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探偵など要らない学園生活  作者: 塚山 凍
Case 8 如何にして相川葉の勘は鋭くなったのか事件

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宿題 或いはラッキーな出来事

 ええと、それで、何の話だったか。

 ああ、そうか。

 俺の子どもの時の話だな。


 とりあえず今までの話通り、俺はそこそこに元気な、どこにでもいる子どもだった、とだけ覚えていてくれたらいい。

 別に、俺がどういう子どもだったかは、これから話すことにはそこまで関係がないんだが……言って置いた方が、イメージしやすいだろう?


 そして────ここからが、話のメインだ。

 俺が小学二年生の時の、夏休みに入る直前に体験した話。

 七月のことだから、丁度、八年前の今くらいの時期の話だな。




 霧生や早見は体験したことがあるかは分からないが……俺が通っていた小学校では、二年生に課される宿題に、「朝顔の観察」って言うのがあった。

 まあ、小学生の宿題としては、ごく普通の奴だな。

 他の小学校では一年生の時にやるのが多いらしいが、うちの小学校では、二年生の時にやるようになっていたんだ。


 内容としては、朝顔を育てて観察するだけなんだが────何分、やるのが小学生だからな。

 仮に、生徒たちにめいめいで朝顔を育てるように言っても、ちゃんとやらない生徒が出てくるかもしれないだろう?

 しかも、夏休み中では、担任教師が注意することもできない。


 だから、朝顔をそれぞれの鉢植えに植えることと、それを花が付く直前くらいまで育てることは、夏休みに入る前に、授業の一環としてクラスの皆でやるようになっていた。

 当番を決めて、水やりまでしてな。

 さすがにそこまでしたら、さぼる生徒は居ないってことだったんだろう。


 それで、つぼみを付けてきたな、くらいの時期になったら、家に持ち帰って、後はそれぞれで観察日記をつけるわけだ。

 大体の場合、八月中に枯れるわけだが、それまでの経過を書いて日記として提出したら、満点。

 そう言う、いかにも小学生らしい宿題だった。


 今思いかえすと、よくある宿題の一つだが、育てるのは結構楽しかった記憶がある。

 小学生くらいだと、皆好奇心旺盛だからな。


 育てているうちに、愛着が湧いてきたような気もする。

 不思議と、どの朝顔も、根腐りなんかせず、すくすくと成長していたしな。


 え?何だ、霧生。

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 ……そうだな。ああ、そうだ。

 一つも、そんなものは無かったよ。

 どれも、立派に成長していた。




 話、続けるぞ。


 まあ、そんなわけで、普通なら憂鬱な夏休みの宿題の中でも、結構楽しい宿題だったんだが。

 これが、夏休みに入る直前になると、ちょっとだけ事情が変わるんだ。


 というのも、さっき言った通り、ある程度成長した朝顔は、自宅に持ち帰らなければならないからだ。

 当たり前だが、鉢植えごと抱えて。


 今なら何とでもなることだが、小学生の頃の俺たちにとって、これは中々大変なことだった。

 小学生って言うのは、当然だが、体が小さいからな。

 朝顔を持ち帰る、となると、それこそ両手で鉢植えを抱えるようにして家に帰らざるをえなかった。


 しかも、これまた当たり前だが、普通の荷物もランドセルに積んでいるからな。

 背中にはランドセルを背負って、腹にはかなり成長した朝顔を丸ごと抱えて、えっちらおっちら帰宅する。

 当時の俺たちにとっては、体力的に中々きついことだった。


 そんな、傍から見ると可愛らしいが、本人たちはかなり疲れる光景が、夏休み前の小学校ではよく見られた。

 その地域では、夏の風物詩みたいな扱いだったみたいだな。

 やってる本人たちは、かなり面倒くさがっていたが。




 そして────当時小学二年生だった生徒の中で、この運搬が一番きついのは、間違いなく、俺だった。

 何故かって?


 さっきも言っただろう?

