2枚目 痛みと弱み
そういえば、植物生成ってどんな感じで発動できるんだろう。
これもやはり亜空間収納と同じでゲーム感覚でスキルをを打つのだろうか。試しに、手軽に食べられるものとして林檎を出してみる。
こんな寒い中で林檎ができるのかと思ったが、そんなことは関係なく芽が出てニョキニョキと育っていった。
幹が私と同じ身長でとまり、次第に実をつけ、きれいな赤色に染まっていく。
……林檎って、受粉しなければ育たないのでは?
まあ、ファンタジーだからしょうがない。食料が確保できたのだし、そんな細かい疑問は気にしないでおこう。
熟れた実をもぎ取り、一口かじる。
甘い。酸味が強くなく、理想的な味になっている。
しばらくその味に浸っていると、ふと思いついた。
私、これで森の中で暮らしていけるのでは?
いやいや、私の今の目標が現状把握とはぐれた人たちを探すことだから、長居はできない。
でも、人と話すときにあなたははぐれの人ですか、とか急に聞いても怪しがられそう。
やっぱり森の中へ引きこもったほうが良いのでは……?
つい欲望に負けてしまいそうになる。
駄目だ。この先やっていける自信がなくなってきた。
いっそのこと森の中に理想郷でも作るか。
私は頭を降って煩悩を振り切る。今は現状把握を優先させよう。
というわけで、歩いてみたのだが……
行けども行けども木々ばかり。いつここから抜け出せるのだろうか。
しかもステータス画面の体力が2/4になっている。たった2時間歩いただけで、どうして瀕死状態に陥るのだろうか。
これは明日絶対筋肉痛になるパターンだ。ゲームの世界で筋肉痛とかどうかと思うけど。
とりあえず木にもたれかかって休むことにした。
三十分ほどすると、体力が1回復する。
計算すると一時間で満たんになるのか。結構遅いな。
小腹がすいたので亜空間収納に入れておいた林檎を取り出し、一つかじった。
すると、体力が4になっている。
三十分で1回復するはずが、一口齧っただけで1回復したのだ。
流石にそれ以上はいかなかったが、体力が回復したため、再び歩くことにした。
それから二時間歩くごとに休憩を入れ、順調(?)に森を進んでいく。
先程まで暗かった森が、明るくなり始めた。
鳥の声や、木々のざわめき、ゴブリンの雄叫びが聞こえてくる。
ん?ゴブリン……?
茂みを掻き分け、様子を見ると、そこにはあのファンタジーによく出てくるあいつがいたのだ。
しかも十体ほど。
まずい、見つかったら殺される……!
戦闘手段がない私にとって、この状況はよくない。いや、もしかしたらこのスキルが使えるかも……!
そうと決めたら有言(?)実行。大量の林檎を近くに置く。その間、獲物を狙う鷹の如く食べてもらうことを草木に隠れながら待つ。
すると、一匹のゴブリンが林檎の存在に気づき、近づいてくる。それに気づいた残りのゴブリンが追いかけてくる。
匂いを嗅ぎ、じっくり観察し、一匹が口にする。すると、毒がないと思ったのか、他の奴らも齧っていく。
見事に引っかかってくれたよ。
最初こそ林檎の味に感動していたのだろうが、それからしばらくすると、胸をかきむしりもがきはじめ、一匹一匹と、倒れていく。
何をしたかって?
