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探偵など要らない学園生活  作者: 塚山 凍
Case 7 双子のどちらかに恋をした事件

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芝居 或いは謎の再来

 当然のことだが、サッカー部の部室にはあっさりと辿り着いた。

 いくらグラウンドを突っ切る形になるとは言え、さすがに雨の降らない今であれば、大して時間はかからない。


 ──だから、自然に、自然に……。


 それだけを念じて、俺は部室棟の扉の正面に立つ。

 安っぽい扉なのだが、今日に限っては重々しく見えてくるから不思議だ。


 しかし、あまり躊躇してはいられない。

 意を決して、コン、と軽くノックをした。


「……はーい?」


 扉の奥から、細く、女性の声が響く。

 恐らく、部員なら自由に入れる部室の扉が、わざわざノックされたことが奇妙だったのだろう。

 その声色は、かなり不思議そうなそれだった。


「失礼しまーす……」


 果たして行けるのか、という不安を持ちながら、えいや、と扉を開ける。

 途端に、部室の中の様子が目に入った。




 ──この二人、か。


 日向の言う愛崎姉妹、すなわちマネージャー二名の姿は、すぐに目に入った。

 というより、大して広くもない部室に、二人の人間が先に居るのだから、否が応でも視界に映る。


 一人は、部室奥に無造作に置かれた机に向かう、眼鏡姿の少女。

 もう一人は、扉のすぐそばにしゃがみこみ、熱心にボールを拭いている、同じく眼鏡姿の少女だった。


 その二人が、扉を開けた俺のことを、ほぼ同時に見つめてくる。

 部員でもない乱入者に対して向ける二人の視線は、不審の色を帯びていた。




 ────そして、彼女たちが俺を見たということは、俺もまた、彼女たちの顔を確認できたということでもある。

 初見での、俺の感想は。


 ──うわ、()()()()()()()()()……!


