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01 プロローグ

 昔の話、世界史上災厄と謳われた魔王と勇者の戦いに終止符が打たれた。


 命を対価とした勇者の放った一撃が魔王に直撃し、後世を呪い続けながら魔王は朽ちていった。


 残った配下の魔人たちも、世界各地の至る所に封印された。


 そんなクソみたいな日から数百年後、人間たちにからも――そして、私からも嫌われている魔王が復活しようとしていた。



「……」


 繋がれている魔力鎖が剥がれ落ち、私の小柄な身体が地面へと落下する。

 長年も繋がれ身動きも取れない状態にいたからなのか非常に身体が重い。実際起き上がるまでに10分までの体力回復を要した。

 正直ここまでくると、私の身体も衰えてきたのだろうか? などと思ってしまったが、肌と筋力、容姿の様子は人間擬態の状態になってる事以外特に問題なかった。決して老化したというわけではなさそうだ。


 まあ、魔人が老化なんてしたら元も子もないのだが。


「んっ~~~~! 久しぶりの解放感……」


 私は昔『聖邪』という異名を魔王から授かった魔人……端的に言えば魔族である。

 異名といっても実際の名前は与えられておらず、人間たちに名乗る際もこちらの物しか使用していない。

 そもそも私ぐらいの魔族になると、名前なんて必要なくなってくるし特に問題はないのだが。


 さて、今この状況になって何故封印が解かれたか、理由は二つ考えられるだろう。

 一つは「魔力鎖の劣化」。もう一つは「魔王の復活」。

 まあでも一応こんな私でも王国一つは昔焼き尽くしたくらいだし、封印する鎖を強硬なものにしないというのは考えにくい。

 ……となれば。


『……る? 聞こ、る?』


 来た。


『聞こえるかあ? 聖邪ちゃん?』

「うわ出た」


 頭に響く嫌み声と同時に、目の前の虚空から人影が現れる。

 禍々しい覇気を纏い、不気味な玉座に腰を下ろしながら偉そうにこちらを見る少年。一瞬誰だと思ったが、その覇気から一瞬にして理解する。

 それは復活して間もない魔王の姿だった。力がまだ回復してないからなのか、少年の姿になっているようだった。あの性格でこの姿か、クソガキじゃん。


『俺様の復活から3日後の復活……しかも他の魔人より一番遅い復活? なんか遅すぎね?』

「どこかのだれか様のおかげで沢山働かせられましたので」

『王国を一つ滅ぼすだけの小さな労働で疲れ果てているのか? 雑魚魔人だなぁ?』

「はいはい」


 口調こそちょっと変わってるが性格そのものはかの魔王と同じだった。相変わらずその悪態にはどこか腹が立つ。

 自分以外の部下の事はすべて手駒としか思っておらず、時折『ぶっちゃけいらない』とまでほざく始末。

 ならば反抗すればいいじゃないか、って思われるだろうけど、その後どうなるか誰もが察せる為、実行する勇気を持つものは誰一人としていなかった。

 というか他の魔人は、この性格が好きで従っているらしい。正気かな?


『まぁいい。俺様は寛大で強強魔王様だから許してやる。さて、さっそくだが早急に魔王城へ来てもらうぞ。他の魔人(てごま)たちとの定例会議だ』

「はぁ。はーい」

『溜息ついたか?』

「いえ、別に」

『そうだよな? たかが魔人如きが俺様に反抗できるわけないもんなぁ? ま、全員謀反したところで、強強魔王の俺様なら一人で余裕だがな。じゃっ♪』


 そう言い残し、魔王様は会話を遮断する。よし、何とか腹の虫は抑えられたようだ。

 偉そうに自分を棚に上げる嫌な上司だが、その実力は勿論本物だ。ぶっちゃけ私の存在一人いなくなって問題ない位じゃないだろうか。


 だけどまあ、そんな奴でも上司と言えば上司である。逆らう訳にはいかない。とはいっても、このまますぐにやって来るというのも嫌な話である。

 多少の遅刻ぐらいはいつもの罵倒で許してくれるだろう。さて、今の時代何が見ものなのだろうか? やはり私が滅ぼした国が今どうなってるか……だろうか?

