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探偵など要らない学園生活  作者: 塚山 凍
Case 6 ホラーの対象事件

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些細な悪戯 或いは爆誕(Case 6 終)

 ここで話は、テストが終わった後に飛ぶ。


 結果はともかく、日常探偵研究会の三人が三人とも、何とかテストが終わり、部活動も行えるようになった日のことだ。


 ────久しぶりに来た日常探偵研究会の部室は、ほんの少しだが緊張感に包まれていた。

 と言っても、居るだけでピリピリと肌を突き刺すようなそれではない。

 ただ単に、自分たちが仕掛けたちょっとした悪戯が、成功するかどうかを固唾を飲んで見守っているのだ。


「……早見さん、そろそろかな」

「多分そうだ。テストの答え合わせを友達とするから遅くなるが、来るとは言っていた」


 いつものように本を読みながら、俺と霧生はこそこそと会話をする。

 まだ悪戯の対象である早見が来ていないのだから、小声になる必要はないのだが、何となくそうしてしまうのは何故だろう。


「まあ悪戯と言っても、あれを見てもらうだけ、なんだけど……」


 そう言って、霧生は長机の端、入り口から見て一番近い位置を見る。

 この部室に入った人間からして、最初に目に入る位置だ。

 本来は、特に何も置いていない位置なのだが、現在そこには数冊の本が置かれている。


 置いてある本は、平たく言えばホラー小説たちだ。

 この部屋には────要するに小鳥遊文庫の中には、寄贈主の小鳥遊吾郎氏の趣味なのか、推理小説が多数ある。

 そして以前言った気がするが、推理小説とホラー小説というのは、互いの垣根が低い。

 それ故に何となく予測できていたが、小鳥遊文庫内にはホラー小説も多数あった。


 今置いてある本たちは、その中でも特に怖そうなイラストや表紙が含まれる物である。

 不意に見てしまったら、悲鳴を上げてしまいそうなほどだ。

 それを、次に来る部員用に────早見のために、置いてあるのだ。


 ──悪趣味と言えば悪趣味だが……まあ、確かめておくのも温情、か?


 そう考えて、俺は以前聞いた推理を思い出した。










 コンビニからの帰り際、霧生から告げられた推理は、意外なところから始まった。


『実を言うと、今回の件、君から電話がかかってきた時点で、少し違和感があったんだ』

「……その時点で、何か気づくことがあったのか?」

『まあ、そうだね』


 何に気が付いたのかは知らないが、相変わらず、凄まじい観察力だ。

 ここまで行くと、少し怖い。


「だけど、それがどうしたんだ?あれは本当に、俺が相談したくなっただけで……」

『ああ、そこは不思議じゃない。寧ろ不思議なのは、それよりも前の話だ』

「前?」

『そうだ。何故、早見さんの妹さんは君に相談したのか……そこが気になったんだ』


 再び、よく分からないことを霧生が言い出した。

 何故も何も────。


「俺と偶然会って、前々から怖くて気になったことだから相談した、じゃ駄目なのか?」

『勿論、そうかもしれない。だけど……』


 そして、霧生は決定的なことを切り出した。


『それだったら、()()()()()()()()()()()()()()()()()、ということだよ。そもそも、僕への連絡先を調べたのは彼女だろう?』


 霧生の指摘は、あまりにも簡単なことで、それ故に盲点だった。

 言葉も返さず、俺は沈黙する。


 ──確かに、そうだな。


 元々俺は、霧生への連絡先を知らなかった。

 それが連絡できるようになったのは、前回の一件で、早見妹が友人たちに聞きまわり、調べてくれたからだ。


 実際、前回の推理の際は早見妹のスマートフォンで会話したのだ。

 つまるところ、早見妹は、俺に頼らずとも霧生に相談できるのである。


『話を聞く限り、妹さんは結構な怖がりらしいからね。気分的には、一刻も早く相談して解決してもらいたがったはずだ。だというのに、何故直接僕に連絡しなかったのか、それが気になった』

「……テスト週間だから遠慮した、とかじゃないのか?」

『もしそうだったら、今日会った君にだって相談しないよ』


 ごもっとも、と俺は頷く。

 もっと言えば、早見妹は俺たちがテスト週間であること自体を知らないようだった。

 これは理由として成立しないだろう。


『加えて、今日君に出会ったことだって、偶然の産物だ。たまたま会えなければ、解決できないままだっただろう?』

「確かにな……」


 こう次々と指摘されると。一気に不審に思えてくるから不思議だ。

 とりあえず、俺は勘で思いついたことを述べてみる。


「ただ……それはアレじゃないか?まだ知り合ったばかりで、滅茶苦茶親しい、という訳ではないから、直接聞くのを遠慮したというか」


 これも否定されるか、と俺は心なし身構える。

 しかし、霧生は意外にもこれを肯定した。


『相変わらず鋭いね。僕もそうだと思うよ』

「って、そうなのか?」

『ああ。話を聞く限り、彼女はコミュニケーション能力が高く、人間関係に配慮するタイプのようだからね。そこまで親しくない立場で、直に連絡するのは躊躇われたのだろう。前回だって、推理を頼むのは君を介していたのだから』


