↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
探偵など要らない学園生活  作者: 塚山 凍
Case 6 ホラーの対象事件

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
51/220

恥じらい 或いは合理

『そこについて考える前に、思い出してもらいたいことがある。君たちの説明の中に存在した、奇妙な点についてだ』


 スマートフォンから、コン、という音が響いた。

 霧生が、その細い指で机でも叩いたのだろうか。


『少し話を振り返るよ。一番最初の件では、奇声が聞こえたのは女子トイレ。そしてその時間は、まだ生徒が集会から帰ってきていないくらい……急いで走ってきた生徒が、辛うじて帰ってきたくらいの時間だった。そうだね?』

「はい、そうです」


 もう一度、霧生が状況を確認する。

 まだその意味は分からなかったが、霧生が繰り返して確認するのだから、重要なのだろうな、というのは分かった。


『そして、奇声が聞こえた後、驚いてトイレに駆け込んだ生徒たちは、女子トイレでは何も発見することが出来なかった』

「はい。第一発見者の、隣の個室には生徒がいましたけど、それ以外は……」

『……ここからが重要だ。彼女たちはその後、もしかしたら犯人は男子トイレに逃げ込んだのかもしれない、と思って、男子生徒に頼んで、男子トイレを捜索したのだったね?』

「ああ、だけど男(・)子(・)ト(・)イ(・)レ(・)の(・)個(・)室(・)は(・)全(・)て(・)閉(・)ま(・)っ(・)て(・)て(・)……」


 早見妹の話を思い出しながら説明していた俺は、そこで言葉に詰まった。


 ……違う。

 おかしい。

 これは、妙だ。


 思わず、俺は顔を上げて早見妹の方を見る。

 すると、向こうもだいたい同じ思考になっていたのか、目を丸くしていた。


 気が付いたのだろう。

 この話の、矛盾点に。


「……これ、おかしいな。集会から帰ってくる生徒がまだいない、走ってきた生徒がトイレに駆け込んで初めて辿り着いたくらいの時間なのに……」

「男子トイレの個室が、全て閉まっている……?」


 図らずも、語尾は早見妹が引き取った。


「……いや、でも、男子の方が足が速かったとか……けど、さすがに全部は変ですかね」

「というか、集会から早く帰ってきたにしても、全員がトイレに行くわけでは無いだろう。なのに……」


 早見妹が話している内は、或いは俺が聞いている間は気が付かなかった矛盾点。

 それが、ここへ来て明示される。


『……そうだ。この話は、少々おかしい。全ての証言を信じるのであれば、第一発見者の女子生徒は走ってトイレにやってきて、女子トイレには他に生徒がいなかった、との話だっただろう?』

「そうだったな。だからこそ、その子よりも先に個室に入っていた『ボボさん』のことを、奇妙に思っていたんだから」

『その後、隣の個室から奇声が聞こえてくるわけだが、これが起きた時間は、その生徒がトイレに入ってから、そこまで時間は経っていないだろう。勿論、その後の捜索もそうだ。せいぜい数分、かな』

「それだけの時間で、トイレに行きたい男子生徒が全員帰ってきて、個室を全て占領したというのは……」


 ──確かに、少し考えにくいな。


 思わぬところから謎が現れ、俺は考え込む。

 勘を使わなくても分かる。

 これが、この件の鍵だ。


「……あれか?実は男子トイレだけ、個室の数が少ないとか?」

「いや、さすがにそんなことはありませんでしたよ」


 適当に出した仮説は、実際に現場を見たことがある早見妹に却下された。


「性別的に男子トイレには入れませんでしたけど、外から見た感じ、四つくらい個室がありました。結構大きいトイレでしたから」

『だろうね。そもそもこの件、犯人の隣の個室に女子生徒が入ったところから始まるのだから、個室は少なくとも二つあるわけだ。まさか隣同士にあるトイレで、そこまで構造が違うこともないだろう』


