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探偵など要らない学園生活  作者: 塚山 凍
Case 6 ホラーの対象事件

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奇怪 或いは怖がるほどでもない不思議

 ボボさんの話って言うのは、丁度四月くらいから広まり始めたそうなんです。

 こういう怪談って、てっきり夏にでも流行るのかなって思ってたんですけど、どうもそうじゃなかったみたいですね。

 クラス替えが行われて、新しい学年に上がってすぐのころから、誰からともなく言い始めた噂話、とか何とか。


 ただ、全員が「ボボさん」っていう単語自体は知っていましたけど、話の細部は子どもによって違っていましたね。


 ある子どもは、学校のトイレに出てくる幽霊って言って。

 別の子どもは、トイレの個室に入るとトイレの邪魔をしてくる妖怪、と。

 また別の子どもは、家のトイレに出ると言っていました。


 ……ええ、はい。

 どの子どもも、トイレって部分は、共通して話していましたね。

 どれほど尾ひれがついても、そこだけは変わらないって言うか。


 この辺り、所謂学校の怪談────トイレの花子さんとかと、似ているんですけどね。

 あれだって、トイレに出てくる、という点だけが共通していて、他の部分は割合自由でしたし。


 このことは、つまり、何か学校のトイレに関わる話なのかなって言うのは、その時の私も気が付いたんです。

 それで、私、子どもたちに聞いたんですよ。


 ボボさんに、実際に会ったことはあるのかって。

 何か、トイレでお化けを見た子は居るのかって。




 ……正直最初は、本当に見た子は、居ないんじゃないかなって思ってました。

 ほら、偏見ですけど、怪談話って、そう言うのが多いじゃないですか。

 実際に見たわけでもないのに、人から人へ尾ひれを付けながら広まっていくというか。


 だけど。

 子どもたちの何人かは、この質問をした瞬間、すぐに手を挙げました。

 皆、言うことは同じでしたね。


「姿は見てない。だけど、ボボさんの声は聴いた」


 全員が、そう言ってました。




 そこからの話も、子どもによって違うので、まとめるのはかなり大変なんですけど……。

 大雑把に言えば、こんな流れだったそうです。


 まず、クラス替えがあってすぐの頃──つまり四月の始めですね──、何か知りませんが、その学年の子どもたちが体育館に集められることがあったそうです。

 深く聞いていないんですけど──何だかそこだけ子どもの口が重かったんで──始業式か、何かですかね?

 ただの全校集会かもしれないですけど。


 それが終わってから、ある女の子が、トイレに向かったそうなんです。

 集会の間、我慢していたんでしょうね。

 その小学校、体育館には生憎とトイレが無いらしくて、走って教室の近くのトイレに行った、とか言う話でした。


 幸い我慢できなくなるようなこともなく、その子は難なくその場所に辿り着いて、女子トイレに駆け込みました。

 そして、個室に向かおうとした瞬間、妙なことに気が付いたそうです。


 まあ、妙な、とまで言ったら言い過ぎかもしれませんが、それでも、少し首を捻るようなこと。

 ────個(・)室(・)の(・)扉(・)の(・)一(・)つ(・)が(・)、(・)閉(・)ま(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)そ(・)う(・)な(・)ん(・)で(・)す(・)。


 これって、少しだけおかしいじゃないですか。

 だってその子、トイレに行きたくて、ダッシュで体育館から戻ってきたんですよ?

