1 コーヒー先輩とフルーツオレ後輩
気が向いたので書きました。
気が向いたらまた続くかも。
太陽がいつもよりはっきり見える日だった。漂う雲は白く、空をわずかにぼやけさせている排気ガスも今日はなりを潜めているようで、さんさんとした日差しがオゾン層を突き破って屋上一帯に射していた。
暖かいを通り越して少し暑いと感じるほどの天気だが、吹く風は涼しい。日向ぼっこをするには絶好だ、などと思っていると、隣にいる後輩が声をかけてきた。
「ねえ、先輩」
「なに、後輩」
「コーヒー、不味くないんですか?」
その言葉に、思わず視線を空から真隣へ向ける。
明るめな色に染めた髪に、着崩した制服。耳にはピアスを空け、首からはネックレスを提げている。そんな校則違反の塊のような問題児は、私の視線に気がつくと、こちらを向いてにこりと笑みを浮かべる。
その笑顔に顔を背けて、手元の缶を口に運ぶ。ほんのりとした苦みと、独特の香り……それに混じった、嫌な酸味に眉を寄せる。どうやら今回ははずれのようだ。
「ほら、そんな顔してまで飲みたいものなんです?」
「……たまにあたりもある」
「でも大体はずれでしょ?」
「……」
そう言われると何も反論できない。口の中に残ったコーヒーの後味に嫌気がさして、もう一口コーヒーを含む。含んだところで結局後味は残るのだが、そこはご愛嬌ということで。
「別に、コーヒー全部が不味いわけじゃないし、私も好き好んで飲んでるわけじゃない。学校じゃ淹れたてを飲めないから缶コーヒーで我慢してるだけ」
「でも、スタバ行ったとき、先輩ココア頼んでませんでした?」
「……店で飲むより自分で淹れたやつの方が馴染み深いから」
「でも先輩の家、ドリッパーとか無いですよね?」
「……」
目をそらすと、だんだんと後輩の視線がじとりとしてくる。若干のいたたまれなさから逃げようとコーヒーに再度口をつけ、中身が空になっていることに気付いた。
「そ、そろそろ戻ろうか。午後の授業も始まるし」
「あー、先輩またはぐらかしたー!」
「はっはっは。これが経験の差というやつだよ後輩」
「かっこつけてるつもりかもだけどすごいかっこ悪いですよー」
「負け犬の遠吠えは聞こえないなー」
階段を降りつつも後輩の追究を華麗?に躱す。後輩は不満げな顔をしていたが、すぐに表情を綻ばせた。こんなものは普段のじゃれ合いの範疇なのである。
ちらっと腕時計に目をやると、まだ授業開始まで少し余裕があるようだった。
この後輩とのやり取りは私としても好ましいし、できればもう少し続けていたいと思えるほどだ。何か話題はないか、と考えて、ふと、後輩が手に持っている紙パックに目が留まった。
「私のコーヒーが気になるなら、まず自分から話したらどうだい?」
「自分からって……何をです?」
「ほら、君。毎度毎度フルーツオレ飲んでるだろ。フルーツオレ以外じゃあ、水くらいしか飲んでるの見たことないし。何か理由があるんじゃないの?」
そうやって意趣返しとばかりに視線を向ける。後輩はそれを聞いて、「えー、聞いちゃいますー?」と楽しそうに言葉を発した。
「実はこれには深い深い、それはもうアリの巣くらいの事情がありまして……」
「深いのか何なのか分からないたとえだね!?」