第1話 冒険の始まり
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渡された革鎧は、頭以外を付け、そのまま冒険の旅に向かった。
頭を付けない理由は、ノノが帽子などの上を嫌がるのである。
兜は瑠愛に返し、草原地帯を目指して、ギルドを飛び出す。
草原地帯に続いている門を抜け出し、走り出した。
ゆさゆさと揺れる頭上だが、ノノは全く落ちずにのんびりと寝転んでいた。
そのまま走り続けること約5分、強大な橋の中心から小ゴブリン達が突然襲ってきた。
冒険者あるある【出待ちされて死にました!】だ。
死ぬのを回避するために、ゴブリン達の動きを詠み回避し、貰った銅の剣を鞘からだし、襲ってきたゴブリン達を真っ二つに斬り落とした。
「出待ちゴブリンとはこの事か。しかし、ゴブリンの肉は美味しくないから売りに戻るか...」
五体のゴブリンを地面に引きずりながらギルドに戻ると、周りから避けられた。
なにか間違ったことしたか?
ゴブリンの返り血を身体全体に浴びており、堂々とギルド内に入ったのがまずかったらしいのだが、全く気にしずに受付に行った。
「あんたね! 説明聞かずに突然ゴブリンを討伐してくるとかほんとに馬鹿なの死にたいの?」
「瑠愛姉、そもそも言ってなかっただろうが説明…」
「そうだっけ? 覚えてない」
「あんたなぁ〜!」
惚けた瑠愛を少し怒りながら話していると、ギルドの職員の人が近ずいてきた。
「ほほぉ、中ゴブリン五体ですか。さすがギルマスの息子と言ったとこでしょう」
「あ、先輩。すみません、うちのバカ弟が…」
「いえいえ、お気になさらずに…それよりこのゴブリンの始末頼んでも?」
「あ、はい。あんたも手伝いなさいよね!」
「うぃー」
瑠愛に引っ張られ、真っ二つになったゴブリンを奥の部屋に持って行った。
粉砕機の中にぶん投げると、頭の上からノノが落ちてきた。
やばい、このままじゃノノが粉砕機の中に!
中に入る前にキャッチすると、肩を伝って頭の上に寝転んできた。
「にゃん! にゃーにゃー」
「ノノ、お前も気おつけろよなぁ〜」
「シャー!」
「いや、なんで怒るし…」
ゴブリンを粉砕機にぶち込んだあと、瑠愛姉に「シャワー浴びてきなさい!」と言われ、ノノを瑠愛姉に預けシャワーを浴びに行った。
再度支度を終え、預かっていたノノを頭の上に乗せ、何も無かったかのようにまた草原地帯に向かった。
さっき襲ってきたゴブリン達は、一瞬で倒した俺の事を見て恐れたのか襲ってこなくなった。
少し安心し、遺跡があるという場所に向かうと途中ゴブリンに遭遇したがやはり襲ってこない。
血のせいなのか、俺のことに気が付かないらしく頭の上に乗っているノノも警戒されなかった。
遺跡に向かう道中、アングリルの森の川沿いで腰を下ろしていた。
珍しくノノが、頭の上から降りてくると俺の膝で寝転んで眠っていた。
俺も寝たいが、いつ何処からモンスターが襲ってくるか分からないため、遺跡までは気が抜けない。
腹減ったなぁ〜、オーガの肉ぐらい落ちてないかなぁ〜。
ドスン...ドスン...!