 つまり、その学年の中では、一番に教室の近くまで帰ってきた子のはずなんです。

 なのに、トイレには既に先客がいる。


 まあ勿論、物凄くおかしい話、という訳じゃありません。

 その子よりも足が速い生徒が居たのかもしれないし、もしくは別の学年の生徒が使用中なのかもしれない。

 そう考えれば、不思議な話じゃありません。


 だけど、そうだと考えると、立地が妙だったらしいです。

 そのトイレ、私も後で見せてもらったんですけど、結構学校の校舎の中でも、端っこの方にあるんですよ。

 普通だと、なかなか使わないような位置に。


 ほら、小学校って、一つの学年は一つの階層にまとめられることが多いじゃないですか。

 一年生は一階の教室、二年生は二階の教室って感じで。


 私が行ったクラスは、そうやって割り振った影響で、端っこの方の教室が割り当てられたクラスだって言ってました。

 要するに、その端っこの方にあるトイレというのは、同じく端っこにあるそのクラスの子くらいしか使わないトイレ、らしいんですよね。


 だから、さっき言った可能性の中で、別の学年の生徒が使用中、というのはちょっと考えにくい。

 何の用でここまで来たんだっていう話になりますしね。


 じゃあ、体育館に集まったけど、足が速くて先に辿り着いた生徒がいたのか。

 これも、実のところあまり可能性は高くないそうです。


 端っこにあるせいか、体育館からそこのトイレに行くまでの道は、一本道らしいんですよ。

 その子の話では、どれだけ足が速かろうが、そのトイレに辿り着くまでの道は一緒なんだから、背中位見えるんじゃないだろうか、との話でした。


 だから、少しだけ、変。

 先に個室が埋まっている、というのは。




 ただまあ、あくまでその子は気になった、というだけで別に深く考えはしなかったそうです。

 今まで、「日常の謎」を相手にしてきた葉さんにこう言うのもなんですけど、所詮は些細な話ですしね。

 その子自身、早く自分もトイレに行きたかったでしょうし。


 だから、不思議に思いつつも、その子はそれを無視しました。

 それで、閉まっている個室の隣の部屋に入って。

 扉を閉めたそうです。




 「ボボさん」が現れたのは、次の瞬間だった、との話でした。




 突然、その子の隣の個室──つまり先程から閉まっている個室ですね──で、人間の絶叫が聞こえたそうなんです。

 それも、こう、「ぎゃあ」とか「うわあ」とかじゃなくて、物凄く変な音がしていた、と。

 ちょっと口の回る子は、獣の叫びのようだ、とか言ってましたね。


 当然、その子は驚きました。

 まあ、当たり前ですよね。

 普通トイレで、そんな声聞きませんし。


 最初その子は、誰か、その個室を使っている生徒が、怪我でもしたんじゃないか、と思ったそうです。

 個室の中で転ぶなりなんなりして、悲鳴を上げたんじゃないか、ってことですね。


 だから出来ればすぐに様子を見に行きたかったらしいんですけど……。

 ちょっと汚い話かもしれませんけど、まあ、その子もトイレ中ですし。

 中々見に行ける状態じゃなかった。


 一応、「大丈夫ですか」って呼びかけはしたそうです。

 尤も、返事は無かったそうですけど。


 それで不安になったその子は、トイレを済ませてから、隣の個室を覗いてみたそうです。

 ……確認できたのは、空になった個室だけでしたが。








 そこで、早見妹は一度言葉を切った。

 そしていい加減喉が渇いたのか、もう一度手にした飲み物を飲む。

 彼女の喉が動き終わってから、俺は口を開いた。


「……正直、話を聞く限り、あまり怖くない怪談だなって印象だ」

「まあ、そうですよね」


 概ね同じ感想だったのか、早見妹は反論もせずに頷く。


 そう、この話は、怪談というには少し弱い。

 この理由は簡単で、犠(・)牲(・)者(・)が(・)出(・)て(・)い(・)な(・)い(・)か(・)ら(・)だ(・)。


 普通、都市伝説や怪談の類は、何らかの形で死者を出す。

 例えば口裂け女は目撃者を殺すか、口を裂いてしまうというオチだったし、話の中で挙げられたトイレの花子さんも、犠牲者は花子さんに連れ去られるとか言う話だったはずだ。


 しかし、この「ボボさん」の話には、それがない。

 極端に言ってしまえば、トイレで変に叫ぶ奴がいた、というだけの話だ。


 確かに、早見妹の話を聞けば、ダッシュで帰ってきた生徒よりも先に、トイレの個室を埋めている存在、というのが多少奇妙なことは分かる。

 しかしそれも、怪奇現象と結び付ける程の奇妙さではない。

 率直に言えば、不気味な話ではあるが、そんなに長い間流行し、子どもたちのテンションを変える程の話だとは思えなかった。


「私も、正直同じ感想です。何というか、ホラーにしてはパンチ弱いなって言うか。だけど……」


 そこで、さっと早見妹は顔色を悪くした。


「ここでもう一つ、妙な話が関わるんです」

「妙な話?」


 そう前降ってから、早見妹は、確かに妙な話をした。

 正確には、この状況にはそぐわないような単語を出した。


「……葉さん、推理小説が好きなら、当然『密室』は知ってますよね?」

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