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探偵など要らない学園生活  作者: 塚山 凍
Case 4 名前も知らないあだ名事件

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発覚 或いは見てはいけない物

「あー、学校史と歴代の文化祭パンフレットか……どうやって置こうかな」


 開口一番、霧生はそんなことを言った。


 昼休みに段ボール箱を運んでから、約三時間後。

 放課後に入ってすぐのことである。

 霧生とほぼ同時に部室に入室し、そして抱えた仕事は速やかに、とばかりにすぐ段ボール箱を開いた彼女は、ややげんなりとした顔を浮かべていた。


「面倒くさい話なのか、これ?」


 少し不思議に感じて、俺は霧生に問い返す。

 俺が頼まれたことは、これをこの部屋に保管する、ということだけだ。

 さすがに段ボール箱のままでは面積を取るため、書架の一つを選んでそこに並べることになるだろうが、そこまで面倒な話とは思えない。


 しかし、俺のその質問を見透かしたように、霧生は疲れた声で返事をした。


「いや、並べるだけならいいのだけど……実は先生から、この手の資料は出来るだけ年代順に並べるように言われていてね」

「……それがどうしたんだ?」

「見てみなよ」


 ほら、と霧生は段ボール箱の中から一冊のパンフレットを取り出し、その表紙を見せた。

 それを、俺はじっと見つめ────すぐに、霧生が言っていることの正体に勘付いた。


 本の表紙自体は、普通の物だ。

 手描きのイラストと、その上に明杏高校文化祭、とポップな字体で書かれた、ありがちなパンフレット。

 デザイン性はともかく、パンフレットとしての仕事はこなせるであろう書物。


 しかし、一つ、足りないものがある。


「年数が書いていないな、これ。第五十回文化祭、とか令和元年度文化祭、みたいなのが」

「ああ、どうもかなり最近まで、入れるのを忘れていたらしくてね。まあ、()()()()()()()()()()()()()()()だから、書かなくても用は足りたのだろうけれど」

「……だけど、書いていないなら、どうやって年代順に並べるんだ?」

「奥付で小さく書いてあるのを見たら、なんとか発行年度は分かる。だけど、古い資料だからその奥付の文字が酷く見づらい」


 そう言いながら、霧生は少し遠い目を浮かべた。

 さながら、その苦労を思い返すかのように。


「……やったことあるのか?」

「入学式の日にね……あの時は、ここに来る人は僕だけだったから……しかもパンフレットって薄いから、段ボール箱数箱分でも物凄い冊数になるし……」


 ますます霧生が遠い目をする。

 どうやら、初めて霧生がこの部屋を利用した時、今日の俺と同じような資料整理を頼まれていたようだ。

 そして、一々奥付を確認して年代順に並べるのが、かなりの手間だったのだろう。


 俺がこの部屋を訪れたのは、入学式の次の日からである。

 入学式当日は、以前記した通り、コンビニで早見に話しかけられていて、この部屋には訪れてもいない。

 つまりあの日、俺と早見が変なファーストコンタクトをしている一方、霧生は黙々と一人でこれを整理していた、というわけだ。


 何だろう。

 当たり前のことではあるのに、何故か可哀想に思えてくる。


「まあ、今日は俺も手伝うから」

「……よろしく頼むよ」


 そう言って、霧生は部室の本棚の奥の方に歩いて行った。

 この本たちを並べる棚を選ぶためだろう。




 じゃあ、俺はまず本を取り出しておこう。

 そんな思いで、俺は段ボール箱に手を突っ込もうとして────あることに気が付いた。


「何だこれ」


 思わず声を出す。

 そして、俺はその対象を指でつまんだ。


 それは、一言で言ってしまえば、紙きれだった。

 それも、メモ用紙のような、綺麗に形を整えられたものではない。

 明らかにノートかコピー用紙を引きちぎって作りました、という歪な形をしている紙片である。


 そんな紙片が、明らかに場違いな形で、段ボール箱の端に挟まっていた。


 仮に、この紙切れが、もう少し大きいか、もう少し古かったなら、俺はこの紙もまた、段ボール箱に収められた資料の一つだと判断しただろう。

 しかし、そう考えるには、その紙は新しかったし、小さすぎた。


 大きさは、一辺が五センチほどの正方形を考えれば、だいたいあっている。

 実際は引きちぎった跡が歪んでいるため、正方形からは程遠いが、概ねそのくらいの大きさなのだ。


 そして、紙の質は見るからに新しい。

 なまじ古いパンフレットの上に載っていた物だから、余計にそれは分かりやすかった。

 その紙きれは、染みも変色も無く、今しがた学生のノートから切り取ってきたかのような白さを示していた。


 これが、他の資料のように、昔から保存されていた資料、ということは無いだろう。

 寧ろ、ただの紙ごみに見える。


 しかし、紙ごみだと仮定すると、妙なことがあった。


 ──仮にごみだとしても、こんなの、俺が運んでいるときにあったか……?