なにかがこっちに近ずいてくる。しかも大きい。
なにかの存在にノノが気づくと、川沿いに急に走り出しシャーといい尻尾を立てながら東の方に威嚇していた。
ノノの近くに寄り添うと、目の前に巨大なオーガが現れ、俺達を大きな木の棍棒で攻撃してくるが、即座に回避した。
動きが鈍い、図体がでかいだけでスピードはないようだ。
ノノはその場からずっと動かないため、ノノを守りながら近づいてきたオーガの足を斬り付けたのだが、すぐに傷口が塞がってしまった。
ごおおおお!と声を上げつつ、巨大なオーガは大きな木の棍棒を、背後に投げ捨てると、背中に隠していた巨大な大剣に切り替え俺に向かって縦に降った。
受け止めたが、凄く重く返すことが出来ない。
そのまま、オーガの大剣が俺の左肩の肉を斬ると血が大量に出た。
やばい、死ぬ!
咄嗟に走馬灯が見え死ぬことを覚悟しながら叫んだ。
「誰か助けてくれぇーーー!」
しかし、誰も答えてくれない。
もうこれで終わりかよ…ごめんな。父さん、母さん、瑠愛姉。
背後からか女性の声が聞こえた。
「ご主人様は、そんなに諦め早くなかったでしょ? なんで直ぐに諦めるの?」
「こいつに勝てる気がしないからだ。それに俺は強くない」
オーガが俺にトドメを刺そうとした次の瞬間、俺と背後にいたノノは突然現れた三十重魔法陣結界に守られた。
背後に振り返った途端、ノノの姿が徐々に変わっていき、その姿は白髪のロングヘアーで、青い蛇瞳の猫耳が生えた裸の幼女に変わった。
「ノノ、お前裸だぞ?」
「ご主人様のえっちだにゃ...。そんなことよりにゃ、このオーガに刺さってる魔石見つけて欲しいにゃ!」
「それよりこれ着てろ!」
カバンからコートを取り出しノノに渡した。
ノノは渡されたコートに手を通し、胸辺りを隠した。
「ありがとにゃ...」
「それより魔石て、まさか人造モンスターなのか?」
「違うにゃ、こういう大きいやつには、必ず付いているもんにゃ!」
「なるほどな、あれか!」
右肩辺りにある赤い宝石のような魔石を見つけ、結界の外に出ると、斬られたはずの左肩が元に戻り、銅の剣で右肩にあった赤い魔石を狙い剣で斬った。
すると、ノノに攻撃しようとしていたオーガが、に横に倒れ血を吹き出した。
一体なんだったんだ…。
斬った魔石がオーガから離れ、持とうとして触ると一瞬で魔法の知識が頭の中に入ってきた。
「ノノ、ホーリーブラストてなんだ?」
「いいもの持ってたにゃ! それより食べないのかにゃ?」
倒したオーガの目の前でしゃがんでいたノノを見つめ。
「後で…それよりノノ、その語尾はなんだ」
「にゃ? あーこれね。何となく?」
「急に語尾無くすな!」
「むー、いいじゃん語尾つけるの疲れたし…」
「本音言いいやがった…」
語尾も気になるが、コートの間から色々なところが見えてしまうため、着ていたパーカーを貸した。
目のやり場が困らなくなったものの、頭の上に猫耳、背中の腰あたりには尻尾が付いていて落ち着かない。
「それよりこいつどうやって持って帰るんだよ…」
「大人達、呼んだ方がいいかもね」
「そうだな…いや待て待てその姿して、街に行くのはまずいだろ」
「そお? いつものと変わんないけど…」
「変わるわ! とにかく猫の姿に戻れないのか?」
「戻れるけど…ご主人様はこっちの方が好きなんでしょ?」
「う…なんでそこまで分かるんだ」
「小さい頃から見てきてるからそれくらい分かって当然だよ〜!」
でもその割には、幼すぎる気がするのだが…
とにかくノノには猫の姿になってもらい、頭の上に乗せ俺はオーガを倒したと報告すると、突然大人達が「案内してくれ!」と言い出し、オーガを倒した場所に連れて行くと、大人達は倒したオーガに浮遊魔法を掛け街まで運んだ。
