24.罠(1)
暗い廊下に古びた扉が並んでいる。
力をこめてそのうちのひとつを押し開けると、そこには部屋ではなく地下室へと向かう階段が現れた。薄暗く霞んだそれは十段ほど続くと右に折れ、そのあとは暗くて見えなかった。
凪流があたしの後ろから覗き込む。
「ここを降りると地下研究室が……?」
振り返り、夕露に尋ねた。
「きっとそーだよ! 降りてみよ、降りてみよ~」
夕露が小躍りしている。
樹葵の部屋に凪流を迎えに行ったとき、そこには紫蘭との戦いごっこに疲れた彼だけが寝そべっていた。樹葵はおはぎを乗せた盆を洗いに行ったらしい。結局地下研究室への行き方は、三人で闇雲に歩いて探すこととなった。やたら勘のいい夕露を頼りに、やっと見つけた階段がこれだった。
「それじゃあいざ、龍の剣を取りに向かいましょーか!」
あたしは二人を振り返る。
階段の下からあがってくる空気が、把手を握る右手にひんやりと冷たい。
「おおっ!」
景気良く拳を突き上げたのは夕露だけだった。
「この扉自然に閉まって、僕たちを閉じこめたりしないでしょうねぇ?」
「凪流せんぱいの恐がり」
夕露が先についてくる。
「開けときますよ」
「あたしたち盗みに行くんだよ? 扉開けっ放しじゃバレちゃうよぉ?」
「ほっといて下さい! 僕は暗いのニガテなんですから!」
情けない声を出して扉を大きく開け放つ。それでやっと安心したのか、夕露に続いて、思い切って階段に足を掛けた。
階段を一番下まで降りきると、視界いっぱいに鉄の扉がふさがっていた。
闇に浮かぶ「立入禁止」の赤い文字。
「またでたよ」
夕露がぼそっと呟く。
「ったくこのお屋敷、立入禁止区域だらけじゃない?」
あたしも小声で応じる。
「鍵がかかってるんじゃないんですか?」
凪流に言われて、あたしは把手をそっと押し下げる。
「鍵は――」
ぐっと向こうに押すと――
「かかってないみたいね……」
「立入禁止」のくせに鍵がかかってない――そんな不自然な事実にあたしたちは、慣れきってしまっていた。だが今回に限って危険な罠だったのだ。
地下室に足を踏み入れると、薄紫色の光がぼんやりと広い室内を照らしていた。低い天井と埃っぽい空気がいかにも物置だ。
「僕は…… ここで待ってますね…… ほら、扉が勝手に閉まったりしても嫌だし」
「閉まんない閉まんない」
「いや、でもとにかく、ここで待ってますよ。万が一誰か来たら伝えますから」
あたしと夕露は凪流を扉の脇に残して、静かな地下室に足を踏み入れた。
既に使わなくなった実験器具か、未完成のまま忘れ去られた発明品か、はたまた医療廃棄物か―― 濃い紫の影は様々なものを形取っている。それらは一様に、時に忘れ去られた冷たい悲しさを放っていた。
「夕露はあっちを探して。あたしはこっちを探す」
夕露が頷いたのを確かめ、あたしは右に並ぶがらくたの山へと近付いてゆく。淡い紫の照明を浴びたまま無言でたたずむ無機物たちを、ひとつひとつ確かめるように目で追う。奥に何か細長いものが見えて、上に乗った容器を持ち上げると、積もったほこりがふわっと舞った。剣に見えたそれは無駄に長い物差しで、あたしは落胆の溜め息を吐いた。




