イルゼの後悔 外伝
あの時、魔族とは知らなかった。
でもとてつもない恐ろしいものとは感じていた。
全身の全ての神経がその恐ろしいものに恐怖していた。
殺らねば殺られる。
目を離してはいけない。
でも一歩が踏み出せない。
シェインお願いケイリーを助けて。
ゼストが戦っている。
あんなに強かったゼストですら、小さな子供と遊ぶ大人のように力を抜いて、遊んであげているように余裕で捌く魔物のようなもの。
心の中で別の私が叫んでいた。
無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理。
私がやっと頑張って倒せるようになった魔物をあっさりと倒すゼストが、あのゼストがまるっきり敵わないのに?
いやダメ。
そんな弱気ではダメよ。
なんとか倒さないとみんな死んでしまう。
イルゼ一歩を踏み出しなさい。
ゼストが倒してくれるなんて甘い事考えないの。
行くわよ。
一歩を踏み出そうとした時、見えない何かの攻撃でダクタが倒れ、ゼストが叫び、前に出たデニスとコルトン、そしてシェインが倒れた。
風を切るような音がして咄嗟に槍で防ごうとしたまでは覚えている。
気がつくとダクタが覗き込んでいた。
ダクタがポーションで助けてくれたらしい。
私を助けてからエンロを助けている。
ダクタの顔は涙でグシャグシャだった。
エンロは生きていた。
でも四人が亡くなって、ゼストは連れ去られていた。
ケイリー、デニス、シェイン、コルトン。
やっと出来た女友達のケイリーとシェイン。
楽しく過ごせたのはほんのわずかで終わってしまった。
ごめんなさい。
私の一歩がすぐに出なくてごめんなさい。
どうかゼスト、生きていて。
あなたまで死なないで。
どうかお願いします。
神様お願いします。
これ以上仲間を奪わないで下さい。
今度こそ一歩を踏み出しますから。
どうか。
どうか。