきか、それらに駆られてどうするべきかと悩みます。
結局、どうするべきかも思いつかず、放置することにしました。
そうこうしているところです。
扉が叩かれました。
「はい、どうぞ」と反射的に答えたところで、気付きました。
あっ、もう直ぐ学校の時間だ、と。
朝ご飯も食べていませんし、やらかしてしまいました。
「シア、起きているかい?」とチャールズ男爵の声が聞こえます。
「はっ、はい。起きてます。少し待ってください」
ドアの外に言ったあと、急いで制服に着替えます。
ふと、手の甲が目に映りますが、これに大きな問題はないだろうと結論づけます。
今更どうするかを考えている時間はありませんし、たぶん直ぐに直ります。
そうして諸準備を終えたところで、扉を開きます。
「すみません。お待たせしました」と、目前にいるチャールズ男爵に謝罪します。
彼は大丈夫だと言ってくださいました。
さて、それから朝食を頂きました。
パンと少しのお肉です。
それを急いで食べ終えます。
その頃合で、チャールズ男爵は問いかけてきます。
「何か怪我でもしたかい?」
一体どうしてそのように思ったのか、と疑問に思いました。
当時には、恥ずかしいことですが手の甲の傷ともいえないものを忘れていたのです。
ご飯を早く食べないと、と急いでしまって。
「いや、気のせいか。すまない」と、彼は私の様子から誤解だと考えたようです。
「大丈夫です。どうしてそのように考えたのですか?」と、気になったので問いかけます。
「さっき手を気にしているようだったから」
「手の甲……ですか?」
ふと、自分の手を見て思い出します。
そういえば、と。
何か訂正をしようか、と考えます。
けれども、今更気付いたように声を出すのも、厭らしいように思えました。
色々悩んだ挙げ句、時間は流れ、同様に話題も流れます。
結局、話を戻すことも憚られました。
やはり、私はよく気を掛けて貰っていたのだと思えます。
やっぱり私は幸福だったのでしょう。
お久しぶりです。
本章は毎日投稿します。理由は興味があるからです。
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