表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怠惰な人間の植物記録手帳  作者: 佐籐 光天
2/8

1枚目 気合と諦め

次話投稿しました。最後まで読んでくれると嬉しいです。

 冷たい風が頬を叩いたところで、ようやく目が覚める。

ここは……どこだろうか。

 腕を使い起き上がると、周りを見渡す。どこを見ても木ばかりだった。

森に来てしまったらしい。通りで寒かったわけだ。

 右手でマップを出す。ゲームの世界ならば、ここがどこだかわかっただろう。

だが、青い画面にはマップなど書いておらず、《行方不明》とだけしか書いていない。

イベントかなにかのフィールドで地図を自分で書き写さなきゃだめなパターンなのかな。


 それにしても、こんなにも現実に近い森なんて、どこにもなかったはずだ。

アップデート後でこんなにも変わるものなのだろうか。

 視線を下げると、自分の服装に疑問を持った。

乳白色のスウェットにジーンズという、見慣れた服装。

なぜ私は現実世界の服を着ているのだろうか。


 それから近くにあった木の枝を取り、地面にこれまでに起こった経緯を綴る。

転移陣に乗ったあと、光に包まれる。溺れていた所で気を失った。行き着いたところは森でしたって、どう考えても繋がらない。


 それに何なんだよこの寒さ。温度設定間違えてるんじゃないの?

服装も現実のままだし、どう考えたっておかしい。

突然のことに頭を抱えていると、頭の中にこの可能性が渦巻く。


 ゲームの中で迷子になるとかはありえない。

と、いうことは考えることは2つ。

ゲームの中に囚われたか、本当に異世界に来てしまったのか。

後者はまずありえない。どこぞのファンタジーなわけあるまいし。前者であれば……考えたくないけど、ステータス画面にログアウトボタンがなくなる。

左手でステータス画面を開いた。

一番下を見るとまさかと思ったが、もう一度見ると、ログアウトボタンが消えていた。

それともう一つ、後者となりうる証拠があった。


 名称     トーカ

 種族     人族

 性別     女性

 Lv      0

 体力     4

 魔力     10

 SPLv    0

 取得魔法   ―――

 スキル    植物生成 亜空間収納(小)緑王 転移者 はぐれ

 固定武具   自動戦闘魔法短杖《白蓮》


 自分の口から、息を呑む音がした。

 なんでこれがここにあるの……

 この世界でありえないはずの文字だ。

自分でも驚くくらい混乱している。もしこれがゲームの世界であれば絶対にないはずの文字だった。

だって、だってこれは―――

 ……少し取り乱した。まあ、この件はあとにおいといて。 

 他も、知らない単語がたくさん出てくる。

 とりあえず気になったものから調べることにした。

 

 SPLv

 スキルを取得できるレベル。元から持っているものは関与しない。


 取得魔法

 現在取得している魔法。後々増える。

 

 植物生成

 見たことのある植物を生成することができる。


 亜空間収納(小)

 名の通り亜空間にものを収納できる。ただし小さい。


 緑王

 どこでも植物が出せる。

 

 転移者

 異世界から来たもののこと。効果付与として、異世界の文字が読み書きできる。

 

 はぐれ

 他の転移者からはぐれたもの。稀にある。


 固定武具

 魔力が同調し合うものの武具。現在使用不可。亜空間に収納中。


 転移者ということは、本当に異世界に来たということになる。それにはぐれってなんだ。私は召喚されてここにいるっていうこと?一体、誰がなんのためにそうしたんだろう。

 首をひねって考えても、自分が今どういう状況に置かれているのかは、あまりよく理解できていない。

誰かが私を呼んだにしても、私は役に立てることなんて何もないし、できれば元の世界に返してほしい。

 それに、はぐれたということは、まだ他に召喚された人がいるということ。私だけじゃない可能性がある。ここまでの断片的な情報では、これしか情報が出てこない。

 

 結論から言うと、ここがゲームの世界だとが違う世界だということはまだ曖昧になってしまった。

見た目は子供、でも頭脳明晰という小学生ではないのだから。というか中学生だけど。


 まあ何にせよ、まずこの森から出ることが優先だな。うん。

マップでもここがどこだかわからない。というか表示されない中で、どうしろと言うんだ。

実際そうだ。攻略サイトも本もない。というか頼りたくない私にとって、これほどまでに絶望を覚えることはない。もし、餓死して死んだら?魔物に見つかって殺されたら?ましてや人に刺されたら?