 ──……ありそうだな。


 何故電話で話すだけでそこまでわかるのか──霧生と早見妹は一度も直接会ったことがない──は知らないが、この考察は的を射ているような気がした。

 恐らく彼女の中で、直に会ったこともある俺に頼むのはOKで、間接的な知り合いでしかない霧生に頼むのはアウト、というルールのような物があるのだろう。


 初対面の時の様子から、他者に積極的に話しかけるような印象があったし、実際それは間違っていないのだろうが、線引きはしている、ということだ。

 この辺り、早見の妹だなあ、と思う。


「……ちょっと待て。だったら何も問題が無いじゃないか。要は、直に連絡するのは気恥ずかしかった、というだけだろう?」

『そうかもしれない。だが同時に、間接的にであれば頼んでも良い、と彼女が判断しているのも確かだ。実際、今日は君に頼んでいるのだからね』

「確かにそうだろうが、それがどうしたんだ?」


 そこで少し、霧生は言葉を切った。

 そして、吐き出すように新たな疑問点を告げる。


『不思議なんだよ……何故、彼女は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、とね』


 再び、俺は言葉に詰まった。

 それは勿論、俺が霧生と同様に疑問を感じたからに他ならない。


 ──確かに……俺と偶然会ってから頼まなくても、早見の方から頼めば……。


 姉の方の早見が霧生への連絡先を知っているかどうかは知らないが、それこそ前回のように自分のスマートフォンで連絡を取り、頼み事は姉の口からさせればいい。

 俺に頼むよりも、遥かに簡単に話は進むだろう。

 何しろ、家族なのだから。


『最初は、実は頼み事もできないくらい姉妹間の仲が悪いのか、とも思ったのだけれど、前回の件を考えるとそう言う訳でもなさそうだろう?』

「ああ、それは無いだろう。普通に仲は良さそうだったぞ?」

『だろうね。確か例の猫を拾った時も、妹さんは早見さんに飼い主を探すように頼んでいるしね。そこは抵抗が無いはずだ』


 だというのに、今回に限って、彼女は姉に頼み事をしていない。

 不思議と言えば、不思議だった。


 勿論、これらは全て、偶然の産物なのかもしれない。

 偶然の恐ろしさは、つい先ほど痛感したばかりだ。


 ただ単に、早見妹がそう言う気分だったのかもしれないし、言う程気にしていなかったのかもしれない。

 しかし、霧生はここに何かの回答を見出したのだ。


「……その理由も、分かるのか?」

『うーん、完全な妄想になるのだけれど……』


 僅かに、霧生は口を濁す。

 何か、言いたいことは決まっているが、言っていいものかどうか判断できない、と言うような口ぶりだった。


 しかし、結局は言いたくなったらしく、さらりとその「妄想」を述べた。


『もしかすると、何だが……早見さんは、尋常でなく、怖い話が苦手なんじゃないかな?』

「……早見が?」

『うん。だからこそ、妹さんは相談するのを躊躇った。或いは、怪談にまつわる話だと聞かされた時点で、早見さんの方が相談されるのを断った。そんな気がするんだ』









 そして、今日の俺たちに繋がるわけである。

 まあ要するに、ホラーのイラストでも見せて、早見が本当にそのジャンルが嫌いなのかどうか確かめよう、ということだ。


 別段、直に聞いても答えてくれそうな気もするが、早見のキャラが邪魔して嘘を言うかもしれない。

 「素」の彼女はともかく、部活用に演じている時の、お嬢様口調の彼女は、嘘を言わないとは言い切れないところもある。


 後、一応言って置くが、これは単なる悪戯ではない。

 さっきも言った通り、この部屋にはホラー小説も多数ある。

 よほど嫌なのであれば、その手の物は彼女から遠ざけた方が良いだろう。


 そのあたりの確認も込めた行動なのだ。

 ……テストも終わって暇だし、早見の新しい面を知りたい、という欲があるのも否定しないが。


 そんな、言い訳のような説明のようなことを考えていると、やがてコツコツ、と廊下から足音が響いた。

 それも、第一図書室の方で止まる音ではなく、明らかにこちらへ向かう音である。


「来た……!」


 俺は思わず声を漏らしたが、霧生の方はどうも慣れているらしく、無言で読書をしている演技に入った。

 慌てて、俺も本に目を落とし、視線を扉に向かないようにする。

 普段、早見が入ってくるときは、大体こうだからだ。




 そして。


「こんにちは。久しぶり、ね……」


 そう言って、楚々とした仕草で早見が入ってきた。















 結論から言えば。

 早見のホラー嫌いは、本物だった。

 それも、かわい子ぶって「コワーイ!」などと言うそれではなく、見た瞬間にこの世の物とは思えないガチ悲鳴を上げるような、本気の「嫌い」だった。


 ……何が言いたいかと言えば。

 この日を境に、「明杏高校には謎の奇声を上げるお化けが出る」という怪談が広まったことに対して、俺と霧生は多少、責任を感じているということである。

 何の因果か、同時期にとある小学校で流行っていた「ボボさん」の噂話と融合し、「ボボさんは、話を聞いた者の学校に必ず現れる」という都市伝説にまで進化したらしい。


 この辺りは、早見の名誉のために、驚いて駆け込んできた教師の追及をすっとぼけた俺たちのせいである。

 ただ、本当に化け物の絶叫としか思えない声をあげた早見も、ちょっと凄いと思う。


 そして、一つ言えるのは。

 ホラーの対象というのは、案外簡単に生まれるようだ、ということ。

 俺と霧生は、早見からの何度目かの説教を受けながら、そんなことを学んでいた。

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