 俺の家が、変に遠いところにあるからだよ。


 通っていた小学校から俺の家は……確か、二キロメートルくらいの距離だったかな。

 その小学校に通える校区として、結構ぎりぎりだった記憶がある。


 と言っても、今思えば、所詮は二キロ程度だけどな。

 徒歩通学だったが、大人の足なら、そこまで時間がかかるわけでも無い。


 だけど、何度も言うが、俺たちは小学生で────当時の俺にとって、二キロっていうのは、それなりに遠い距離だった。

 少なくとも、朝顔を抱えて歩くのは、ちょっとな、と思うくらいには。


 ……ん?今度は早見か。

 親を呼んで、車か何かで朝顔を運んでもらうのは駄目だったかって?


 んー、それは無理だったな。

 母親は当時からバリバリ働いていたから、当然小学生が帰宅するような時間には家にいなかったし……。

 父親の方は、日によってはイラストの仕事で家にいたが、それでも普通に出勤している日が多いからな。


 まあ、共働きの夫婦なんて、そんなものだろう。

 幼稚園くらいまでは、父親か母親が早引けして家にいたが……小学生の頃からは、俺は所謂「鍵っ子」状態だったよ。


 それを抜きにしても、朝顔を運ぶのが面倒くさいから、両親に仕事を抜けてもらって、車を呼ぼうっていうのは、ちょっとアレだろう?