 帰れるかどうかわからない中で、動くのは自殺行為だと思う。

私じゃなかったらショック死しているかもしれないのに。

運営何考えてるんだと叫びたくなるくらいに混乱した。

 今頃電話が殺到しているんだろう。まあ私には何も問題はないけど。

というか、自業自得みたいな。今までバグ放置してたんだし。


 話を変えるけど、さっき動揺したのは武器のことだ。

固定武器という概念はこのゲームにはない。

ましてや、ゲームの理から外れたあの短杖は、あってはいけないものだ。


 別にそこまで威力が高いというわけではない。むしろ平均的なものだ。

ただ、あれは私が一から作り出したものだ。

 公式には認められていない、非公式なもの。

だから、ゲームの世界にはないものだ。


 それは一年くらい前のこと。

 このゲームは自由度が高いため、どれくらいゲームから外れたものができるかと知り合いと議論していたら、試しに作ってしまおうと言われてできてしまったものだ。

このことは運営にすぐに回収され、設計図すら奪われてしまった。知っているのは私と共同開発者の一部の人間のみとなり、ずっと記憶の隅にしまい込んでいた。

ただ、運営が新しく出したなんてあまり考えられない。いや、利益のことを考えるとあり得るのか。著作権とかないから真似しても仕方ないかもしれないけど。

 文句はあるがそこは仕方がない。許そう。


 ただ、今になって出てきたかと思うとちょっと苛つく。

しかも使えない?なんで、と思ったがステータス画面で更に詳しく見ると、私の魔力が足りない、ということだ。

 ゲームのアイテムボックスを開く感覚で亜空間収納を開くと、ご丁寧に宝石で飾られた箱で送ってこられたよ。嫌味なのかな。

 ただ、開けられない。鍵穴がないのに開けられないってどういうことだ。

その後、奮闘すること数分。少し開くどころかびくともしない。

事前の説明がなければ、私の握力が足りないと思うところだった。普通に弱いけど。 


 ただ、戦う手段がないというのはあまりよろしくない。

 魔物が怖い。今の私じゃ剣すら持てない。

ということは魔法ということになるが、私は魔力が低い。魔力が切れて動けなくなる可能性がある。

正直魔物にあってもこの体力だから逃げ切れる自信がない。

あれ、私詰んでない?

 異世界に来てそうそう潰れるのか。リタイアしたいな。

え?イベント第二位の面目が丸つぶれ?いーんだよそんなことは。

あ、もうどうでも良くなってきたかも。

攻撃手段がないイコール死すという形式が私の頭の中で成り立っているため、このときの私は他人になんと言われようともてこでも動かないと自分でもわかっている。

 むしろ楽して死にたいのだ。植物や本、整えられた寝具でひっそりと息を引き取りたい。

我ながら欲深いと思う。でも誰が苦しく死ぬことを選ぶのだろう。

 人の価値観を否定するわけじゃないけど、引きこもりは引きこもりなりに死にたいのだ。

ああ、自分が死んでいるところの幻覚が見えてきた。

 日陰でひっそりと息を引き取ったため、自分の遺体が見つかるのは半年後くらいがいいな。

っと、危ない危ない、とりあえず現実に戻らなきゃ。


 とりあえず、今できることを探そう。それが今の私の最善策だ。

えっと、さっき思いついていたのが森から出ることだっけ。うーん……

森から出たところでお金もないし、慣れていない人にはコミュ障が発動するため結局は人と会話できない。

詰んだ。本日二回目の『詰んだ』だ。

 ……ダメ元で私以外のはぐれた人でも探すか。

そう簡単に見つかるはずもないと思うけれど。

 

 ……また私は、無意味な希望を求めるのか。

そんな期待とは裏腹に、不吉な形で願いがかなってしまうことを、私はまだ知らなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