 どうせまた滅ぼせだの言ってくるんだろうし、一度は目を通しておきたいものでしょう。


「じゃあ早速……っと、その前に」


 グルルルル……。


 私のお腹がなる。魔族とはいえ食事は欠かせない。腹が減ってはなんとやらだ。


「腹ごしらえ、だなぁ」





「炎帝よ。豪炎なる力をもって、我が心に宿る真の敵を、焼き払え」

「グ? グルァァアァ!!!」


 封印されていた遺跡を飛び出し、外側を警備していた人間を簡単な電撃で気絶させた私は、手短に森の獣の肉を欲した。

 どうやら私が封印されていた山っていうのは、かつての時代でいう低級魔族達の巣靴みたいな場所だった。今私がこんがり焼きあげたクロウビースト程度なら、そこら中にうじゃうじゃといた。

 ちなみに当然魔族にも今回の低級魔族みたいに階級というものが存在する。上級、中級、低級と言った感じに。わたしは上級よりもさらにさらに上の魔人族という部類に属される。この程度になってくると、そいつは種類という枠にはまらない。何せ本物は自分しかいないのだから。


「でも、魔族の肉って全然美味しくないんだよなぁ~」


 魔族でも共食いを行う奴らはいるが、それは食にありつけなくなった奴らが仕方なく行う最終手段に過ぎない。理由は当然、激マズだから。

 魔族は基本人間の肉を食する。その美味さは格別の一言だ、魔族の肉と比べたらそれこそ粛清を受ける程のレベルだろう。そのために近隣の貧村を襲ったりもするのだが……これまた面倒の一言に尽きる。

 たまに豚等の家畜に縋ったりはするが、魔族の肉程じゃなくても美味いとは言い切れない。人間の肉と家畜の肉の調理法は決して同じじゃないらしい。


「あぁもう。さっきの警備とか殺してきたら良かったかなあ」


 さっきは魔王城に到着するまでに多少足がついたらマズいと思い気絶程度で済ましたが、ここまで食が満たされないとさすがに我慢ならなくなる。

 って言って戻ったとして、気絶から目を覚ましていたら、それこそまた問題だ。記憶が少し飛ぶ程の気絶威力を放った苦労が水の泡だ。態々変なところで疲労なんかしたくない。

 魔族の肉もさすがに何度もは辛い。となると、残る手段は……。


「あの王国、確か橋下が貧民どもの住まう区画だったよね」


 今そこがどういう構造をしているのかわからない。が、もしそこが機能しているのならば、上の裕福な人間どもが住まう所で襲うよりは余り足がつかないだろう。

 それに貴族どもも貧民に対しては魔王の魔族に対する対応と殆ど変わらないというのはよく知っている。自分が助かるために貴族が貧民を見殺しにしたというのは、王国を滅ぼす際に何度か見た光景である。

 魔族ながら少し同情してしまったほどだ。これだから魔族の癖に"聖"とかいう文字がついた異名を与えられたのだろうか?


 まあいいや、とりあえずそれは行ってみたらわかるだろう。元々寄る予定だったし。





「ま、結構時間たってた筈だし、そりゃ復興してるよね」


 自由に吹く風に短い金髪を揺らせながら、私がかつて崩壊させた王国をマジマジと見上げる。

 石材の素材や外観構造、それら全ては完全に見違えていた。一瞬本当にここが目的の場所かどうか疑ってしまったほどに。


 ルーンバイゼル王国。

 世界で最も大きい国であるとして、世界中から沢山の人達が集まる巨大王国。そして私が、かつて例の魔王に命ぜられて、滅ぼしてしまった王国。

 またこうして脚を踏み入れる事になるとは思わなかったけれど。


「……ん、何だかやけに騒がしい。何かあったのかな」


 よくよく見てみれば、普段門番が要る筈の所に人影はあらず、あろうことか色んな人達が王国内に立ち入っている状態である。

 無法地帯だなぁと思いつつも、私はそれに従い人混みの中へとまぎれて行った。


 その途中、私は異様な風を感知した。


(何……この臭い)


 今まで感じた事のない。気分を高揚させる様な異臭。

 一瞬新たな罠か? と思い身構えてしまったが、特に身体が毒に侵されるとか、そういう感じの異変は起こらなかった。ただ気分が良くなるだけである。


 刹那、再びお腹が鳴る。

 やはり魔族の肉では気分を満たすことができなかったようだ。やはり人肉、人肉がなければ生きていけない。が、ここで人を喰らうのはマズい、明らかに人が多すぎる。

 もう少しだけ先に進んだ後の人目がつかないところで。そういう思考を巡らせながら、私は人混みの先へとかき分けながら進んでいった。


 その先で私は、信じられないものを目の当たりにする。

閲覧ありがとうございます。

続きが気になる。または『お腹がすいている』という方は是非続きもご覧になってください!

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