7枚目 気絶
「もうそろそろこのへんかなー?」
瑠璃の声が草原に響く。
よくもまあまだ元気だと思う。そういう私は半死に掛けていた。
「ゴホッ。ゴホッ……死ぬ……」
「なんで死んじゃうの!?」
思い出したんだけどあの林檎、私にとって体力回復薬だったけど、瑠璃にとっては一時空腹無効になってた。
何じゃそれとは思ったが、あの林檎は自分がほしい時に望んだ付与を与えられるのではないかと思い、試してみた所、一時速度上昇がついていて。
そしてそのせいで風に抵抗できずに肩の手を離してしまった。
奇跡的に落ちなかったのは良かったが、宙ぶらりんで地面に手がつかないほどの速度だった。
絶叫マシンを体験したことがある人ならわかるだろう。逆さになっても遠心力で落ちないあれだ。
もし、表情が動かせれば無表情どころではなくなっていただろう。
いつもの癖でマップを開いた所、現在地不明になっていたのを思い出す。
無駄だと思いしまうと、瑠璃がマップを開いていたみたいで、おわっという驚いた声を出していた。
「マップになにか追加されてる。方位魔石……方位磁針だよね」
瑠璃が開いたマップから、紫色の結晶が浮かび上がった。
「えーとなになに。念じた方向を指す……まんまやん。試すか」
というと、アリレアさんからもらった地図を開き、西の方角を念じ始めた。
すると、方位魔石は紫色の光を仄かに放ち、念じた方向を指す。
そのままといえばそのまままだ。それなら方位磁針で良かったのではないかと思うが、ファンタジー補正ならしょうがないこともある……というのをゲームの知り合いが言っていた。
まあでも、一応方角はあるみたいだから方位魔石のように方位磁針に似たものがあるということがわかる。
「あっ、反対の方角に来ちゃってたみたい。戻るよ」
「は?わあああああああああ!」
その後、完全に私が気絶したのは言うまでもない。誰かこれで気絶しないでいられる方法を教えて。
途中で降ろしてもらい、自分で走ることにした。
瑠璃より速度は落ちるが、林檎を食べているため大差ない。
と思っていたが、自分の体力のことを忘れていた。
「なんでトーカ体力が一桁に近いの?ボク三桁近くはあるんだけど」
今、なんて?
瑠璃が不思議そうな顔で尋ねているが、そんなこと私が知りたい。
というかそれ、私の十倍近くあるんじゃないですかね。
試しに瑠璃のステータスを見せてもらった。
名称 ラズリ
種族 人族
性別 女性
Lv 0
体力 97
魔力 9
SPLv 0
取得魔法 ―――
スキル 巫女姫 亜空間収納(小) 結界作成 転移者 はぐれ
固定武具 ―――
巫女姫
結界作成補助の効果、白弧のステータス管理。
結界作成
結界の作成可能。魔力がある限り作り続ける。
不公平だ!訴えてやる!もちろん運営に!その他諸々についても。まあ訴えられるんだったらこんな何処かも分からない所から脱出しなきゃいけないけど。
思わず取り乱しかけた。混乱を解くついでに瑠璃と私の能力を比較する。
瑠璃には体力はあるが、魔力は私のほうが勝っている。僅かな差だけど。
それ以外のスキルは大体私と同じで、唯一違うところといえば固定武具がないところだけだ。
何故巫女なんだろうと思ったが、瑠璃は拠点を神社のようにしていたらしい。
神なんて信じてないけど、衣装を取るためには拠点を神社にするしかなかったらしい。
「そこまでする……?」
「するよ!これには結構悩んだなあ。というかトーカは庭師だったじゃん」
あれは趣味であって衣装のためではない。ただ、ゲーム内で植物を育てようなんて私以外いないと噂が耳に入ったことがある。そのせいであの温室は観光所となっていたけど。
「それにしても、私の体力って一体」
「ま、まあいいんじゃない?魔力は少し多いみたいだし」
