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第百四十三話

 

 オーガに快勝した俺とヴァルは、佐々木ダンジョン、第二十六階層の奥へと進んでいく。


 周囲の警戒も怠ることなく、ヴァルにいつでもモンスターの存在を伝えられるように、魔術を使い、気配を探り続けていた。


「ヴァル、たぶんだが、オーガとかち合う」


 オーガの気配そのものは、魔術によって既に探知していた。


 ダンジョン内の構造は途方もなく複雑、というわけではないが、必ずしも自身が有利な状況に運べるわけではない。


 待ち伏せが可能であれば、奇襲を仕掛けるように準備すべきであるが、今回は階層内の構造上、そうしたことはできず、正面からの会敵になりそうであった。


「ヴァル、俺も戦ってみようと思うんだが、どう思う?」


 俺が魔刀を触りながら、ヴァルに視線を向ける。


 彼女は少し考え込んだと思うと、頷いた。


「いける」


 その瞳には普段大食いで、見せるような色はない。


 冷たく、それでいて熱を感じさせる。


 ただ、冷徹に戦いにおける俺を評価しての結論であることを物語っていた。


「了解。いつも通り、危なくなったら頼む」


 二体目のオーガを発見した。


【身体強化】と【肉体強化】の重ね掛けで身体を大幅に強化する。


 そして、駄目押しの【神経強化】をかけ、一気に距離を詰めた。


 目の前をオーガの大剣が通り過ぎる。


 既にこちらを感知しており、カウンターを用意していたようだ。


(余裕だな)


 最初に掛けた二つの魔術よりも、使われることは少ないが、肉弾戦を得意とする魔術師の間ではスタンダードな魔術、【神経強化】。


 この魔術は、主に動きの速さを引き上げることが目的の魔術だ。


 当然のことながら、【身体強化】などの魔術を行使しても動きは速くなるが、反応速度などは【神経強化】の方が大幅に向上する。


 実際問題、使われにくいのも、普段使っている二つの魔術の方が、より実戦向きということが理由だ。


 【神経強化】の弱点として、肉体の強度がそこまで上がらないため、強い衝撃への耐性はそこまで向上しない点が挙げられる。


 かつての俺の場合、剣術の技量が高くなく、武器も上等なものを使っていなかったこともあり、無用の長物であった。


(今は違う)


 俺はオーガの僅かな動きを感じ取り、それに合わせて、上手く躱すことに成功した。


 攻撃の意識を感じ取るというよりも、動きを見て避けた形である。


 いつもよりも圧倒的な反応速度で、攻撃に対応しつつ、攻勢に出るタイミングを見計らう。


(圧力そのものは凄いな)


 オーガから感じられる圧力は凄まじいものがある。


 武器術を一定程度修めているからか、間合いの作り方などは作為的だ。


(絶妙に面倒だ)


 現時点で、オーガより素早く動けているが、それでもリーチ差が大きく、一手で詰め切るには至らない。


 俺は冷静に思考を巡らせるながら、目の前のモンスターを睨みつけるのだった。



読んでいただき、ありがとうございます。

今後とも、この作品をよろしくお願いいたします。

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