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第6話 アバンダ魔獣事件

 今から十六年前。辺境の地、アバンダ。今でこそ周辺には街があるが、当時の王国の北方は人口も少ない地域だった。


 アバンダから隣の村まで車で三十分。街と呼べるような規模になると、車で二時間はかかる。


 俺、リヴェノはそんなアバンダで生まれた。人口は百名も居るかいないかといった小さな村。そして幸いにも、俺と同年代の子がいたのだ。名前はメラルダ。どうも15歳年上の姉がいるらしい。異性ではあったが、子ども頃からずっと一緒だったということもあり思春期になっても俺たち二人は仲が良かった。俺は家族と、メラルダとともに静かに暮らしていた。


 そんなある寒い冬の日の朝だった。


 俺は屋根へ登り、腰まであろうかと思われる積雪を落としていた。そんな中ふと隣に住んでいるメラルダの家が目に入ったが、メラルダは忙しく家の中や庭を右往左往。気になって屋根の上から話しかけてみると、内緒とのことだった。


 アバンダは街から遠いため、人の出入りが少ない。そして、豪雪のあった日には道路が封鎖されることすらある。

 恐らく誰か人が来るのだろうが、それが誰かまでかはメラルダの俺でもわからなかった。


「そうだ、作ったパンケーキ良かったら味見してみてよ」


 俺はメラルダの家に呼ばれると、メラルダは恥ずかしながらにフォークでさしたパンケーキを俺の口の中に詰め込んだのだ。


「ど、どうかな」

「すごく……甘い」


 糖尿病にでもなってしまわないかと不安になるくらい、食べたパンケーキは甘かったのだ。


 その後、俺はお暇し、雪掻き業務に戻る。しかし、夕暮れになる頃には雪が降り始めた。その結果だろうか、村には何の出入りもなかった。


 多少の積雪で予定が狂うのは村では常識だった。しかし、その日は積雪に加え激しい風も吹いていたのだ。気長に待っていたメラルダの家族だったが、吹雪いてきたため道中問題が起こっていないかと心配していた。その中でも、特にメラルダは心配で仕方ならなかった。


「私が行ってくる!」


 メラルダは防寒着を着込むと、この吹雪の中親戚の安否を確認しに行ったのだ。


 そこまで心配するとは相当重要な人物なのだろう。


 だが、事は悪い方に動き出した。メラルダがいなくなったことに気づいた両親たちによって、すぐさま捜索が開始された。だが、吹雪の影響で視界が悪いためなかなか見つからない。


 俺はもしや、と思いいつも遊んでいる山中へと向かった。


 吹雪の中なんとか到着すると、案の定メラルダはいた。斜面に空いた穴の中で凍えながら、赤子と一緒に縮こまっていたのだ。


 なぜ赤子が一緒に居るのかと思い近くを調べると、そこには大破し放置された血まみれの車があった。


「車に乗ってる女性が、襲われたの……」


 メラルダは息も絶え絶えになりながら何があったのかを語ってくれた。


 魔獣は車に襲いかかると、装甲を引き剥がし中の女性を襲ったそうだ。そして、その女性は最後の力を振り絞り赤子をメラルダに託したのだ。


 何があったのかについては、わかった。だが、良からぬ事が起きる。そんな気がしたのだ。


 俺はすぐさまメラルダを引き連れて帰ろうとした。だが、それを見た途端足が動かなかった。凍りついたわけではない。目の前に、凶暴な牙を向けた猪のような魔獣がいたのだ。その魔獣は、俺を獲物としてしか見ていない。確実に襲われると思った。だが、俺は恐怖故に足が固まり、動けなかった。


 そんな俺を気にすることもなく、その魔獣はどんどん近づいてくる。そして、魔獣は襲いかかった。


「だめ!」


 メラルダの声がしたのだ。俺はメラルダに突き飛ばされた。体についた雪を払い落とし、恐る恐る目を開けてあったのは……血まみれになったまま魔獣の口に入っているメラルダだった。


「……え?」


 わけがわからなかった。魔獣の口からメラルダの下半身だけが出ている。しかしそれも一瞬。魔獣はメラルダを全て飲み込み、続いて俺を狙ってきた。もうだめだと思った瞬間、銃弾が魔獣に撃たれたのだ。さすがの魔獣も、銃には敵わず撤退吹雪の中どこかへ消えていった。


 銃を撃ったのは警察だった。魔獣を感知してこの吹雪の中山を捜索していたらしい。その後、俺と赤子はすぐに保護され遠い病院に連れて行かれた。俺はメラルダをと一緒に帰ると駄々をこねたが強引に病院に送られた。


 低体温症と診断され、病院に強制入院。だが、メラルダを失ったショックは大きく食事が喉を通らなかったりと、入院はかなり長引いた。俺は精神的にも衰弱していたのだ。だからだろう、あのことを伝えなかったのは。


 低体温症は完治し、精神面も大分良くなったため退院することになったときだ。いざ故郷に帰れると思ったときに、さらに衝撃の事実が告げられたのだ。


「アバンダは、もう無いんです……。魔獣に襲われ多大な被害を受け廃村。あなたのご両親は、遺体で発見されました」


 やっとメラルダを失ったショックから立ち直れるかと思ったらこの仕打だ。俺は退院した途端、再び全身の力が抜けて再入院となった。


「落ち着いて! 落ち着いて。ね?」


 俺は閉鎖病棟に入れられ看護師に必死に諌められた。幼馴染を失って、家族を失って、村までも失った。


 落ち着いていられるわけがないだろ。


 俺は閉鎖病棟を抜け出し、その街でグレた。怪しい薬に手を染めたこともある。暴行や窃盗で刑務所に入ったこともある。だが、グレたところでどうにもならないのはわかっている。俺は一体どうすればいいか。必死に考えた末一つの結論を出したんだ。


『なら、魔獣を殺せばいい』と。

4,5話でカルロスの一人称がぶれていたので訂正しました。

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