 一瞬、足を止めてしまう。

 そのくらい、二人の顔はよく似ていた。

 予め双子だと聞いていた俺ですら、しばし驚愕するほどに似ているのである。


 眼の形。

 顔の輪郭。

 唇や眉毛と言った、各パーツの配置。


 そう言った人間の構成要素が、完全に一致していた。

 日向の話を聞いていなければ、初見時の日向のように、幻覚を疑ったかもしれない。


 ただ、顔についてさらに言ってしまえば、申し訳ないがそこまで美麗な容姿ではない。

 言ってしまえば、どこにでもいるような、普通の顔である。

 尤もこれは、霧生やら早見やらとよく顔を合わせるようになったために、俺の中で女性の顔に対する基準が上がってしまっているのかも知れないが。


 ──それでも、顔が全く同じ人間が二人いると、普通の顔でも変な感覚になるな……髪型も、服装も一緒なのか。


 視線を下に向け、そんなところも俺は確認する。

 漫画やアニメだと、一卵性双生児のキャラクターは、髪型や服装を互いに被らせないようにすることで、視聴者に見分けがつくようにすることが多い。

 だが、彼女たちの場合は、その例には当てはまらない。


 長い髪を後ろで一本にまとめている髪型も、やや大きめの眼鏡をかけているという特徴も、二人に共通していた。

 ご丁寧にも、眼鏡のデザインすら一緒である。

 二人とも、全く同じ店で眼鏡を買っているのだろうか。


 勿論──学校の部活動なのだから、当たり前と言えば当たり前だが──服装も完全に同一である。

 二人とも、サッカー部の物と思しきジャージ姿だったのだ。

 要するに、容姿と合わせて、頭の先からつま先まで、完全に同じなのである。


 ──これはもう、わざとなんじゃないかってレベルで似ているな……。


 そんな感想を抱きつつ、俺は何とか驚きから立ち直って、台本通りのセリフを口にする。

 さすがに第一声くらいは発しておかなければ、いよいよ不審者だ。


「……すいません。ここ、サッカー部の部室ですよね?」

「あ、そうですが……何か用ですか?」


 意外にも、自然に言葉が出た。

 マネージャーの一方──位置的に近い、ボールを磨いていた方──が、怪しむことなく返事をする。


「あ、俺、一年の相川葉と言います。その、こんな時期なんですけど、サッカー部に入部しようかなって思って、ちょっと見学でもしようと思って来たんですが……」

「あ、そうなんですか?この時期に、なんて珍しいですね?」

「いやあ、中々部活を決められなくて」


 ハハハ、と作り笑いにならないように注意しながら笑って見せる。

 一方、目の前の彼女は、その眉を分かりやすく下げた。


「……すいません、せっかく来てもらって申し訳ないんですが、実は今日、サッカー部は休みの日で……」


 ──日向から聞いて知ってる……が、とぼけておいた方がいいか。


 さすがに、ここで驚かないのは不自然だろう。

 そう考え、俺は多少わざとらしく、恐縮して見せた。


「え!すいません。全然知りませんでした……ええと、じゃあお二人は何で……」

「私たちは、マネージャーだから。来る日が違う」


 最後のぶっきらぼうな一言は、机に向き合っている方が答えた。

 顔の位置は元に戻っていたが、会話は聞いていたらしい。

 言葉の調子からすると、こちらも怪しんではいなさそうだった。


 ──というか、俺の演技、案外上手く行くな。

 

