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探偵など要らない学園生活  作者: 塚山 凍
Case 8 如何にして相川葉の勘は鋭くなったのか事件

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重なる言葉 或いは増える朝顔

 その後、俺は月宮にいくつか質問をした。

 だけど、それ以上の証言は得られなかったな。


 そもそも彼女は、俺の朝顔が持っていかれる様子を見てから、この件とは関わっていないからな。

 話によれば、その様子を見てから、すぐに近くの公園──学校と月宮の家の中間地点くらいのところにあったんだ──に遊びに行ったらしい。

 だから、俺の朝顔云々については、それ以上何も知らなかった。


 それを確認してから……どうしたんだったか。

 ああ、そうだ。

 一応、学校に行ったんだ。


 その時点では、俺の朝顔が持ち去られた云々とか言うのは、あくまで月宮一人の証言でしかなかったからな。

 一度、直に本当に朝顔がなくなっているのか、見ておきたかったんだ。


 それと、もう一つ。

 月宮の話が事実なら、少々危険な話になる、というのもあった。


 もし本当にそんな、小学生の物を持ち出すような人物がいるとしたら。

 それは、学校に不審者が入り込んでいる、ということになるだろう?


 だったら、教師に連絡を入れておく必要が出てくる。 

 立派な事件なんだからな。

 そう言う意味でも、一回学校に向かう必要があったんだ。


 ……え?当時からそこまで考えていたのかって?

 いや、流石に俺自身はそう深く考えていたわけじゃないよ。


 確か、学校に向かうよう提案したのは、父親の方だ。

 俺にそう言った、学校に向かう理由の説明をしてくれたのも、父親だったと思う。


 だから、俺と父親は月宮に礼を言って、また車で学校に向かった。

 尤も、そこでしたことと言えば、彼女の話を再確認しただけだったがな。


 ……実際に、俺の朝顔はなくなっていた。

 いくつか、俺と同様に持ち帰るのをサボったのか、置かれたままになっている朝顔は残っていたんだが……その中に、俺の物はなかった。


 実際にそれを見ても、今一つ信じられずに、しばらく父親と一緒に探し回った記憶があるよ。

 それが終わると、周囲にいた友人に話を聞いてみる、なんてこともした。


 ……ああ。夏休みの初日だが、校庭には俺の同級生が何人かいた。

 俺の通っていた小学校は、夏休みの間の何日か、校庭やプールを解放している日があったんだ。

 その日は、偶々開放日の一つで──その時点では午前十時くらいだったが──、もう同級生が遊んでいたな。


 ただ、当然のことだが、彼らに話を聞いても、俺の朝顔の行方は分からなかった。

 月宮の話が本当なら、朝顔がなくなったのは昨日の話だからな。

 それが終わってから遊んでいる彼らが、朝顔について何か知っているはずもない。


 だが────。

 二人、気になる証言をした子がいた。


 まず一人は、気になる証言というか、月宮の証言の再確認だな。

 校庭で遊んでいた子の中に、昨日月宮と遊んだ、という子が居たんだ。

 月宮の話の中にあった、「朝顔を運ばなくてもいいと思ったから、その後は公園に遊びに出かけた」という部分の補強だな。


 その子も、前日は公園で遊んでいたそうだ。

 そして、十二時半か、それを少し過ぎたくらいの時間に、月宮が合流したらしい。


 特に約束なんかはしていなかったそうだが……まあ、それは珍しいことじゃない。

 その公園、昼間であれば、行けば誰かが確実にいる、というレベルで小学生が遊んでいる場所だったからな。


 特に遊ぶ道具が無くても、手ぶらでフラッとやってきた小学生が遊びに加わるのは、良くある話だった。

 その日の月宮も、「手ぶらでフラッと」、何も持たずにやってきたそうだ。

 その子は、誰かが携帯ゲームを持ち込むことを期待していたから、がっかりしたとか言っていたな。


 そして、もう一人の子の証言。

 その子は、こう言っていた。


「なんかさあ、三日前くらいだけど、朝顔を弄っていたおじさんを見たことあるよ。遠目だから、よく分からなかったけど、鉢植えの近くで、なんかうろうろしていた」


 ……その子は、放課後に校庭で行われていた、クラブ活動に参加していた子だった。

 そして、活動中に、見たことがあったらしい。

 朝顔が置かれてあるスペースにいる、変なおじさんを。




「葉の朝顔を持っていったのは、その人かもしれないな。理由は分からないが、数日前から物色していたのかもしれない……まあ、ただの勘だが」


 一緒に話を聞いていた父親が、そんなことを言い出したのも、その時だ。

 俺の父親が、かなり勘が良いことは、前にも言っただろう?


