01.序
二年前―
晩秋の夜のことだった。
赤い月は雲に隠れ、黒い道は闇に沈む。
夜空の闇より一層濃い、こんもりと佇む影は鎮守の森だ。
少年の影は、森へと続く細いあぜみちを足早に進む。二年前のあたしは息を殺して彼を追っていた。
森へ差し掛かると彼は、いつものように魔術の灯りを手のひらに灯した。少年の姿が森の闇へ溶け込んでしまう前に、かすかにゆらめくともしびを頼りに、あたしは小走りで森へ入った。その夜は、虫たちの声さえ全く途絶えていた。
黒い幹と幹の間、消えては現れる少年の影。
その影が、突如動きを止めた。
あたしは太い幹の陰に身を隠し、じっと息をひそめる。
少年の前の闇が、ぐにゃりと歪んだ。まるで水面に波紋が広がるように、数本の太い幹が波打って見える。あたしは何度もまばたきして、闇のベールの向こうに目を凝らした。
――誰かいる……!
背筋がすうっと凍った。
闇が人のような形に変わり、一歩を踏み出した。
――どうして、彼は逃げ出さないんだろう。
今や彼の手のひらから魔術の灯りは消え、微動だにせず闇と対峙していた。
闇が、口を開いた。
「俺を殺してほしい」
大きな憂いを含んだその声に、二年前の幼いあたしは逃げ出したくなる。だが口の中はからからで声も出なければ、湿った土にへばりついた両足はぴくりとも動かない。
厚い暗雲に覆われていた月が、折から顔を出す。赤みを帯びた満月は、不安な光を黒い木々にしたたらせる。
あたしはぼんやりと見ていた。
弱い月明かりに照らしだされた、その何者かの姿を―
人であって人ではないその奇怪な姿と、微風にゆれる白い髪を――




