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怠惰な人間の植物記録手帳  作者: 佐籐 光天
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4枚目 白狐の面と林檎

ちょっと遅くなりました。

 前回、頬を引っ叩かれ、喧嘩し、仲直り(?)をした。

今の瑠璃はものすごく機嫌が良い。それはもう、先程のことがどうでも良くなるほどに。

「あっはは!燈花、森の中にいたんだ。それでゴブリンに襲われて?毒で殺した?あー、ボクの出番がないや。それで?次は次は!?」

 瑠璃は私の話を面白そうに聞く。つい先程のことだったのに、今となっては笑い話だ。私は笑わないけど。

こうしてのんびりできるなんて、思ってなかった。

異世界って初日から苦労する日々が待ち受けてるものだと思ってたもんだから、てっきり冒頭からの戦闘かと思っていた。まあ、ゴブリン倒しちゃったけど。

「瑠璃はどうしてたの」

「ボク?あんまり面白い話じゃないよ。近くにあった村の牛舎に止めてもらったんだ。ボク、藁の上で初めて寝たんだよ」

 今はその村に向かって歩いているところだ。正直、もう足が辛い。今朝全力疾走したせいだ。

 引き籠もってる間、運動すらしていない。一日一食しか食べないから太ることもないけど、やはりあの時運動しておけばと後悔する。

まあ、そんなこんなで歩きながら話していると、近くに村が見える。

 「あれ?」

 「そう、村の名前わかんないけど」

 遠くで、小学生ほどの身長の少女がこちらに手を振っている。

 瑠璃の知り合いだろうか。こちらに駆け寄って来た。

 「ラズリお姉ちゃん。えーと、そちらのは?」

 ラズリなんて、どこにいるんだろう。

 あたりをキョロキョロすると、瑠璃にこそっと耳打ちされた。

 「ボクのプレイヤーネームだよ。覚えてないの?」

 なるほど、瑠璃だからラピスラズリか。そういえばそうだった。

 「ボクの幼馴染の、えーと、トーカだよ」

 私は無言で頷く。本名だから覚えやすいと思ったが、朧げらしい。それでも私のプレイヤーネーム覚えててくれたのか。少しだけ嬉しいと思ってしまったのは胸の中にしまっておく。