 やってみるものだな、と俺は一人、自分で自分を褒める。

 その勢いで、俺は言葉を繋げた。


「ええと、その、じゃあ練習の見学とかは、今日はできませんか?」

「はい、すいません。今日は、元々部員が来ていない日なので……」

「休みじゃなくても、熱心に練習しているほど、真面目でもないけどね」


 最初の返事はボールを磨いている方。

 その次が、机に向かっている方の返答である。

 図らずも、敬語の有無で区別が出来る。


 ──これだけでも分かるな。この二人、性格は違うのか。


 ただの勘だが、そんなことを思う。

 見た感じ、俺と話してくれている、ボール磨きの方の彼女は、かなり丁寧な性格らしい。

 俺を一年生と知りながら、敬語を止めないことから、そのことがわかる。


 一方、もう一人はぶっきらぼうな返事が目立つ。

 よほどの人見知りか、或いは会話が得意ではないのか。


 そんな分析をしながら、俺は演技を続けた。


「あー、じゃあ、せめて説明とか聞けませんか?どんなスケジュールで部活をしているかだとか……そうじゃないと、また休みの日に来ちゃうかもしれませんから」

「ああ、いいですよ。えっと……」


 快く応じてから、ボールを磨いていた彼女は、そのボールを手放し、代わりに背後に置いてあったホワイトボードに手を伸ばした。

 恐らく、部員の連絡用に使っているボードなのだろう。

 ボード上には、今月のスケジュール表が貼られ、その周囲には「目標、県大会出場」とか、「ボールの外部持ち出し禁止 ※顧問より」とか言った文言が書き連ねてある。


「えー、とりあえず、直近でのグラウンドの使える日は明日ですね。ですから、明日に来てもらえればいいかと」


 さらり、と説明が終わる。

 まあ、サッカー部員からすれば予定など分かっていて当然のことだ。

 そこまで時間をかけて説明などはしないだろう。


 ただ、俺としてはこんなにあっさりと説明が終わっては困る。

 何しろ、ここから俺は彼女たちの昔の思い出まで聞かなくてはならないのだから。


 故に、俺は心の中で申し訳なく思いながら、もう一つ演技をした。


「あー、明日ですか?ちょっと……」

「予定があるんですか?」

「はい、えーと、その次は、何時ですか?」


 そう告げると、意外にも机の方から──つまり俺に説明してくれていないマネージャーから──助け舟が入った。


()()、どうせだからグラウンドの使用時間や休みの日の練習について、もう説明しておいたら?入部希望なんだし、その方が話が早いでしょう?」

「ああ、そうだね」


 うん、と里奈と呼ばれた方のマネージャーが一つ頷く。

 俺ではなく、姉妹が相手であるからか、敬語は外れていた。


 ──そうか、こっちが愛崎里奈、か。日向の話では、双子の妹になるな。


 俺の方は、そんな発見をしながら、机の方に目を向ける。

 目の前に居るのが愛崎里奈であるというのであれば、こちらは双子の姉、すなわち愛崎茉奈、ということになる。

 彼女の発言のおかげで、とりあえず呼び名は区別できた。

 年上の相手なので、里奈先輩、茉奈先輩と呼称しておこう。


「じゃあ、予定とかを言って置きましょう。とりあえず今月は……」


 俺が確認をしている間に、里奈先輩の方は右手にペンを持ち、ホワイトボードを使って説明を始めた────。






「うちの部活の予定とか普段の活動は、まあ大体こんな感じです。分かりました?」


 五分ほどの説明を終えて、里奈先輩がこちらを向く。

 四月に新入生相手に何度もやっていたせいか、流れるような説明だった。


 尤も、この場合──説明してもらって失礼な話だが──この内容はどうでもいい。

 むしろ重要なのは、今がチャンス、ということだった。

 俺は、おもむろに手を上げ、一つの質問を述べる。


「あ、質問、良いですか?」

「はい、どうぞ。何か分からないことがありましたか?」

「まあ、そんな感じです……あのー、部員はやっぱり、昔から運動系の習い事をしていた人とかが多いんですか?」


 日向と計画を練る中で、思いついていた質問。

 一見、運動の経験の有無による差を心配する、ごく普通の質問に見える。

 実際、里奈先輩にもそう捉えられたらしく、普通に笑顔で返答がなされた。


「いや、初心者でも大丈夫ですよ。うちの部活、結構緩いので」

「ああ、良かったです。……昔、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、それ以外の運動は特にやったことが無くて」

「スイミングが出来るくらいなら、大丈夫だと思うけど」


 ポツリ、と茉奈先輩の方から言葉が飛んでくる。

 依然として視線は机に向いているままだが──何やら申請書類のようなものを書いている──こちらの会話も聞いているのだろう。

 今の助け舟のような言葉を聞く限り、意外と面倒見がいいのかもしれない。


「ああ、そう思います?まあ、通っていたと言っても、()()()()()()()()()()()っていう小さなところで、それも夏の短期でしたけどね」


 ──さあ、どうだ?


 ドキドキしながら、俺は返答を待った。

 小海スイミングスクールというのは、日向の言っていた、「アイちゃん」の通っていたスイミングスクールのことだ。

 実際には俺も日向も通っていたことなどないが、ここでは名前だけ借りさせてもらう。


 もし、この二人の内、「アイちゃん」である方が、かつての記憶を覚えているのであれば、何かしら反応を示すだろう。

 そう言えば、自分も一時期はそのスイミングスクールに通っていたな、と。

 仮によく覚えていなかったとしても、そこから昔の記憶に話をつなげることも可能、かもしれない。


 だから、多少強引な話の流れではあったが、この名前を出すことは必須だった。

 故に、俺は集中して話の続きを待ち────。


「小海スイミングスクール……」


 何かを思い出したような里奈先輩の言葉に、俺は目を見開く。

 こっちか、と思ったのだ。




 だが、しかし。

 その期待は、次の一言で打ち砕かれた。




「奇遇ですね、その水泳教室、私()()も行っていましたよ!」

「私……たち?」

「ああ、姉妹で行ってたんですよ。私たち、そう言った習い事は全部一緒だったので」


 ネッ、と里奈先輩が茉奈先輩の方を見やる。

 話を振られた茉奈先輩は、一瞬面倒くさそうにこちらに顔を向け、やがてコクン、と頷いた。

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