 確かに、と俺は一人頷く。

 そうしていると、まるで言い含めるような口調で、霧生の推理が続けられた。


『勿論、最初にトイレに入った女子生徒のように、走って帰ってきた生徒かもしれない。だが、ここで一度、そうではない、と仮定して推理を進めて見よう。そうすると、真相が見えてくる』

「……つまり、その男子生徒たちは、走って集会から帰ってきたわけでは無く、何(・)か(・)別(・)の(・)納(・)得(・)で(・)き(・)る(・)理(・)由(・)で(・)、(・)そ(・)の(・)ト(・)イ(・)レ(・)に(・)居(・)た(・)ん(・)だ(・)、と考えるんだな?」

『その通り。さて、ではその納得できる理由、ないしこの状況が成立する理由とは、何だろうか。集会の後だというのに、女子トイレにはほとんど人がおらず、逆に男子トイレの個室が埋まる理由は、何だろうか?』


 そこで少し、霧生は俺たちに考えをまとめる時間を与えるようにして沈黙した。

 その隙に、俺と早見妹は小声で呟く。


「……要するに、何か、女子だけ帰りが遅くなるような理由があれば、良いんですかね?」

「或いは、その集会というのが、女子だけを集めた集会だったとか……」


 自分で言って置いて、それはないか、と俺は笑みをこぼす。

 そんな変わった集会なら、生徒たちだって早見妹に伝えたはず────。




 ──いや、そうだったか?




 そこで、急速に。

 俺は、早見妹の話の、とある部分を思い出した。




 ──何か知りませんが、その学年の子どもたちが体育館に集められることがあったそうです。


 ──深く聞いていないんですけど──何だかそこだけ子どもの口が重かったんで──始業式か、何かですかね?


 ──ただの全校集会かもしれないですけど。




 そうだ。

 全校集会というのは、あくまで早見妹の推測に過ぎない。

 生(・)徒(・)た(・)ち(・)は(・)、(・)全(・)校(・)集(・)会(・)が(・)あ(・)っ(・)た(・)、(・)と(・)は(・)言(・)っ(・)て(・)い(・)な(・)い(・)。


 無論、その学年の子どもたちが集められた、とは言っている。

 しかしこれが、省略された言葉だったのなら。

 これを話したのが女子生徒で、自分たちは集められた、くらいの意味で言っていたのなら。




 そして、早見妹は霧生との会話でこうも言っていた。


 ──あー、はい。確かに、彼らは小(・)学(・)五(・)年(・)生(・)でしたけど……それは、何か関係あるんですか?


 小学五年生の、女子生徒だけが集められ、男子生徒が教室に置いて行かれる集会。

 そう言う物、或いは授業が、俺が小学生の時にもなかっただろうか。


 厳密には、五年生でなくてもいい。

 小学校高学年なら、どこの学校でも────。




「……ああ、そうか」


 閃きを理解するのは、一瞬だった。

 すとん、と俺の中で腑に落ちる。


「その集会って言うのは……ア(・)レ(・)か」

『分かったかい?』


 見計らったように、霧生が声をかけてくた。

 多少気まずく思いながらも、俺は返答する。


「ああ、何となくわかったよ」

『それは良かった。君にしては、勘働きが悪いような気もするけれど』

「それはまあ、俺自身は、性別的に終ぞ経験しなかった授業だからな。実際に行われた時には、女子だけが集められた理由だって知らなかった。意味が分かったのは、もう少し大きくなってからだ」

『男子生徒からすると、そう言う理解なのか。興味深いね』


 霧生との会話で、改めて確信する。

 なるほどこれは確かに、小学校のあるあるネタだ。

 霧生の言っていた事の意味が、ようやく分かった。


「……お二人とも、何を話しているんですか?」

『おや、察しがつかないかい?』

「分かりませんよー、教えてくださいよー」


 やや半泣きになって、早見妹が尋ねてくる。

 どうやら、本気で分からないらしい。

 彼女自身も恐らく経験したことだろうから、分かってもよさそうなものだが、「ボボさん」への恐怖心が推理を邪魔しているのだろうか。




 仕方なく、俺は真相を伝えようとして────。

 ふと、動きが止まった。


 ──だけどこれ、どう伝えればいいんだ?