瑠璃が慰めてくれるが、私は体力がないことでまた瑠璃に引きずられながら気絶するところを気にしてい る。
魔力が多くても植物しか出せないし、魔法なんて覚えられるかどうか分からない。
「んー、じゃあトーカのステータス見せて?」
「いいけど」
といって自分のステータスを瑠璃に見せると、前と対して変わらないステータスだった。
瑠璃は面白そうにしげしげと見ているけど、私には至って普通のステータスだ。
「ねえトーカ。緑王って王って割に残念なスキルな気がする」
「それは私も思う」
本当に何なんだろう。これ。
どこでも植物が出せるっていうのはありがたい。ただそれ以外なにもないのだ。
誰がこんなスキル考えたんだろう。植物は育てる過程が楽しいのに。
「まあ、それ以外はいいんじゃない?」
「そっか……」
何かそれ以上聞きたいことがあるように見えたが、あえて聞かないようにしておく。
休憩した後は、再び瑠璃が走り出す。
瑠璃は調子に乗り出して速度を上げて、私は半気絶状態から気絶状態になり始めた。まだ意識はあるみたい。
いやー、子供の体力ってすごいね。私も子供だけど。
「そろそろ着きそう?」
「うーん、もうそろそろだと思うんだけどなー」
瑠璃はもうだいぶ走ったはずだ。まあ走ってつくはずもないのだけど。
瑠璃の速度は無茶苦茶早い。しかも林檎による無尽蔵な体力であの休憩以来一切休憩らしい休憩をとっていないのだ。
「瑠璃、大丈夫?」
「えー?方角間違えてないんだけどなー」
心配になってきたが、予想とは違う答えが帰ってきた。
訂正するのもどうでも良くなり、そのまま話題を続けることにした。
「引き返す?」
「いいや、止まれない壁に当たるまで止まれないか、林檎の効力を使い切るまで絶対に止まれないと思う」
直進列車かよ。
「じゃあこのまま直線に進む」
「了解」
私達は引き返すことなく、そのまま真っ直ぐに街があると信じて走っていった。
「はあーやっとついた」
方角と小さな地図で、よくたどり着けたと思う。本当に。
ここまで苦しい旅だった。主に私が。
「ごめんねトーカ。あんまり気が付かなかったんだ。ほんとにごめん!」
瑠璃が両手を合わせて謝るが、私は怒ってなどいない。
ああ、無表情で何考えてるのかあんまりわからないのか。
「大丈夫、おこっ、てない……から……」
「怒ってないのはもともと分かってるから!それより体力!体力確認して!」
そう言われてステータス画面を開くと、私の体力は一と書かれていた。
これ、零になったらどうなるんだろう。
試してみたいが、死んでしまっても嫌なので応急処置をする。
といっても林檎を一口齧るだけですむのだけど。
「はあ、トーカが死んじゃうかと思った……」
「そう思うんだったらもうちょっと速度を落としてほしい。
「はあい」
本当に速度を落としてくれるんだろうか。
いや、私ももう少し体力増やさないといけない。
悪いのは私のせいなんだから。
「トーカ」
「なに?」
「トーカ、また自分が悪いとかって考えてるでしょ」
どうして分かったんだろうか。無表情のはずだけど。
「エスパー?」
「顔に出てるよ」
「顔に?」
何があっても無感情なこの表情は、一切感情を微動だにしない。
鏡を見て確認しようと思ったが、ここにはない。
別に意識して無表情にしているわけではないが、どうしても無表情になってしまうのだ。
「あー、そうじゃなくて、ずっと一緒にいたから、トーカがそういう時する顔って言うより雰囲気がわかりやすいんだよ」
私そんなに雰囲気わかりやすいかな。
表情が出ない分雰囲気で伝えてしまうのか。
「あーあ。自分を責めないでって昨日言ったばっかなのに。どうしてそう他人〈ヒト〉のことを気にするかな。って、ボクだけど」
「大丈夫だから」
瑠璃に心配させないために、気配を消す練習でもしようかな。