「これはデカい! 一キロ一万はくだらんだろう…」
「オーガは大人になるにつれて美味しいからなぁ〜」
「いいだろ〜、ていうよりこれ誰か買い取ってくれない? 俺こんだけで十分だから…」
ギルドを出る前に母さんからもらった一人分の食料の袋を見せると、ホールにいた皆に驚かれた。
まだ一人なのだから仕方ない。
ノノは魚しか食べないし…
「しかしなぁ、これを山分けするのは骨だぞ」
「おーこれが紫吹がとってきたオーガか…」
オーガを見上げる皆の後ろから父さんがやってきた。
「ギルマス! これ皆で買い取って欲しいと言っているのだが、どうしたらいいかと思ってたところで…」
「なら、うちで引き取るから食堂で皆に振る舞うとしよう」
「いいすね!」
父さんが出てきたことによってオーガをどのように扱うのかが決まり、そのままギルドで夕食を取ることになった。家族には、今日あった出来事を全て話した。
「じゃあ、あんたの頭の上で寝ているノノが、人間になったてこと!?」
「うん、詳しくは俺にも分からんないけど、ノノが助けてくれたのは事実だ」
「結界魔法…しかも、巨大オーガの一撃でもビクともしないとなると、神級魔法てことかしら…でもそんな使い手、かの伝説の英雄しか使えなかったはず…」
瑠愛が驚きながら本棚から魔法に関する本を持ってきて色々調べていた。
「程々にしなさいよ〜。それより紫吹。貴方いつまでここにいられるの?」
「うーん、今日までかな、しばらくの間は戻らないと思う。森のボスを倒せたのも、ノノのおかげだから、ノノの事を調べるために世界を回ろうと思う」
「なら、ギルドの誰かをお供につけましょう。そうね〜ブリュゲルさんとかどお?」
「ブルにぃか! でも最近忙しいて聞くけど…」
「大丈夫、全部私たちに任せなさい!」
すると、頭の上で寝転んでいたノノが突然擬人化し、裸のまま俺の膝の上に座り込んだ。
「ブリュゲル…あいつまだ生きてたのか…」
「その格好で言われても困るんだけどなぁ…」
「うっさい、だから猫の姿に戻りたくなかったのに…」
「半獣人見たら誰だって恐れるだろ…」
「返り討ちにするから問題ないぞ〜」
「やめろ…」
とりあえずノノは瑠愛と母さんに引っ張られてどこかに行ってしまった。
部屋には俺と父さんだけになってしまった。
父さんは、ワインを一口飲むとポケットから赤い石を取り出した。
「お前が一番気になっていたのは、こいつのことだろ?」
「うん、それに触れた瞬間、ホーリーブラストていう魔法が頭の中に入ってきたんだ」
「なるほどな、姫神魔石だったか…」
「姫神魔石?」
「ああ、魔物はある一定の大きさになると自らの血で魔石を精製する。
その魔石にごく稀に知識が詰まっている事があるんだ。
例えば今回みたいな魔法、他には文明が滅びる前の知識、粉砕機とかはこれだな。
あとは宝の在り方とかがあるらしいが滅多にないらしい。
だが、ホーリーブラストは魔法の中で神の魔法とまで呼ばれる大魔法だ。
まだお前には扱えないだろうがな…」
「そうか…やっぱり外はおもしれぇわ」
すると、母さんと瑠愛が戻ってきた。
その後ろに、何故かメイド服姿になっていたノノがいた。
「恥ずかしいよ〜。なんで、メイド服なの?」
「何となく? 紫吹の横に置きたくて仕方ないの!」
「酷い…それなら私は猫のままでいいにゃ!」
「つれないわね〜ご主人様がずっとノノちゃんの事見つめているのに…」
「ご主人様、見ないで…」
ノノのメイド服姿に衝撃を受け、言葉が出なくなってしまった。
似合っており、凄く可愛い。耳と尻尾がいいアクセントになっている。
似合いすぎ、ていうか完璧だろ…。
「見ないでと言われても困る。それに似合ってる」