 別に、決して言及してはならない話、というわけではない。

 ただ、明言するのは少々恥ずかしい話ではある。

 特に、異性に言う時は、特に。


 だからこそ生徒たちも、早見妹に対して明言しなかったのだろう。

 場合によっては、セクハラというか、相手を不愉快にしてしまいそうな感じはある。


 故に、俺はそこで言葉を躊躇った。

 ……しかし、早見妹はともかく、霧生にその躊躇いは通じなかった。


『まあ、簡単に言えば性(・)教(・)育(・)の(・)授(・)業(・)だよ。月経の仕組みやナプキンの使い方を、初潮を迎え始める女子小学生に伝える授業。大体の場合、男子生徒は外で遊ぶか、教室に置いて行かれるね。君も経験しなかったかい?』

「……おおおおおい!?言って良いのか、それ!?」


 あまりにもてらいが無かったものだから、突っ込みを入れるのが遅れる。

 しかし、霧生の反応はけろっとしたものだった。


『いや、伝えなくては分からないだろう?それとも、よほど人目のある場所に居るのかい?』

「ええと……」


 ──そう言えば、ここがコンビニであること、霧生に言ってなかったな……。


 言いながら、俺は再びレジの方の様子を伺う。

 ……幸い、特に注目はされていないようだった。

 イートインスペースとレジの距離があまり近くないのが幸いした。


「……そこまで問題は無いが、とりあえず、ここからはあまり大きな声で話さないように頼む」

『分かった。そうしよう』


 淡々した声で、霧生は了承する。


 ──推理することを恥ずかしがる割に、こういうことは恥ずかしがらないんだな……。


 一応、霧生も女子高生なのだが。

 何というか、また一つ、霧生の新しい面を見つけた気がする。


 ──まあ、ここまで推理力があるんだから、思考回路自体が合理的なのかもしれないが……。


 何となく、そう結論づける。

 そうしてから、俺は横目で早見妹の様子を伺った。


 霧生はこの手の会話を気にはしないのだろうが、全員がそう言う訳にもいかない。

 外で言及するだけでもちょっと、という女性も多いだろう。


 果たして、早見妹は分かりやすく顔を赤らめていた。


「……大丈夫か?」


 大丈夫、と聞くのも変な気がしたが、それ以外に言いようがないので、一応尋ねる。

 すると、微かに早見妹はコクン、と頷いた。


「理解は出来ましたから、はい、大丈夫です、はい。……推理、続けてください」


 羞恥心を覚えていることは間違いなかったが、「ボボさん」の真相の方が気になったのか、健気にも続きを促す。

 ……多分、ここは俺が席を外して、霧生と早見妹だけで会話させるのが一番恥ずかしくない手段だと思うのだが、今更それをするのもわざとらしいというか、逆に恥ずかしさが増す気もする。

 結局、俺も推理の続きを促した。


「……要するに、その日、五年生の女子生徒は体育館に集められ、あー、性教育の授業を受けていた。だから、女子生徒が出払っている分、女子トイレには人がいなかったが、男子生徒は予定が無いのだから、トイレも普通に使っていた。こういうことだな?」

『その通り。体育館で行っていたというのは、プロジェクターでも使っていたからだろう。まあ、毎度のごとく証拠はないから、僕の個人的な妄想に過ぎないだけどね』

「……それで、この話はどうなるんだ?」


 男子トイレの個室が埋まっていた理由はこれでわかった。

 だが、よく考えてみれば、推理は特に進んでいない。

 事件が起こったのは、女子トイレだ。

 男子に関する事情は、直接的には関係しないはずだ。


『いや、この仮定から、つまり女子だけが集められる集会があった、という仮定からでも、いくつかのことがわかるよ。……まず、犯人が男子生徒である可能性が高くなったことは分かるかい?』


 わかり切ったことを、もう一度口にするように。

 一切の言い淀みなく、霧生は推理を続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。