2 電車とフルーツオレ
気分がのったのでまた書きました。
季節?あんまり考えてないです。
電車の中でドア付近に体を預ける。窓から見える天気は気持ちいいくらいの快晴で、こちらの心まで晴れ渡りそうだ。
鞄からスマートフォンを取り出して、手持ち無沙汰を収める。逆の方の手でペットボトルを器用に開けて、一口味わった。
「あ、先輩」
「ん、後輩」
時刻は午後五時半頃。同じ制服を着た生徒達の中で、校則違反の具現化みたいな後輩はよく目立つ。教師から注意は受けないのだろうか、と軽く疑問に思うが、そこは後輩の人懐っこさが功を奏しているのか、何なのか。取り敢えず私は後輩が制服をまともに着ている姿を見たことがなかった。
適当なページを検索していたスマホを閉じ、無造作にカバンに突っ込むと、「何見てたんです?」と真っ直ぐとこちらを見る。私が視線を合わせると、やはりにこりと笑顔を見せた。
「別に何も。強いて言うなら、晩ご飯何にしようかなって」
「えっ、先輩料理できるんです……?」
後輩が思わずといった感じでこちらを見て、そんなことを口走った。失礼な奴だというのと同時に、今更気づいたのかという感想を抱く。
「何故そんな不安そうな表情をするんだ、君は。というか、たまに学校で見てたじゃないか。私の弁当」
「え、てっきり親御さんが作ったのかと」
「一人暮らしって言わなかったっけ?」
「あー、言ってたような気がする、かも?」
視線を上に向けて、考え込む様子を見せる。右上と左上、どっちが記憶を思い出そうとして見る方だったかな、というどうでもいいことを思い浮かべつつ、静かに嘆息した。
「君が思いの外、人の話を聞かない人物だとは知らなかったな。だから試験も点数が悪いんじゃないのかい?」
「げっ、そういうこと言っちゃいます!?じゃあ先輩は成績よかったって言うんですか?サボり魔なのに」
「人聞きの悪い。私はサボり魔なんじゃなくて体調が悪いから授業をよく休むだけであって、成績自体はそこそこ良いからな?というか、私に勉強を教えられておいて、よくそんなことを言えるな、君は」
「うぐっ」
何かを喰らったような演技をしてみせる後輩を放っておいて、ペットボトルに口をつける。軽く飲み干して鞄に仕舞うと、後輩が物珍しそうに私を見ていた。
「……なに?」
「いや、先輩がフルーツオレ飲むの珍しいなと思って」
仕舞ったペットボトルにはフルーツオレのラベルが貼ってあった。そのことを指摘されて、思わず目線を逸らした。
「た、たまには良いじゃないか。それとも何か?君は私がコーヒーだけしか飲まないカフェイン人間だとでも思っていたって言うのか?」
「いや、先輩がコーヒー以外も飲むことは知ってますって。ただ、フルーツオレは初めて見たなぁって」
「……そういう気分だったんだ。それ以外の理由はない」
「えー、そう言われると何かあるんじゃないかって思っちゃいますよー?」
「うるさいな。ないったらないんだ」
そう言い放った時、車内アナウンスが私の最寄り駅の名を告げる。丁度よかった。これで追究を逃れられる。
「じゃあ、また明日」
「えっ、あっ、はい!また明日……?」
ホームに出て、早足で階段を駆け降りる。ちらりと電車の方を見ると、車窓越しに不思議そうな顔をした後輩が見える。
フルーツオレを買ったのが、なんとなく後輩を思い出したからだなんて、言えるはずがなかった。