 もしかすると、頼んだら来てくれたかもしれないが……そこまでする話だとは思っていなかったしな。

 実際、面倒くさくはあったが、無理難題、という訳でもなかったから。


 ただ、それはそれとして、面倒くさいものは面倒くさい。

 少なくとも、普段よりはかなりの時間をかけて、休み休み帰ることになるのは間違いないからな。


 だから俺は、もう本当にギリギリの日になるまで、その朝顔を家に運んでいなかった。

 本来、ある程度育ったら各自で家に持って帰って良いルールで……その基準はもう満たしていたんだけどな。


 勿論、夏休みの前日──うちの小学校は三学期制だったから、一学期の終業式の日だな──になったら、どれだけ面倒くさくても、家に持って帰らなければならない。

 その日になってもまだ持ち帰っていなければ流石に教師に怒られる。

 第一、夏休みが始まってから、もう一度学校に行って、朝顔を取りに行くのは、もっと面倒くさい。


 幸い、終業式の日は他に授業が無いから、ランドセルに入れる普段の荷物はほとんどない。

 つまり、その日に限っては、実質的な荷物は朝顔の鉢植えだけだ。

 だから、終業式の日に運ぼう────そう、思っていた。




 だけど、この時に予想外の出来事が起こる。

 その日の朝────終業式の日の朝に、俺が突然熱を出したんだ。


 前日までは、普通に元気だったんだけどな。

 朝になって、なんだか体が熱いな、と思って熱を測ったら、三十八度五分。

 母親は慌てて仕事を休んで──今思えば申し訳ないことをしたな──俺を病院に連れて行った。


 まあ、熱を出したこと自体は、どうでもいい。

 実際、ただの夏風邪だったからな。


 問題は、そのせいで俺がその日の学校を休んだ、という点だ。

 終業式の日に学校を休んだ以上、もうそのまま、夏休みに突入してしまう。


 当然────朝顔を、持って帰ることができなくなったんだよ。




 ……深刻ぶって話してみたが、勿論、これは大して重要な話ではない。

 夏風邪が治ってから、後で取りに行けばいい話だ。


 というか、もっと言ってしまえば、どうせ病院に向かうために外に出たんだから、そのついでに学校に寄って、朝顔を取りに行けばよかったんだがな。

 まあ、その時の俺は熱で意識がはっきりしていなかったから、それをできなかったのも無理はないが。

 母親の方も、息子の宿題の内容までは把握していなかっただろうし。


 そう言う訳で、俺の朝顔は学校に置いていかれた形になった。

 ああ、面倒くさいことになったな、と解熱剤を飲みながら思ったよ。


 明日か明後日、また学校に行って取りに行くのか、と。

 しばらく、朝顔は学校に置いたままになるな、と。




 だが────。

 意外にも、学校の方としては、それを放置したくなかったらしくてな。

 その日の昼になって、俺の家に担任教師から電話がかかってきたんだ。


「相川君の朝顔ですけど、相川君と仲の良いクラスメイトの子に、持って行ってもらうことになりました。何でも、家も知っているということで……」


 大体そんな感じの内容だったらしい。


 まあ、学校としても、生徒の朝顔が延々置いてあっても、迷惑だったんだろうな。

 万一水不足で枯れたら、俺の方も宿題が出来なくなる。

 だから、気を遣ってくれた、ということだろう。


 そして、担任教師は、俺の家を知っていて──俺は一年生の頃から、友達と家で遊んだことが何度もあった──帰り道も近そうな子を探してくれた。

 それで、俺の朝顔は、月宮っていう友達が持ってきてくれることになったんだ。

 教師の話の中で出てきた、「仲の良いクラスメイトの子」だな。


 ……ただ、こうやって話しておいて、申し訳ないんだが。

 その月宮っていう生徒のことは、あまり良く覚えていないな。


 確か、女子生徒だったとは思う。

 そう言ったことを頼まれる対象になる程度には、仲が良かったはずなんだが……正直、詳しいことは記憶していない。

 卒業アルバムとかを見たら、写っているかもしれないが。




 だけど、一つ、確実に覚えていることがある。

 と言っても、大したことでは無いが。

 月宮の家が、小学校から見て、俺の家と方向が同じだったってことだ。


 尤も、距離は違う。

 俺の家は小学校から二キロくらい離れていたが、月宮の家は確か一キロ程度だったな。


 つまり、俺の家よりは、月宮の家は学校に近い位置にあったんだ。

 まあ、それでも小学生にとってはまあまあ遠いが。


 要するに、学校から月宮の家まで向かって、それを通り過ぎてまっすぐ歩き続けると、俺の家に辿り着く。

 というか、月宮の家が、俺の家から学校までの道のりの、中間地点にある。

 そんな感じの位置関係だったってことだけ、覚えておいてくれ。


 そして、月宮の家と俺の家の間にはいくつか民家があったが、そのどれにも、小学生の子どもは住んで居なかった。

 つまり、小学校から俺の家に何かを運びたければ──教師が子どもたちに申し付けたいのであれば──月宮を頼るしかない、ということだな。

 朝顔の鉢植えが月宮に託されたのは、仲が良かったということだけでなく、こっちが主な理由だろう。


 ああ、それと、もう一つ。

 後から聞いた話だが、月宮がもう、自分の分の朝顔を持って帰っていた、というのも大きかったんだと思う。


 仮に、月宮もその日に自分の朝顔を持って帰るつもりだったなら、流石に教師も頼まなかっただろうな。

 二つの鉢植えを抱えるとなると、物理的に、持ち帰るのが不可能になりかねない。




 そう言う理由で、ありがたいことに俺の朝顔は、月宮が持ってきてくれることになった。

 俺がこの話を母親伝いに聞いたのは、熱が冷めてきたその日の午後のことだが────正直、ラッキー、と思った記憶があるよ。


 何しろ、あれだけ面倒くさがっていた朝顔の運搬を、友達がやってくれるんだからな。

 俺の家に寄るために、自分の家からさらに遠出しなくてはならなくなる月宮は、大変だろうな、と思ったが。

 それでも、楽になった、と言う思いの方が強かった。




 ────だが、世の中、そう上手いこと運ばない。

 ちょっと経ってから、異変が起こった。


 終業式の終わった、午後になっても。

 出勤する日だった父親が帰ってくる程の、夕方になっても。

 挙句の果てには、夜になっても。


 月宮は、俺の家に来なかったんだ。

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