第三十七話
ミノタウロスとの激闘(ほとんどヴァルがやっていたが)の後、俺は心の中でヴァルに感謝を告げながらミノタウロスの死体から素材を剝ぎ取っていた。
ミノタウロスのような巨体の剥ぎ取りはなかなかの手間ではあるが、それを補って余りある利益がある。
(ミノタウロスは倒すのが大変な分、高値で売れるんだよな)
ミノタウロスの魔核はゴーレムのものよりもさらに二回り程度大きく一個一万円、頭の角も一本五千円の角が二本で一万円で売ることができる。
時価で多少の変動もあるが、一匹あたりだいたい二万円の収入になる。
(なかなかな儲けにはなるが、稼ぐのは難しいだろうな)
通常のミノタウロスの討伐はレベル50以上の探索者が四人以上のチームを組んで行うことが推奨されており、一匹の報酬を四人で分けたら一人五千円程度にしかならない。
皮を剥いだりすればもう少し金になるが、周囲に無防備な状態が長くなるし、一匹あたり三万円を超える報酬は得られないだろう。
探索者は自身の装備の新調や整備、スキルオーブなどによる戦力強化などをしなくてはいけない。
ミノタウロスの報酬はそこそこ旨いが、一般のレベル50程度の探索者にはミノタウロスはあまり旨味がないモンスターに映るだろう。
(俺には関係がないがな)
だが普通の探索者には旨味がないように見えるモンスターも、俺には関係ない。
ヴァルは俺のモンスターなので、報酬を分ける必要はないし、現在はヴァルと二人で探索をしているので他に報酬を払う必要もない。
二万円もの利益を全て得ることができるのだ。
俺にとっては旨味しかないモンスターである。
(もう少し狩りやすくもなるだろうしな)
先程は苦戦を強いられたミノタウロス戦であったが、それは今回の戦闘が初めてであったことが大きい。
初見の相手は情報が足りておらず、どのような形でモンスターを討伐すべきかの感覚を掴めていない状況で戦うことになる。
そのため、モンスターの実力が高いと不測の事態が起きやすくなる。
ミノタウロス戦のように、頼りにしていた雷撃の効果が今一つであったり、白兵戦の得意なヴァルが想像以上に苦戦をしたりなど、明らかに自分に不利な出来事が起きてしまうのである。
他にも、俺自身の手で倒したいという欲が出てきていた事実など、俺の探索者としての経験不足も事態を悪化させる要因になっている。
だが、今はそれらの情報が俺の頭の中にあり、次に戦う時はその欠点を克服して戦うことができる。
正直、次に同じような状況になっても苦戦するどころか割と簡単に倒すことができるだろう。
(ミノタウロスを狩れば、稼げるんだろうなぁ)
ゴーレム狩りよりも危険度は高いが、一匹あたりの報酬が美味しい。
二十匹狩ることができれば四十万円もの利益である。
それが一日で入ってくるのだ。
どうしても魅力的に映ってしまう。
(まあ、そこまでリュックに入らないんだけどな)
現実的な話として、そこまでの量が入らないし、荷物が重くなれば機動力がそがれるというデメリットがある。
ただでさえヴァルに比べて身体が脆い俺は、この階層において魔術を使えなければ直ぐに死んでしまう存在だろう。
そう考えるとミノタウロス狩りを率先して行うには、いささかリスクが高いようにも思えた。
「よし、とりあえず転移ポータルを目指しながら、ミノタウロスを倒していくことにしよう」
転移ポータルというセーフティゾーンの確保をすることが最優先だ。
その道中で出会ってしまえば討伐し、出会わなければ無理に狩る必要はないだろう。
(狩るか狩らないかを決めるのは安全圏を確保してからでも遅くないだろうしな)
俺は探索の方針を決めると、ヴァルと共に転移ポータルを目指すため、第十層の探索を続けるのであった。
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総合評価が30000ptまで1000ptを切りました。
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