押っ忍! 魁!! 古の少年マンガの人達!!! VS 婚約破棄王子
天覧塵地螺鈿大殺界準決勝は王立学園卒業パーティ会場の一角で行われた。
死合形式はこれまで通り勝ち抜き戦。
激闘に次ぐ激闘。ついには鬼才バロン・ノーバディを前に
俊英ラウンドタイガーが魁組の意地を見せたその代償に命を散らそうとしていた。
一方卒業パーティもまた佳境を迎え、王太子イツァークが覚悟をその目に宿し
自らの婚約者であるエーデルワイスに対峙していた。
戦友が奈落の底へと落ちていく。
「ラウンドタイガー!!!!」
俺の叫びに、戦友は笑みを以って応えた。
言葉はなかった。ただ納得と信頼だけがあった。男の死に様だった。
「エーデルワイス! 今、この場で君との婚約を破棄する!!」
その笑みに言葉を失う俺たちの前で無情にも機械仕掛けの落とし穴が閉じる。
戦域全体に埋設された25のデストラップ。その26番目。
哄笑が響く。
「レティシア嬢への陰湿な嫌がらせの数々! こんな女を未来の王妃になど出来るものか!!」
「貴様!!!!」
「そうだ、俺だ! このバロン・ノーバディ様だ!」
俺の叫びに応えるは戦域の中心に佇む魔人。
シルクハットにマント、モノクルを象った仮面。怪盗を気取ったスタイル。
「俺の奇術は奴を嵌めた。戦域のデストラップを一つ誤認させ、誘導した!」
「あくまでしらを切る気か! レティシア嬢の勇気ある証言こそが確たる証拠だ!!」
だが、今や見る影もない。
全身に潜ませた奇術の種は全て使い切り、装備は砕かれ、その身に傷を負っていない部分を探す方が難しい。
満身創痍。どれだけの苦痛をおして立っているのか。
「よって王太子イツァークの名の下に、エーデルワイス! 君を追放刑に処す!!」
「俺が殺した!!」
誇らしげに叫ぶ。
「………………」
「さあ、次は誰だ! 貴様らの中にラウンドタイガーほどの勇士は居るのか?」
ゆっくりと靴跡の形に血だまりが出来ていく。
放っておけば、この男はそれほど間をおかず死ぬのだろう。
「……あのごめんワイス先刻から目茶苦茶気になってたんだけどこの人たち君の知り合い? え、君も知らないの? 怖っ――――」
「でなければ、一人残らず死ぬことになる。俺の奇術がすべて殺す!」
「貴様……」
鏖殺の宣告に、漏れた唸りは怒りを欠き、それに倍するような熱を帯びる。
「―――逃げよう」
俺はたまらず跳躍し戦域へと着地、すかさず高速側転3連。二つのデストラップを同時にかわす。
事前の順番を無視し舞台へと上がった俺に、仲間たちから非難の声があがる。
「泣かないで、ね? 歩けそう? そう、大丈夫。刺激しないようにそっとね。そうだね。昔からワイスは強い子だ」
「俺はトーガの子シー。戦友の仇を討つため、また倒すにふさわしい勇士の為、これより全身全霊を以って戦うことを父の名に誓う」
「バロン・ノーバディ。ここからは種も仕掛けも無しだ」
決着は一撃でついた。
バロン・ノーバディ、貴様もまた強敵だった。
王太子と婚約者は異次元方向の超常現象を前になんやかんやでよりを戻した。
二人の勇士の命が王国の不和を救ったのだ。
あとラウンドタイガーは次のシーズンで特に説明もなく実は生きていた。
同じく何の説明もなく生きていたノーバディはなんとなく仲間になった。
以後ノーバディは完結(実質打ち切り)まで4回くらい戦うことになる。噛ませ犬とサブレギュラーの中間くらいの位置をキープした。大健闘と言える。