第十三話
クビナガトカゲは東雲さんの威圧で追い払っていたので、すんなりと第三層を抜けることができた。
処理するのが面倒なクビナガトカゲだが、威圧のスキルがあれば、なんてことはない存在だ。
(東雲さんが強いおかげなんだが)
俺は横を歩く女性を見る。
見た目は相変わらず十代の少女のようであったが、戦う時に見せた圧は同じ人間とは思えないほどに凄まじいものだった。
荒れ狂う熊が傍にいるような感覚で、本当に生きた心地がしなかった。
(Cランクの探索者がここまで強いとは思わなかったが、いい経験をできた)
Cランク以上の探索者には絶対に喧嘩を売ってはならない。
まともに戦えば、俺の命なんて紙くず同然。
クシャリと丸められて、簡単に捨てられてしまう。
「東雲さん、次の第四層のモンスターは稼ぐのにいいんだよな」
「はい、第四層にいる鉄鎧海老は殻に鉄が混じっており、かなりの硬度を誇りますが、中にある身は絶品だと有名です」
この海老は体長五十センチほどの巨大な海老で、生け捕りにすれば一匹当たり一万円で売れる高額モンスターだ。
「ですが、この鉄鎧海老は魔法を撃ってきます」
そう、この鉄鎧海老というモンスターは遠距離への攻撃手段があるのだ。
この海老を高額で売るには生け捕りにするしかないのだが、魔法という攻撃手段のせいで俺のような初心者は殺してしまう必要があるため、状態が悪くなる。
そんな鉄鎧海老は碌な値段で買ってもらえず、十分の一の値段にもならないかもしれない。
その上、あまり数がおらず、狙って狩るには旨味のないモンスターだ。
「東雲さん、どうする?俺はスルーしてもいいと思っているんだが」
「そうですねぇ・・・確かに商品として探索者協会に売っても二束三文にしかなりませんが、自分たちで食べる分には、商品の状態は関係はないので、狩ってみてもいいと思います」
それは盲点だったな。
自分で食べるために狩るということは考えていなかった。
「じゃあ、見つけたら殺して持って帰るということで」
「はい!」
俺たちは次の階層での方針を決定すると、第四層へと進んでいくのであった。
♦♦♦
「第四層は水が流れているんだな」
水たまりを踏んづけたのか、ぴちゃりと水が跳ねる。
第四層にはところどころで水が流れており、今までの階層とは少し違うように感じられる。
「ダンジョンの内部にも個性があったりしますから。同じダンジョンであっても、雪が降っていた階層を抜けて次の階層に行ってみたら、溶岩があったとか。基本的には根城にしているモンスターが住みやすい環境が構成されていますが、例外もあります」
へえ、そんなダンジョンには行ってみたくないな。
環境に殺されてしまいそうだ。
喋りながら第四層を歩いていると、ようやくモンスターに出くわす。
(威圧を使っていなかったのに、なかなか出会えなかったな)
威圧を使っていなければ直ぐに出会うんだが、今回は十分経っても出会うことはなく十五分ほど経ってから、ようやく鉄鎧海老を発見した。
俺は鉄鎧海老に一呼吸で一気に詰め寄ると、流れるような動作で刀を抜き放ち、鉄鎧海老の頭に突き刺した。
ずぶりと、思ったよりも簡単に切っ先が鉄鎧海老の中へと入っていく。
俺はしっかりと突き刺したことを確認すると、刀を捻り、確実に仕留める。
「速いですね・・・先程見せた私の動きの模倣ですか」
流石にバレるか。
俺は先程クビナガトカゲを相手にした動きを元に刀を使ったのだが、東雲さんの動きが速すぎてそこまでしっかりと目で追えなかったのと、元々の俺の技量が大したことがないのも相まって、技としての精度は1割程度だろう。
「俺だって剣士の端くれだ。あんな動きを見せられて黙っているだけというわけにもいかないだろ」
ホントは魔術師なんだが。
これで俺が剣士というのも少しは印象付けられただろう。
「まさか一度見ただけで模倣してしまうとは思いませんでした」
「この程度の模倣は別におかしくないだろ」
「確かに精度はまだまだですが、ここまで早く使うことはできませんよ。才能があるんでしょうね」
東雲さんがどこか凄いものでも見るような目で俺を見てくる。
(いや、俺に剣術の才能はないよ。というか、これもどうせ魔術のおかげだし)
俺は魔術という最高のスキルに感謝の念を心で唱えながら、鉄鎧海老をリュックから取り出した袋の中へと詰めるのであった。
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