第四十三話
疲労感を無視して何とかマンションへと帰った俺とヴァルは早速食事を行うことにした。
冷蔵庫には前から買ってあった最後のワイバーン肉と鉄鎧海老がある。
ヴァルの食事となる魔力も帰ってくるまでにそこそこ回復しており、彼女にもちゃんとあげれる程度には魔力の量がある。
(さぁて、食べるとしますか)
今日はワイバーン肉を使った焼肉だ。
ホットプレートに手ごろなサイズに切ったワイバーンの肉を置き、しっかりと焼いていく。
ジュウジュウと肉の焼ける音と、匂いが食欲をそそる。
(ヴァルには魔力だな)
俺はヴァルの身体に触れながら、魔力を供給していく。
ほにゅんとヴァルの肉体に俺の指が沈んだ。
(なんか、柔らかくないか?)
ヴァルの肌が少し柔らかい気がする。
前に触った時は陶器のような硬さだったのに、今は人間の肌ほどではないものの、柔らかさというものを明確に感じることができる。
ヴァルの顔を見てみると、そこにある顔は人形のそれよりも人間の女性に近づいているような気がした。
人によってはヨーロッパ系の女性に見間違えられるかもしれない。
少なくともモンスターといった雰囲気ではないような気がする。
(まさかな)
そう思ったものの、俺の頭の中にはある情報が浮上した。
レベルが上がっていけば、モンスターは姿を変えていく。
低位のモンスターであるスライムを使役していた、テイムのスキル持ちが、後にスライムキングと呼ばれる高位のモンスターに進化させて、Bランクの若手有望探索者になったなんて話もある。
ヴァルのレベルが上がって、進化のようなものをしたのかもしれない。
(まあ、その辺はおいおいでいいか)
深く考えて何とかなる話ではないし、そもそもヴァルはユニーク・モンスターだ。
情報なんてないのだから考えるだけ無駄だろう。
ヴァルが進化していくのは俺としても嬉しいし、戦力が強化されるのだ。
歓迎こそすれど、迷惑だなんて思うはずもない。
(おっ焼けたな)
早速肉が焼けたので、肉を箸で取ると焼き肉のたれにつけてから口へと運ぶ。
口に入れ歯で肉を嚙み切ろうとした瞬間、口の中いっぱいに溢れんばかりの肉汁が弾けた。
(うまい)
本当にワイバーンの肉は美味いな。
今度、また買おう。
(疲れも少し取れていくような感じがする)
疲労してる時は身体に肉が効くのか。
肉を食べれば食べるほど、疲れが取れていく感じがする。
(そろそろ鉄鎧海老も溶けたかな)
鉄鎧海老は元々冷凍庫にあったので、肉を焼いている間に解凍していたのだ。
解凍されていることを確認すると、下処理や味付けをする。
(焼くか)
鉄鎧海老は昔から日本に生息する伊勢海老に近い見た目だ。
身体を真っ二つに切ってある鉄鎧海老の切り身を、それぞれしっかりと焼いていく。
味噌が程よく焦げていい感じだ。
(できたな)
しっかりと火が通ったことを確認すると、焼き鉄鎧海老を食べてみた。
(うっま)
濃厚な味噌とぷりっぷりで甘みの強い身が最高に美味い。
探索の後というのも良かったのだろう。
空腹感が良い食材をより際立たせている。
(あ~、幸せだ)
俺は時折ヴァルに魔力供給を行いながら、今日の稼ぎを祝いつつ最高の食事に舌鼓を打つのであった。
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