 紙を片手に、俺はそんなことを考える。




 国語教師から俺がこの段ボール箱を受け取った時、この箱の上面は塞がれていなかった。

 どうせすぐに取り出すのだから、蓋をするのも面倒だったのだろう。

 そのため、俺は段ボール箱の上面を解放し、半開きの状態でこれを運んでいたのだ。


 つまり、俺は昼休みの時点で、この段ボールの中身を、少しだが目にしている。

 そして、俺の記憶が正しければ、少なくとも受け取った時点では、こんな物は無かったはずだ。


 それが不思議で、俺は紙片を片手に、じっと固まる。

 この紙片は、小さいとはいえそれなりの大きさだ。

 もし、俺が運んでいる最中に、風に飛ばされるなどして箱の中に入ってきたのであれば、さすがに俺も気が付いただろう。


 にもかかわらず、この紙はいつの間にか、箱の中に入っていた。

 俺の勘が、そこに引っ掛かったのか、「おかしい」と声をあげる。

 少なくとも運ぶ当初は見ておらず、そして今の今まで、この部室の中に箱は放置されていた。

 触れる者はいなかったというのに、何故無かったはずのものが混入しているのか、と。


 そのことが妙に気になり、俺の意識は資料の方に戻らなかった。

 寧ろ、いよいよ意識を紙片に集中させる。


「……何か書いていないかな」


 独り言を発しつつ、俺は紙を裏返す。

 この紙に何か書いてあれば──つまり用途がわかれば──この理由もわかるのではないか、と期待したのだ。


 今まで俺が見ていた面は、白紙だった。

 しかし、裏面には────。






「……これは?」


 思わず、声が出た。

 意識的な行動ではない。

 完全に、不意を打たれたのだ。


 訳が分からず、俺はしばし呆然とする。

 不覚ながら、一瞬意識が飛ばされた。


 まだ、裏面も白紙だったのなら、話は早かっただろう。

 まあ、よく分からないけど、ただの紙ごみだろう、と話を済ませることが出来たのだから。


 しかし、実際にはそうではなく────裏面には、確かに言葉が記されていた。

 訳の分からない、という枕詞が付随するが。




「決めたよ。三番目の書棚にする…………どうしたんだい?」


 そこへ、部室の奥から霧生が戻ってきた。

 そして当然のことだが、紙きれ片手に固まっている俺を見て、不思議そうな顔を浮かべる。


 横目で霧生を見て、俺は反射的に紙片を突き出した。

 説明をしても良かったのだが、恐らく、見た方が早い。

 何というか、俺が感じた混乱を、彼女にも味わってほしかった。


 実際、効果はあった。

 最初、霧生は驚いたように目を見開いたが、その紙に書かれたことを目にした途端、その目を細めたのだ。

 そして、心底不思議そうに、声を発する。


「……何だい、これ?」

「だよな……そういう反応になるよな」


 何となく安堵しつつ、俺はもう一度その紙片を見つめた。






 簡潔に言えば、そこに書かれてあったのは、「相関図」だった。

 まず、紙の端の方に、五つの単語が記されてある。


 紙の一番上には、「ひま」。

 右上には、「プリン」。

 左上には、「さつき」。

 右下には、「チェリー」。

 左下には、「リンリン」。


 それぞれの単語は手描きの円で囲まれていた。

 というより、まず小さな楕円を書いて、その中心にこれらの単語を書いたのだろう。

 よく使われる、マル秘マークのような感じだ。


 字に注目してみると、一つ一つの字は綺麗だが丸っこく、何となくだが女子の字のように思える。

 実際、単語を囲んでいる円も、書き殴ったようなものではなく、きちんと端と端を合わせた、綺麗な楕円になっていた。

 何というか、書き手の几帳面さが伝わってくる。


 そして、そうやって囲まれた単語の間には、やたらめったら矢印が書き足されていた。

 それも、妙なマークと一緒に、だ。


 例えば、一番上の「ひま」から、左上の「さつき」に矢印が伸びていて、その矢印の上にはハートマークが書き添えてあった。

 一方、「ひま」からは右上の「プリン」にも矢印が伸びているが、こちらには大きなバツが書き添えてある。


 そんな矢印が二十数本も書き添えられ、ぐじゃぐじゃになった相関図。

 紙片に存在したのは、そんな図形だった。


 内容を確認すると同時に、俺の勘が、あることを告げてくる。

 それは、この紙に関して現状だけでも推測できる、妥当な結論。

 女子っぽい文字、相関図。意味不明な名詞。

 それらをつなぎ合わせると見えてくる、当たり前の話。






 ──だとしたら間違いなく、元から入っていた物じゃないな、これ。


 最初に、そんなことを思う。

 そう、それはあり得ない。

 今俺が感じていることが事実なら、有り得るはずもない。


 間違いなく、何らかの理由で、俺が運んでいる最中に混入してしまったのだ。

 これの書き手が、予想もしていない事態によって。


 何しろこれは────。


()()()()()()()()()()()()()()()()()……ということになるのかな、これは?」


 霧生は、俺が懸念していたことを、まさしくそのまま口に出した。

 同時に俺は、新たな「日常の謎」の到来を把握した。

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