 だから、その言葉を聞いた時には、確かに、と思ったよ。

 普通に考えれば、小学生の朝顔を物色する不審者なんてのは、動機が意味不明すぎるが……俺も、まだ子どもだったな。




 ええと、それから……。

 何をしたんだったか。


 ああ、そうだ。

 俺は、職員室に行こう、と父親にせがんだんだ。


 どうやら状況的に、朝顔が盗られたのは間違いなさそうだ、と思っていたからな。

 それと、小学生からすると、「先生に言いつける」という行為は、物凄く絶対的なものだった、というのもある。


 先生に言えば、解決すると思っていたんだ。

 可愛いよな。


 だけど────父親が、反対した。

 いや、反対ではないな。

 そうする前に、一度家に帰ろうと言い出したんだ。


 理由は、何だったか。

 よく覚えていないな。

 その時の俺を、丸め込むことが出来る程度には、合理的な理由だったはずだが。

 何にせよ、突然の提案だったのは間違いない。


 そう、本当に突然に────父親は、家に帰ろう、と言い出して。

 駐車場の方に、向かっていったよ。




 そして。

 その帰り道で──心なしかゆっくりと車を走らせていたな──、俺の父親はこういった。


「……なあ、葉。アレ、朝顔じゃないか?」






「ええと、少し待ってくれる?」


 急展開についていけなくなったのか、早見が手を前に出し、話を遮った。

 その顔には、困惑が強く表れている。


「……貴方の朝顔は、よく分からないけれど、怪しい人間が持ち去ったかもしれない、という話になったのよね?」

「まあ、そうだな」

「それで、一度家に帰ろうとする中で……貴方のお父さんは、何を見つけたの?」

「それはもちろん、朝顔だよ。何故か、道(・)端(・)に(・)朝(・)顔(・)が(・)置(・)か(・)れ(・)て(・)あ(・)っ(・)た(・)ん(・)だ(・)」


 語り手として全てを知っている俺は、悠然と答える。

 もしかすると俺の顔には、笑みも張り付いていたかもしれない。


 ──何かこう、早見が驚いている顔を見ると、当時の俺の反応を時間差で見ているみたいで面白いな……。


 実際、当時の俺はこんな感じだったのだ。

 父親の言葉を境に、文字通り飛び上がるほど驚いた。


 ──ただ、霧生はそこまで驚いていないな。


 チラリ、と横目で霧生の様子を観察する。

 彼女は、予想通りと言えば予想通りに反応をしていた。


 すなわち、軽く腕を組んで、目を瞑ったまま思考し続ける体勢。

 浅く、細い指を伸ばして口元に添えている様が、妙に絵になる。

 陳腐な表現だが、一枚の絵画のようだ。


「……霧生は、何か質問はないか?」


 気を回して、俺は自分から問いかけておく。

 すると、彼女はすっ、と一つの質問をした。

 まるで最初から質問を決めていたかのように、テンポのいい流れだった。


「……だったら、一つ。君の父親が朝顔について言い出した場所は、帰り道の道中に置いて、ど(・)の(・)あ(・)た(・)り(・)ま(・)で(・)来(・)た(・)と(・)こ(・)ろ(・)だ(・)っ(・)た(・)ん(・)だ(・)い(・)?」


 それを聞いて、俺は微かに目を見開く。


 この時点で、この質問が来ると言うことは────。

 流石は霧生、ということか。


「……位置としては、月宮の家と俺の家の間だな。中間地点というには、月宮の家寄りだったが」

「なるほど」


 そう言って、また霧生は口を閉ざす。


「……ちょうどその位置には、川があってな。勿論、上には橋が架かっているんだが、その橋の入口あたりが、父親が朝顔を見つけた場所だったんだ」


 あまりにも霧生の言葉が簡素なものだから、つい、俺は余計な注釈を入れる。

 勿論、何の反応も帰ってこず────俺は話を続けることとなった。






 父親は、運転をしている最中、その朝顔を見つけたらしかったな。

 行きの時には、偶々それが、橋の手すりの影になるような位置にあったから見えなかったが、帰り路では逆に真正面に見えるから、発見できた、と言っていた。


 慌てて、車から降りて駆け寄ったよ。

 持ち去られたとか、泥棒とか、そう言った可能性を考えていたところに、突然その対象が現れたわけだからな。

 驚きは大きかった。


 そして、父親の目は正しいことは、すぐにわかった。

 俺たちが育てていた朝顔には、土の部分に名札を刺してあったんだが────その見つけた朝顔の鉢植えにも、それはあったんだ。

 相川葉、と確かに書いてあったよ。


 それと、葉の付け具合だとか、蔓の成長の様子だとかも、俺のそれらしかったな。

 さすがに細かいところまでは当時の俺も覚えていなかったが、それでも、二日前までは普通に世話をしていた植物だ。


 あまりにも大きさが違えば、流石に別の物だとわかる。

 だが、その朝顔は、そんな違いはなかった。

 つまり、正真正銘、俺が育てていた朝顔だったんだ。


 見つけた時の心境?

 そうだな……驚きと嬉しさと疑問が混ざり合った状態というか……。

 いや、疑問の方が大きかったかな。


 仕方ないだろう?