 「こんにちは。トーカさん」

 「……」

 「えーと……」

 こういう時、どうしたら挨拶が返せるだろうか。挨拶と言われればお辞儀だが、そもそもでお辞儀は通用するのだろうか。

 しばらく沈黙が続く。瑠璃に困惑気味の視線を向けると、悟ってくれたらしく、私の言葉を代弁する。

 「大丈夫だよ。ちょっと人見知りで、無口無表情だけど、悪い人じゃないから」

 一言余計なのでは?と思いつつも、少女は何も言わずに飲み込んでくれた。

 「わかりました。ラズリお姉ちゃんとトーカお姉ちゃんですね!」

 「そー。ところでレニー?」

 目の前の少女、レニーというらしい。瑠璃はレニーの頭を軽く撫でると、こういった。

 「村長さんのところへ案内してくれる?」

 「はい。わかりました。村長もラズリお姉ちゃんの報告を待ってるよ」

というと、村の奥の方へ歩き始めた。一軒、他の家より清潔に保たれている家が見える。

 レニーは扉の前に立ち、勢いよく扉をたたき始めた。

 「そんちょー!ラズリさんが帰ってきました!」

 すると、扉が開き、いかにも村人らしい服を着た人が出てきた。

 歳は四十前後だろうか。老いた様子もなく、背筋が伸びている。

 年寄りと引きこもりは大差ないと思っていたけど、ここまで違うとは想定外だ。

 もう少し運動しようかと思う。

 村長は優しそうに目を細め、レニーの頭を撫でている。

 「レニー、次から扉を優しく叩くように、少し古いので」

 「はーい」

 村長と呼ばれた人は瑠璃に目を向けると、こう尋ねた。

「おや、瑠璃さん。おかえりなさい。ゴブリンは討伐してくださいましたかな」

 討伐確認か。やっぱりゲームの世界なんじゃないかな。

いや、レニーは普通に話してたな。NPCノンプレイヤーキャラクターじゃないのか。

「ボクの幼馴染が倒しちゃった。はいこれ討伐証拠」

というと、手に持っていた麻袋を差し出した。

 私自身殺った覚えがないと伝えようとしたが、直前で昼頃話したことを思い出す。

 色々ありすぎて半日で忘れた。記憶の処理が追いつかない。

 ……忘れないって思ったのに、忘れてしまった。ゴブリン、ごめん。

 村長さんは中身を確認したあと、瑠璃にお礼を言った。

 「それはそれは、ありがとうございます。何分冒険者の届かない村でして。ところで、そちらのお嬢さんのお名前は?」

 「……」

 先程同じ行。また瑠璃を頼ることにする。

 「トーカだよ。無口無表情だけど、あんまり気にしないで」

 「そうですか。ところで、報酬金額についてなんですが、銀貨二枚のほうがいいですか?」

 「いいの?」

 「はい、お二方とも、旅のお方ですし、優秀な冒険者になりそうですから」

 「ありがとうございます!」

 瑠璃曰く、街に入るためには通行税として一人銅貨二枚が必要らしい。冒険者になるために銅貨三枚だが、通行税が免除される。

 しかし、報酬が増幅する依頼なんてゲーム内にはない。そう考えれば、やはり本物の異世界か。

 「今日も牛舎を借りてもいいですか?」

 「もちろんです。使ってください」  

 村長さんは穏やかな声でそういった。今夜はありがたく使わせてもらうとする。

 「食事の方はどうされますか?」

 「ん、あーどうする?」

 私はいらないが、瑠璃は必要だろう。

 必要と慣れば林檎がある。ただ夕食にはどうかと思う。

 とりあえず横に首を振ると、瑠璃はそっかといい、断った。

 瑠璃、良かったのかな。幼馴染としてずっと見てきたが、食欲はかなりある方だ。にもかかわらず太りにくい。まあ、私もなのだが、そもそもで食べていないため太ることはない。

 かなり心配な気がしてきた。


 その後、牛舎の方に案内され、ほっと一息つくと、案の定瑠璃の腹の虫がなっている。

 「瑠璃、大丈夫?」

 「だい、じょうぶ、じゃない!お腹へったー!」

 やはり空腹だったらしい。

 私に食欲がなくとも、無理した口の中に詰め込めばよかった。

 「これ、たべる?」

 そう言って出したのは亜空間に生やして保存したおいた林檎だ。

 緑王のおかげで、腐ることなくどこにでも生やす事ができるのだ。

 「ありがとう!トーカ大好き!」

というと、一口ほうばった。

 「なにこれ!あまっ!美味しい!」

 「よかった」

 瑠璃に毒を食べさせたわけではないらしく、ほっと胸をなでおろした。

 幼馴染に死なれては困る。その死因が私ではもっと困る。

 「トーカのスキルって、本当に便利だよね。食料に困らないし、いざというときには罠になる」

 「そういう瑠璃は、一体何のスキルなの?」

 ずっと気になっていたが、うまく問い出せずにいた。

 「巫女姫っていうスキルなんだけどね、亜空間収納の中にこんな物が入っていたんだ」

 そういうと、亜空間収納から一つのお面を取り出した。

 まっさらな白の狐の面だ。朱は書いておらず、下半分がない。

 「能力は、結界作成。あらゆる結界を作り出す。その効果は未知数、って紹介文に書いてあった。しかもこのお面なんだけどさ、」

というと、ポイッと無造作にお面を投げた。

 すると、まっさらな子狐が現れる。

 「稲荷狐?」

 「そう、可愛いでしょ。スキル、対象召喚。この子、戦闘のときに手伝ってくれたんだー」

 そういうと、顔に子狐をこすりつけている。どことなく安堵しているように見えたのは、気のせいだろうか。

 頭を撫でると、嬉しそうに撫で付け返された。

 「……そういえば、名前は?」

 「まだ決めてないよ。トーカにつけてもらおうと思う」

 私が名付け親になるのか。名付けには自信がない。第一、自分の名前なんてそのままだし、異世界っぽい名前が思いつかない。

 要は覚えられればいいんだ。わかりやすい名前といえば……

 「山田太郎」

 「うん、違うからね。そしてそんな真面目な顔で言わないでね」

 瑠璃から盛大に突っ込まれた。山田太郎、いい名前だと思ったんだけどな。

 「トーカに頼んだボクが間違いだった。ごめんね」

 そこで謝られるとどうも傷つく。そんなに山田太郎が嫌いなのか。瑠璃は。

 山田太郎以外の名前が思いつかない。どうも名付けは苦手なようだ。

 「ねえねえトーカ。ビャクはどうかな?」

 「いいと思うけど、この子多分メスだよ」

 「え、なんで分かるの」

 確証はないけど、先程太郎と名付けようとしたときに変な視線を向けられた。

 太郎ではなくて花子という名前にすればよかったかもしれない。

 「まあ、いいよね。ビャク」

 先程より嬉しそうに子狐ことビャクが鳴いている。

 「……良かったね」

 私はそう言うと、ビャクの背中を撫で始めた。絹のようで触り心地が良い。

 僅かな温かみが、私を眠りへと誘った。

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