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第4話 ストーカー

「リヴェノ兄ちゃん! 最近ミレーラ姉ちゃんの様子がおかしいんだ。後パンケーキまずい」


 孤児たちに自家製のパンケーキを振る舞っていたときのことだった。パンケーキは不評であったが、そこは別に問題ではない。問題は、ミレーラのことだ。真面目に聞いてくれている生徒が一人いるかいないかで講義のモチベーションが大きく変わってしまう。


「ごめんな。このパンケーキの作り方しか知らないんだ。で、ミレーラの様子がおかしいってのは?」


 パンケーキをもう食べたくないのか、一口かじっただけで全く手を付けていない孤児たちは、互いに顔を見合わせた。そして、一番近くにいた少年が答える。


「移動するとき、常に何かを気にしてるような感じだった。振り向いたり、辺りを見渡したり」


 何かを探しているのか。あるいは、ミレーラ自身が何者かによって探されているのか。乏しい情報からではまだ判断できない。


「あと、防犯用の魔道具とかもいっぱい持ってた」

「最近、顔色が悪いの!」


 事態は相当深刻そうだった。防犯用の魔道具を持っているということは、何者かから狙われている? 他に考えうるのはストーカーだろうか?


 子どもたちが帰った後、机の上に残った大量のパンケーキを放置して外に出た。理由は単純明快、本人にことの真相を聞くからだ。


 そもそも、情報源は孤児からしかないのだ。孤児が誤認などしている可能性は否定できない。


 俺はミレーラの仕事が終わる時刻を孤児から聞き出し、働いている店の近くで屯していた。十八歳未満なので、そこまで長時間労働ではない。十八になり児童養護施設を出なければならなくなったときのために、貯蓄しているのだろう。


「お疲れさまでしたー」


 俺が暇つぶしのために思い耽っていると、店からミレーラが出てくる。なので、俺はミレーラの元へと向かった。


「あ、リヴェノさん? どうしたんですか?」

「児童養護施設の子から聞いたんだけど、もしかして付けられてる?」

「え……」


 ミレーラはまるで時間が止まったかのようにピクリとも動かなかった。俺が心配しだしたときにまた動き出し、俯きながら俺に語りかける。


「ええ、そうなんです。多分、中年男性だと思います」


「中年男性?」


 言ったからには、少なくとも姿を一瞬でも見たことがあるのだろう。


 でも、中年男性がつきまとう理由が何かあるだろうか? ミレーラも曖昧な表現しかできないというと、決してミレーラの顔見知りとは考えにくい。それとも何かしようとしている?


「わかった。俺が遠くから見守るよ。そして、怪しいやつがいたら捕らえるよ」

「いいんですか? 私なんかのために……」

 

 ミレーラはどこかで見たような顔立ちだ。もしかしたら、俺の知り合いの中に親戚がいるかもしれない。いや、知り合いがいたら児童養護施設に入ってなんかいないか。


 一瞬理由を答えそうになるが、亡き家族を思い出させるのはつらいと思うので心のなかに引っ込めておく。


「いいよ。それに、そんなに自分を卑下しないで」

「……は、はい」


 こうしてミレーラのストーカー捕獲作戦は始まった。


 今から行うことになったのだが、早速怪しいやつがいた。数日間徹夜を覚悟していたが、杞憂に終わってしまう。


 年齢は四十代程度の男性だ。薄っすらと見える髪の色はきれいな白髪。王国人に白髪はいないので、異邦人の可能性が高い。しかし、ただ怪しいだけで、ストーカーとは限らない。俺は慎重に男を尾行する。


 店が町外れにあるため、児童養護施設まではそれなりに距離がある。しかし、男は店から児童養護施設まで見事にミレーラを一定間隔を空けながら尾行していた。そして、ミレーラが児童養護施設に入ると、尾行を止め帰ろうとする。しかし、男の前に俺が立ちふさがった。


「すみません、ちょっと警察まで行きましょうか?」

「え、何で?」


 俺は男性を引っ張り、交番へと引きずる。しかし、男は声を荒げ必死に抵抗を試みる。


「ま、待ってくれ! わ、私は記憶を取り戻したいだけだ!」

「……記憶?」


 意味深な発言に俺は男を引きずる手を止めた。


「ああ、私は記憶を取り戻したい」


 男は悲観した様子で俯きながら答えた。男の名前はカルロスさんというらしいが、本名は思い出せずあくまでも仮の名前らしい。そして、鞄の中から若い頃のカルロスさんと、別の女が写ってる写真を取り出す。


 デート写真の様に見え、写っている女はミレーラによく似ていた。


「私は十六年前、この近くで倒れていた。重症だったらしく遠くの大きい病院に入院して、意識が戻ったはいいが記憶が何もなかった。でも、私の服のポケットにこの二枚の写真が入ってたんだ。私は探そうとしたよ。でも、金が無いと探しようもない。働きながら、探し回ったよ。そんなとき、この写真に写ってる女生徒によく似た人を見かけたんだ」


「それがミレーラか……」


 確かに、写真に写ってる女性はミレーラによく似ており、ミレーラの母親と言われても違和感がない。


 それに──。俺の知っているもう一人の人物ともよく似ていた。


「わかりました。ミレーラと話をしてみます」


 気づけば、俺はそう答えていた。

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