禍神の気配_2
場所は戻り季節の国・陽春の市街地にて
弥生『えへへ、抹茶黒糖タピオカミルク美味しい!パパにも一口あげるね!はい、どーぞ!』
月読『も〜!!弥生ってば本当に可愛くていい子なんだから…!!』
ご希望の通り弥生は己が望んだタピオカを満喫しており、一口あげると満面の笑みで差し出す弥生を月読はデレデレとしながら撫でくりまわしている
そしてそれを遠目に見ながらズズッ…とタピオカミルクティーを飲んでいるのが卯月と皐月だ
卯月『まぁ、通常運転だね』
皐月『平和だし、それが何よりだよ』
まぁ確かに、と卯月はコクリと頷きながらタピオカミルクティーを喉奥へと飲み込む。
弥生とキャッキャっと戯れている月読だが、クルリと顔だけ卯月達の方にやると「こちらへおいで」と呼んだ
ニコニコと笑いながら呼ぶ月読だが、言葉からは「おいで」と言うより「来い」という命令形に近いものを感じ、月読が我が子に向けてそう言う時は何かしら危ない状況になる時だ
それを直ぐに感じ取った2人はそそくさとすぐに側に寄り月読は「いい子だね2人とも」と片腕で卯月と皐月の肩を抱き寄せ月読と卯月達に挟まれた弥生は「苦しい〜…」と不満の声をあげていた
月読『そうだよね苦しいね、ごめんね弥生。もう少しだけ待っててね』
その言葉に弥生はムムっとしてたが月読が空いてる片手に釘バットを出したと同時に弥生達の背筋にゾッと悪寒が走った
禍々しくとても嫌な気配が、気持ち悪くなるような、身体の底から穢れてしまうような気配が近付いてくるのを感じ取り弥生はムッとした雰囲気から一変して黙って月読にピッタリとくっついていた
本能的に「ヤバい」と、悟ったのだ。
周りの神々も何かが来る、と察してるのかその場から姿を消す者や店の奥へと引っ込むもの、結界を張り状況を見極める者など様々である
因みにだが月読が手にしてる釘バットは月読の弟である対須佐之男用であり、しょっちゅう須佐之男は意図的にでは無いとしても水無月を泣かしたりしてるので、何かあれば月読がこの釘バットで須佐之男を強制的に追い払っている
あわよくば頭にクリティカルヒットすれば万々歳といったところだ、まぁ安定の仲は超絶に悪い
弥生『パパぁ…』
これ本当にヤバいのでは、と不安そうに弥生は月読に呼びかけるが月読は大丈夫だと言わんばかりの優しい笑みを弥生に向け手に持っていた釘バットを横から上へと振るうとガンッ、と飛んできた瓦礫がぶつかった音がした
ついでに頭上から微かにだが「痛っ!!」という声も聞こえた気がした……、いや確かに声がした。
聞き慣れた声が確かに聞こえた。
須佐之男『げっ!!月読兄様どいて退いて!!ぶつかる!!!!』
月読『………あ”?』
頭上からの声の正体は建速須佐之男命、通称は須佐之男であり三貴子一柱、即ち天照と月読の弟だ
刀を片手に何やら禍々しい気配と共に上空から落下してきているが月読は低音の一言だけを発し、訳すれば「お前が退け」という事だ
須佐之男『俺絶対悪くないのに!ちょーーっと退いてくれれば良いのに!!』
俺可哀想、と叫び泣き真似をしながら何とか近くにあった建物を駆使し、数十メートル先に華麗に着地する事に須佐之男は成功した。
そして直ぐに立ち上がると何事も無かったのように月読に話しかけた
須佐之男『月読兄様、禍神だよ。何故か八十禍津達居ないし経津主神達もいないから、遊びに来ようと思ったこの俺が~』
月読『どうでも良い、早く倒せ。うちの子が怖がっているんだ。禍神をお前が倒すのが先か、私がお前の脳をかち割るのが先か試してみるか』
須佐之男『ただちょっと経緯を話してただけなのに!!』
着地したと思った途端ベラベラと悠長に話し出す須佐之男に月読はイラつきを既に隠しきれず釘バットを片手に本当に須佐之男に殴りかかりそうなのを弥生が「パパ行かないで!!」と、しがみついて止めている
正確には怯えている為にしがみついているのであり、須佐之男の事はこの際二の次三の次レベルではある。
そして須佐之男は月読を怒らせるのは己の命が脅かされるくらい危険と知っている為、急いで刀を握り直し禍神へと向かい走っていく。
実際のところ正面から月読とやり合えば須佐之男が勝つのだが、我が子が…暦神達が関わっているのならば話が変わってしまう
月読命という神は、前にも話した通り我が子をこれでもかと言うほど愛している。
そう、親バカである。親バカである為か、何故か暦神達が関わると戦闘能力が上がり何をするのか分からないくらい怖いのであり、その為須佐之男は月読をかなり恐れている。
早急に倒さなければ己の命が危ないと感じながら、刀を交じ合わせ、空いた片方の手で更に刀を出すと相手の目を潰す
更に暴れまくる禍神の攻撃や飛んでくる瓦礫を須佐之男は避けながらタンッ、と軽やかに跳び正確に首元を狙い勢いよく跳ねる
そのまま霧のように消えていくがこれでおしまいという訳ではなく、神直日神達がこの場を清めやっと終了するのだ。
須佐之男『ふぅ……』
やっと終わった、と須佐之男は安堵の息をつく。
正確に言えば禍神が消えた事への安堵では無く、禍神が消えた事により月読の怒りが収まりそれにより己の命の危険が去った事に対しての安堵ではある。
須佐之男『あぁ、そうだ。どうせ姉上達気付いてるとは思うけど、一応神直日神達にもこの場所だと知らせておいて。』
正確な場所の把握と一刻も早くのこの場の浄化を、と須佐之男は己の神使を使い直ぐに報告へと向か合わせた。
月読『遅い。』
そして月読はムスッとしながら須佐之男を見ており、手元は弥生を撫で回している
須佐之男『いやそんな弥生を撫でながら言われても…』
威厳もクソもない、と須佐之男は内心思ったが口にも態度にも出すのはやめた、自ら己の命の危険に晒す必要は無い。
卯月『須佐之男叔父様、ありがとうございました。』
ムスッたれている父である月読の代わりに、とでも言うように卯月はすかさず倒してくれた叔父に感謝の意を伝えた。
須佐之男『あー……お前は出来た子だなぁ…』
父親に似ずに育ってくれて、と内心ほろりと涙を零すが絶対に口には出さない。無論言ったら己の命が最後になるかもしれないからだ。
数分後には神直日神達が現場に到着し、場を清め市街地は正常に戻り、先程の騒ぎが無かったかのように場も復活されまた賑わいを取り戻したのだった。