菫の毒を林檎に仕込んだのだ。
菫という可愛らしい読みがこの漢字にはついているのに、こんなに物騒な毒を持っている。使った本人が言うのもあれだけど、怖い。流石は植物界最強の毒花である。
効果は、これを口にしたものは下のしびれから全身がしびれ、最終的には呼吸困難で死んでしまうという恐ろしいやつである。
あ、そうそう。植物生成は実際に見たことのある植物だけではなく、写真も見たことのうちに入るらしい。
前に毒のある植物について調べててよかったよ。興味本位で調べただけだから殺人なんてしてない。
嘘じゃないから。
その毒にまんまとはまってくれたゴブリンさん達はすでにお亡くなりになられている。
まるで白雪姫の林檎売のお婆さんになったような気分だった。
あれって最後に王子がキスして生き返らせる話だけど、当然ゴブリンにキスする王子はいないよね。
……いないでいいのかな。もしかしたら本当にいたりして。
その光景を想像すると吐き気がしてくる。この話はもうよそう。
今回は効いたから良かったけど、もし毒耐性の魔物が出たらどうしようかと考えておかなきゃいけない。
その場合はかなり強力な毒を盛り込んでおこうかな。
そうだ、ステータスの確認。倒したのだからレベルや体力が上がっているはず。
そう思って確認したら、全くレベルが上がっていない。ただ、体力と魔力が上がっていた。
それと、スキルにプラス機能がついている。
見せたほうが早いかもしれない。
Lv0
体力 10/12
魔力 16/18
skLv 0
スキル 植物生成+毒調整
+毒調整
植物生成で出来た毒を調整することが可能。より強力なものができる。毒のある植物の毒を毒のない植物への注入可能。
なるほど、菫より強力なものにできるのか。
嬉しい誤算。ありがとうゴブリン。君たちのことは忘れない……多分。
それでもまだレベル0のままだ。一体どうしたらレベルが上がるのだろう。
まあ、考えても仕方のないことだ。もしかしたら地道な努力が必要になのだろう。
それと、今回思いつきだったから仕方ないけど、枝でくり抜いたところに花を入れてしまったから、そこをなんとか工作したいと思ってたからこの毒のない植物への毒を注入可能はかなり嬉しかった
これから林檎売りとしてやっていけるかな。毒入ってますよを宣伝にして。
やるつもりはないけど誰も買ってくれないだろう。やる前からマッチ売りの少女になった気分だ。
そして最後にこの林檎を食べるのだろう。毒入ってるから食べないけど。
そうだ、自分も微弱な毒を食べて毒耐性でもつけようかな。今やって動けなくなるのは嫌だから食べないけど……今は本当に食べないよ?本気ではあるけど。
とりあえず、戦闘手段が見つかっただけ今回は良しとするか。
でも何か忘れてる気がするんだよね。何だったかな……
後ろを振り向くと目の前の惨状がゴブリンが十匹ほど倒れているという絵面だった。
そうだ、忘れてたよ、ゴブリンのこと。
動物でも死体の匂いで集まってくることがあるから、魔物だったら襲われる。
埋葬するにも手を使いたくないし、四センチすら土を彫り起こせなさそうな気がする。
火すら起こせない中、私のやることはただ一つ。
全力疾走。この場から一刻も早く逃げること。
このあと被害にあった人たちに先に心の中で誤っておきます。誠に申し訳ございませんでした。
全力で走ったが、自分の体力を甘く見すぎていました。
まさかこんなに早くにへばるとは思ってもいなかった。
まだ数秒も走っていないのに。
まあ、林檎があるから齧るだけで回復する。食べたら走る。今度はお腹のほうがはち切れそう。
ダイエットしてるわけじゃないのに。
と、繰り返しているうちにいつの間にか森の外へでかけている。
なんだそこまで広くなかった。もっと一ヶ月くらいかかると思ってたのに。
ほっ、と安堵した。割と本気で一生森から抜け出せないと思っていたのだ。
それにしてもここはどこだろう?
見た所草原のようだが、見渡せる限りで目を凝らすと遠くに村が見えた。
草原にポツポツと家が建っている。
村というか集落のような規模だった。
ゲームで言う始まりの村的な存在感を放っているように見える。
決めた。次はあの村を目指そう。何かわかるかもしれない。
ふらふらと、引き寄せられるように歩いていく。足取りが重い。
頭が熱くて、気を抜けば倒れそうな気が……
ああ、こんなことになるなら日光耐性でもつけておけばよかったな。まさかこれで死ぬなんて思ってなかったよ。
前にゆっくりと倒れようとした途端。
誰かにものすごい速さで抱きつかれたのであった。
痛い、これ死んだわ……まさか日光に焼かれるより先に抱きつかれて死ぬなんて思ってなかった。
「燈花、死なないでーっ!」
私が気絶する前、そんなことを聞いた気がする。
そこにいたのは、気絶している少女と、泣きわめいている女の子がいるという、こんなのどかな風景にふさわしくない絵面だった。
主人公、死す。(死にません)