第百五十話
「ということでだ」
俺とヴァルは佐々木ダンジョンから自宅に帰還して……いなかった。
その理由は、人喰いペリカンを確実に倒せる方法を見つけたものの、まだ正面切っての戦いはできていないからである。
あまりにもスッキリしない状態でダンジョンから帰還する選択は、選びたくはなかった。
(甘い考えなのは重々承知だが)
俺としても欲を出し過ぎるのは探索者として好ましい行動ではないと思っているが、まだ余裕があるうちに、キッチリと戦って勝てるようになっておきたいとも思っていた。
あくまでも、自分の欲求のみのものではなく、将来的なことを踏まえてのことである。
折角、魔術を使って様々な戦法を取ることができる上、今は魔刀もある。
ちゃんとした攻撃手段と自身を強化する術があるのだから、強力なモンスター相手に戦ってみるのも一つの手だと思っていた。
「ヴァル、俺と一緒に人喰いペリカンと戦わないか?」
「もち」
ヴァルが親指を立てて、自信満々の笑みを浮かべる。
彼女は明らかな戦闘狂であり、俺とは明確に違う。
俺は戦う術があるからこそ望めるが、ヴァルは戦う術を持たずとも、手足が千切れようとも目の前の敵を屠りにいくだろう。
(勝手なイメージだが)
正直、最近のヴァルはほとんど人間みたいなものなので、そんな戦闘マシーンのようなイメージが出にくい。
だが、彼女はモンスターであり、人ではない。
精神構造が、必ずしも人間と同じとは限らないのだ。
「よし、やるか」
同意も取れたので、探索を再開する。
慣れも生まれてきたので、やや早い足取りで、ダンジョンの中を進んでいくと、10分もしないうちに、人喰いペリカンの気配を、俺は魔術で察知した。
「見つけたぞ」
グッと刀を握る手に力を込めると、今までにはなかった筋肉が隆起する。
ダンジョン探索に加え、ウエイトトレーニングを通して、俺の肉体は既に大きく変化しており、大柄とは言いにくいが、かなりがっしりとした体つきになっていた。
肉体に精神が引っ張られるほどではないが、折角鍛えた肉体を十全に発揮する戦い方もしてみたいという気持ちはある。
「来るぞ」
人喰いペリカンが、こちらを認識した。
「【結界】【肉体強化】【身体強化】【神経強化】」
四重に魔術を発動し、レベル200の肉体を大きく超える身体能力で、人喰いペリカン戦に臨む。
俺は圧倒的な爆発力を身体に溜め込みながら、鞘に手を添え、いつでも抜刀できるようにした。
「ヴァル」
人喰いペリカンがこちらに向かって降下してきたが、前に出たヴァルが大盾を構えたまま突進し、両者が激突する。
破砕音が聞こえ、壊れていたのは人喰いペリカンの嘴の先端であった。
人喰いペリカンは自身の嘴が砕かれたことが衝撃的だったのか、驚いた表情を作るが、次に彼女が放った細剣の一撃にそうもしていられなくなる。
(今だ)
俺はこれまでの戦闘で掴んだタイミングを元に、居合の要領で、鞘に収まった刀を抜き放つ。
あまりにも速い斬撃は、人喰いペリカンに避ける動作すらさせず、その頑丈な羽毛から肉まですべて切り裂いていた。
(一瞬だったな)
人喰いペリカンは地面に倒れ伏す。
刃の長さが足りなかったから両断できなかったものの、熱したナイフでバターを切るように、魔刀は人喰いペリカンの身体を切り裂いていたため、感触らしいものはほとんどない。
ただ、白兵戦で人喰いペリカンに打ち勝ったという、結果だけが残っていた。
「やったな」
「いえ~い」
ヴァルとハイタッチをし、お互いに笑みを浮かべる。
前戦とは異なり、モヤモヤとした気持ちにならない、晴れやかな勝利であった。
読んでいただき、ありがとうございます。
今後とも、この作品をよろしくお願いいたします。