「えへへ〜」
「やっぱりツンデレか…」
「違うてば!」
ノノは否定しながらも、頬っぺを赤く染め上げている。
いつもはにゃーにゃーうるさいのに人間の姿のノノは、人一倍華族の輪に慣れていたため適応するのが早かった。
まぁ、いつも一緒に寝ているため、一緒に寝ることになったのだが、パジャマ姿のノノを見て眠れないためノノの方を向かずに寝た。
朝起きると俺は、ノノの方を向いていた。
抱き枕のように抱きしめられ色々と当たってはいるが…。
その数分後、抱きしめられていた力が弱まると尻尾が振り始めノノは目を開けていた。
「ふにゃ〜、おはよう。ご主人様」
「ああ、おはよう…ノノ。俺は真反対で寝たつもりなんだが、なんで正面向いているんだ?」
「寝返りしたからでしょ? 私に引っ付かれて、いやなの?」
「嫌ていうわけじゃないんだが…色々当たって…」
「む? ご主人は小さい方が好きなの?」
さらに身体を引っ付かせてきた。
「なんでそんな話になるんだよ!」
「だって、服の間をちらちらと…」
「ああああああああぁぁぁ!」
俺は布団から飛び出て部屋から出て行った。
洗面台で顔を洗っていると後ろから瑠愛が話しかけてきた。
「ご飯できてるから、早く降りてきなさいよ」
「へいへい、そういえばあのオーガどうなったんだ?」
「全て切り肉にして完売したよ。お母さんがそのあまりでハンバーグ作ってくれたから早く来なさいよね」
「まじか〜!」
瑠愛が一階の食堂に戻っていく中、俺は部屋にいるはずのノノを呼びに行った。
「ノノ、朝ごはんだとさ」
「にゃー、にゃにゃにゃ!」
「なぜ猫の姿に…」
にゃーにゃー言いながら、俺の股を通り抜けて一階に降りて行った。
向こうでまた擬人化されても困るので、俺の服を何着か持ってくことにした。
俺も一階に降り、賑やかな食堂に向かうと一件普通と思いきや机の上に巨大な肉が置かれていた。
「これ食べきれないぞ…」
「これくらい食って見せろ!」
「1度食べてみて? 頬っぺ落ちるほどの美味しさだから」
両親に言われて仕方なくナイフとホークを使って食べてみると、本当に頬っぺが落ちそうになるほど美味しいハンバーグだった。
なんで、こんなに美味しいのかと思ったが気にしずに食べていると、いつの間にか無くなっていた。
「あらあら、そんなに美味しかった?」
「美味しかった…もう満腹」
「いい食べぷりだった!」
「太らないのがいいよね、オーガの肉て…」
「太らないのか…」
「鶏のささみみたいな感じらしいんだけど、これ全く違う」
「まぁとにかくいいじゃないか、それより準備大丈夫なんか?」
「問題ないよ、あとは服とかなんだけど…」
「それならこれ持ってくといいわ」
母さんがタンスの引き出しから、謎の模様が書いてある指輪を2つ持ってきた。
それぞれ俺と猫化したノノに渡してきた。
「それは魔法アイテム。魔力を入れるだけで一瞬で着替えることが可能なの。しかも3セットまでなら収納可能ていう優れものなんだけど…」
「すげぇや、ありがとう母さん」
「にゃー!」
ノノは母さんに飛び掛かると、母さんの足をスリスリし初め、ノノが擬人化した途端瞬時にピンク色のワンピースを着たノノになっていた。
「おー、楽ちん! これで裸見られなくてすむ」
「女の子は裸見られるの嫌だもんね〜」
「うんうん」
ノノは母さんを抱きしめ、母さんは、上からノノ頭を撫でていた。
「さてと、そろそろ行くかぁ〜」
「うん、いってきま〜す!」
「「いってらっしゃい」」
ここまで読んでくれてありがとうございます!
・ノノの擬人化
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