 どこぞの不審者に持ち去られたかもしれない、という話になっていた朝顔が、突然道端に置いてあったんだから。

 それも、小学校よりも遥かに家に近い位置で。


 ほんの一瞬だが、まさか、朝顔自身が歩いて帰ってきんじゃないか、とまで考えたよ。

 まあ、流石に子どもの俺にも、そんなはずはないことは分かっていた気もするが。


 ああ、その通りだ。

 理由は分からないが、これは何らかの理由で小学校からここまで運ばれてきた物なのだと、理解していた。

 その時点では、過程はさっぱりだったけどな。




 ────だから、なんだろう。

 俺が、朝顔の周囲をきょろきょろと見渡したのは。


 何か、話を聞きたかったんだ。

 この朝顔が、何時の時点でここに置かれていたのか。

 誰が置いていったのか。

 誰か、周囲に目撃者は居ないのか、と。


 どうにかして、それらを知りたかった。

 このまま、「よく分からないけど朝顔は見つかったし、いいか」とはなれなかったんだ。

 そう言う意味では、当時から俺は諦めが悪い。


 ……ここで、目撃者がいなかったなら、この後の話も変わってきたんだろうが。

 幸か不幸か、目撃者は、居た。




 その人物は、近くに住んでいる老人だった。

 既に仕事は定年退職して、そのまま年金暮らしをしているような、そんなおじいさん。


 さっき、月宮の家と俺の家の間には、子どもの住む家は無いが、民家はいくつかある、と言っただろう?

 そのおじいさんは、その民家の一つに住んでいた人だ。

 俺としても、通学路の途中で見かけることがあったから、顔には見覚えがあったよ。


 何故、そのおじいさんが周囲に居たかって?

 その人、趣味が釣りなんだよ。

 だから暇な時には、家の近くにあるその川で釣り糸を垂らしていることが多かった。

 俺が通学路の途中で見かけるというのも、その釣り姿を見かける、という意味だ。


 その日は、休日の午前。

 彼としては、釣りをしない理由なんてない。

 だから、普段通り、橋の近くで釣りをするために座っていた。

 俺は、その姿を見つけたんだ。


 すぐに、話しかけに行ったよ。

 初対面だったのに、躊躇なく話を聞きに行けたのは、子どもだったからか、当時の俺の性格か……。

 後ろでは父親が制止していたような気もするな。


 幸い、彼は驚きながらも、話を聞いてくれた。

 その朝顔について、覚えていたんだ。

 彼の話は、こうだった。


「そうだなあ……わしは昨日も釣りをしたが、そう言えば、昨日からそこに置いてあったなあ。理由が分からんくて、放っておいたが」


 それと、もう一つ。

 彼は、こんなことも言った。


「わしは昨日、昼飯を食べてから……十二時半丁度くらいにここに来たが、その時点で置いてあったのを見たな」


 十二時半くらいに、既に朝顔はあったのだと。

 そう、言っていた。




 この話がおかしいことは、月宮の話を思い出してもらえば、すぐにわかる。

 彼女の話では、彼女は十二時半くらいに帰ろうとして、朝顔を取りに行ったんだ。

 その時、不審者が朝顔を持っていく様を目撃したわけだが────逆に言えば、十(・)二(・)時(・)半(・)の(・)時(・)点(・)で(・)は(・)、(・)俺(・)の(・)朝(・)顔(・)は(・)小(・)学(・)校(・)に(・)あ(・)っ(・)た(・)ん(・)だ(・)。


 だというのに、おじいさんの話によれば、十(・)二(・)時(・)半(・)の(・)時(・)点(・)で(・)、(・)朝(・)顔(・)は(・)橋(・)の(・)傍(・)に(・)置(・)い(・)て(・)あ(・)っ(・)た(・)と(・)い(・)う(・)。

 おかしいじゃないか。


 朝顔の位置が、ワープしている……いや、少し違うか。

 目撃された十二時半という時間が、そこまで正確なものではないから、断言はできないが、こう言った方が良いだろう。


 つまり十二時半の時点で、俺(・)の(・)朝(・)顔(・)が(・)、(・)小(・)学(・)校(・)内(・)と(・)橋(・)の(・)傍(・)と(・)い(・)う(・)二(・)つ(・)の(・)場(・)所(・)に(・)、(・)同(・)時(・)に(・)存(・)在(・)し(・)て(・)い(・)る(・)。

 全ての証言を信じるなら、そう言うことになる。

 朝顔が、何故か、二つに増えているんだ。


 そして、小学校にあった方は、月宮の話によれば、どこぞの男性が持っていき。

 橋の傍に置かれた方は、そのまま放置され。

 次の日、俺の父親が発見した。

 流れとしては、そう言うことになってしまう。


 ……なあ、霧生、早見。

 当時の俺は、この謎を前にして、途方に暮れたんだが。


 これは一体、どういうことだと思う?

 霧生と早見の推理を、聞かせてくれ。

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