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第2話 移住

 一カ月後、俺は拠点にしていた大学を辞めていた。


 そして、王都から遠く離れたバックカントという王国北方にある地でスローライフを送っている。というのも、政府が国策として農村部への移住を促していたのだ。何でも王国への一極集中が問題で、待機児童問題など問題が山積みらしい。


 あの宰相が実権を握っている政府の政策に乗る気ではないが、パンケーキとの関連はなくまともな政策だったために乗っかったのだ。宰相のパンケーキ依存も改善されたのだろうか?


 一つ変わったことがあったとしたら、穏やかな生活になれたためなのだろう。あまり魔術会議のことが気にならなくなっていた。


 魔術会議に推薦されるだけあって、俺には一応魔法の知識・技術ともに十分すぎるほどの実力があった。なので移住してからも魔法を駆使し、郊外にある畑で小麦を育てながら平和に暮らしていた。


 俺は慣れないながらも頑張って作った朝食のパンケーキを頬張りつつ、テレビをつける。最近になって見られるようになった民間の放送局だ。つい先日ようやく近くに電波塔が設置されたらしい。見覚えのある三人が記者団の前で会見している様子だったため、俺は食べるのも忘れて会見に見入る。


「確かに、私共の研究を悪用すればわが国が混乱に陥るということもありうるでしょう。しかし、適切に使用すればなんら問題はないものだと思っています。殺人事件が起こってるからといってナイフや包丁を規制するべきでしょうか? 否、違うでしょう! それに、諸外国と比べてわが国は国民の民度のレベルが違う。悪用しようとする者がいても管理を徹底すれば悪用されることはありません」


 生放送ではなく昨夜に行われたものらしい。会見が終わると、今回の問題と要点が簡潔にアナウンサーによって述べられる。政府に対してかなり批判的に見える。


「さあ、コメンテーターの皆さん。どう思われますか?」


 読み上げていたアナウンサーは、カメラ目線から映像右側に座っているコメンテーター達に語りかけた。そして、その中の一人が真っ先に口を開く。


「これは問題ですよ。国家機密ということで横暴が許されるのなら国会がパンケーキショップになっても国家機密で済みますからね……。反政府運動が活発化するのも時間の問題ですね」

「そうでしょうか──?」


 そのコメンテーターは生粋の反政府派らしく身ぶり手ぶりなどを交え強く政府を批判する。しかし、反論を言いたげにしていた別のコメンテーターによって口を挟まれ会話の主導権が移る。


「そもそも、任命拒否されたのは──」


 政府を擁護的なコメンテーターが文を言い切る前に画面は変わり、画面には大きなフィヨルドを進むクルーズ船が映し出された。


 数秒待った後、再びテレビスタジオが映し出されるも政府を擁護したコメンテーターはいなくなっていた。


「あのコメンテーターの方は、急遽体調不良のためお帰りになりました。では、引き続き番組を御覧ください──」


 本当に体調不良なのだろうか? にしては、仕事が早すぎる気がする。吐いたとかならまだしも、あのコメンテーターに何らそんな様子はなく生き生きと擁護しようとしていた。


 何かがおかしいような気はするが、俺は特に気にしないことにした。


 さて、パンケーキの続きをと……。あ。

 熱々であったパンケーキはすっかり冷めきっており、俺はよく咀嚼しながらパンケーキを食べる。だが、先程と同じものを食べたにも関わらず違和感があった。


 きっと、頑張って作ったのだから美味しいという先入観でも働いたのだろう。


 正直見た目はそこそこだが、できたつもりだ。だが改めて食べてみると、このパンケーキはどこかで調理方法を間違えてしまったのか、あまり美味しくはないものだった。


 何とか良くしようと、シロップやらジャムやらをいっぱいかけてみる。


 うん。これは、何だ。


 シロップやジャムをいっぱいかけすぎてできたのは、さまざまな物が混じり合った結果灰色になってしまった何かである。


 さすがにこれは食べる気が失せる。だが、きちんと食べなければいけない。とはいえ、見た目を気にしつつ掛けていたので、傍から見ればギリギリパンケーキに見えなくも……ないと思う。


「あ、味はいいから……」


 人間、モチベーションを維持するには少しでも肯定的になるのが大切だ。震え声だったけどね。


 パンケーキだって見た目がまともになれば、より意欲が湧く。


 俺は他にも写真を撮って自己肯定感を高めた後、パンケーキを頬張る。


「……」


 うん。これ何だろう。シロップやらジャムを吸いすぎて水っぽくなって全く美味しくない。パンケーキとは似ても似つかない味だった。


「これは……。もっと練習しないとな……」

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