月読命のお茶会_2
月読『あぁ!やっと来たんだね我が愛しき子達よ!』
弥生『パパ!!』
桜舞う暖かな世界、ここは陽春の中でも最も美しいとされる場所…人間的に言えばガーデンカフェの様な場所でありまた神達の溜まり場でもある、そこを月読命が貸し切ったらしい
ひらひらと舞い散る花弁の中、ガーデンテーブルに1人先に座ってぶんぶんと大きく手を振るうのは暦神達の親である月読命
銀髪の美しい髪に紫の透き通った瞳が細められ笑みを浮かべている
品もなく大声で子供達の名を呼び手を振りとしている男こそが三貴子であり天照達と姉弟神の夜を彩る月と暦の神である月読命
この高天原でもその権力はかなり大きい
そんな月読命に裳と引腰をなびかせて駆け寄るのは3月の暦神である月弥生命、暦神の中でも特に月読命に懐いており、よく甘えている
今でも駆け寄ったかと思えばそのまま月読に飛びつき、それを受け止めた月読に頭を撫でてもらい嬉しそうにしている
卯月『お父様、お待たせしました』
皐月『遅くなり申し訳ありませんお父様、これ僕達からのお土産です』
弥生に続き卯月と皐月も月読の傍へと近付き一礼をしてから、皐月が手に持っていた紙袋を手渡す
中身は人間界で流行っている餡蜜だ、ふんだんに使われたフルーツにこだわりの餡子、もちもちとした程よい弾力の白玉団子にそれをまとめるは黒蜜と若者から年寄りまでとヒットしているそうだ
それを神達が見過ごすはずもなくすぐに高天原へと持ち帰り店が出た
神達にとって人間が生み出したものを同じ様に作るなど造作もないこと、全ては神が生み出した産物だ
月読『これはこれは…!ありがとう卯月、皐月、お父様は嬉しいよ』
紙袋を受け取るやすぐに満面の笑みを浮かべ、席に座りなさいと促し卯月と皐月は着席し、弥生は月読により座らされた
テーブルには抹茶のクッキーやバウムクーヘン、きな粉味のマカロン、マロングラッセや生クリームの入ったどら焼きに桜餅と様々なスイーツが用意されていた
月読『せっかく買ってきてくれたんだ、共に食べようではないか』
そう言うなり紙袋から餡蜜を取り出すとそれぞれの前へと置いた、いつの間にか餡蜜から冷えた空気がする事から月読が冷やしてくれたのかと察する事ができる
月読『まだ5月の半ばではあるが直に夏へと入る、春が無事過ぎ去る事を祝い労おう我が子達よ』
暦神『お褒めの言葉、感謝します月読命様』
美しく凛とした笑みを浮かべる月読命に暦神達は感謝の言葉と共に頭を下げた
月読『さぁおたべ、餡蜜も冷えていた方が美味しいだろうから』
と、仕事の話はもうおしまいとパンパンと手を叩き、プライベートな空気へと作り替えた
たったひとつの拍手だけでその場の空気を変えられる人物など早々居ない、そう思うと流石父だなと暦神達は不思議と誇らしげに思えてくる
弥生『パパ〜、私そのイチゴ欲しいなぁ…』
早速と弥生は甘えた声を出して月読の餡蜜に乗っかっているイチゴが欲しいと強請り出す、変わりに自分のさくらんぼをあげるからと交換条件付きだ
月読『良いよ、そのさくらんぼも弥生がお食べ』
にこっと月読は弥生の餡蜜にイチゴを乗せると、弥生はパァァァっと花のような笑顔を見せその笑顔を見た月読は先程の美しい笑みとは程遠いデレデレのだらしない表情を見せていた
娘の笑顔は何度見ても癒されると感嘆のため息をついている様子を見て卯月と皐月は苦笑いしか出てこないが、これが月読命という神であり自分達の父親である
月読『あ、そうそうあのね卯月、皐月』
デレデレの表情とはまた一変して、今度はウキウキとした表情を浮かべながら二人の方へと向き直る、相変わらず百面相が出来るのではないかと思うくらいの表情の豊かさだ
今度は何を企んでいるんだと思いながら卯月は問いかけた
卯月『どうしたんですか、お父様?』
月読『あのねあのね、5月下旬辺りに夏頑張りましょう会なんて開こうと思うんだけど、どこが良いと思う?』
あの子達が喜ぶ場所が良いなとウキウキとした表情とキラキラと瞳を輝かせた
こうして何かと理由をつけては我が子と交流したいとなるのが月読命だ、その様子を見ては「またか…」と苦笑いを浮かべるしかないのが卯月達なのだが
普通に会いたいと言ってくれれば良いものを、とは思うがそうなると自分でも毎日会いたいと言ってしまうのを自覚してるが故にこうしてるのかと考えてしまう
月読『ほらそれに、水無月の事も心配だからさ』
父様は子供達と会える事が楽しみなだけじゃないんだよ、とエッヘンと胸を張る
月水無月命、通称は水無月
6月を司る暦神である
月読が心配するのは水無月の泣き虫で自分を卑下する性格にある、話せば長くはなるが水無月という神は神にしては傲慢ではなく臆病で、気弱の泣き虫で、そしてそんな性格な者に自分に自信がある訳がない
初めから今に至るまでの性格な訳では無いが、元から気弱な性格だった
そして任された6月という暦は人間には嫌われやすい暦であった、恵みの雨と言えば聞こえは良いし確かにその通りなのだが、やはり梅雨という時期は嫌われやすい
現代においても低気圧と雨の因果関係は外せないし、雨ばかり降っていては退屈だという声もある
もちろん、その声は水無月に届く為に今の性格になってしまったのだ
皆から嫌われやすくジメジメとした季節、水無月は自信を無くしいつも涙を浮かべている
水無月本人も6月が嫌いになりかけているという深刻な問題付きだが、それでも何百年何千年何万年と永い時の間に暦の管理を辞めずにいるのは月読命のおかげだ
例え水無月が何時間と泣き続けようと泣き止むまで月読はそばに寄り添い、愚痴をこぼしたいと言うならば満足するまで付き合う
親の務めだともと言うし、純粋に泣いている我が子を見たくないとも言う
その父親の姿に水無月は期待に応えたいと言うし、この仕事を辞めてしまえば本当に何も出来なくなる気がするとも言う
そろそろ夏の季節に入る、皐月の次は水無月の番だ
出番が近づくにつれ水無月が涙を流してないか不安ではないかと案じて「夏頑張りましょう会」を開きたいと月読は言ったのだ
皐月『文月や葉月はともかく、水無月は人混みが多い場所を嫌いますし今のように少人数の限られた人だけ…というのがやはり安心するとは思いますよ』
そうにこやかに答える皐月は水無月の良き相談相手である、季節のバトンを渡し渡されの関係であり皐月の性格的にも水無月にとっては月読の次くらいに相談しやすい相手なのだ
月読『そうだねぇ……、貸切に出来て尚且つオシャレな所を探してみるとするよ』
そう答えながら、月読はスプーンで黒蜜のかかった白玉をすくい口へと入れた