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精霊と精霊使い

携帯食料とよく分からない呪い品、それから武具のようなものをリュウシュウハ達は購入した。


「さて。レ、奥の部屋を借りて構わないか」とリュウシュウハは店主に言った。店主の名前はレというらしい。


カウンターの隣の廊下を抜けた先にトイレがある。その手前にある扉を開くと小さな部屋があった。小さな机と椅子が四つあった。俺とリュウシュウハは向かい合わせに席に着き、ジジは入り口付近で立っていた。


「戦闘中に携帯食料で間に合わせるのは基本として、人の胃袋では精霊を使うだけの栄養は摂取できない。すぐに空になる。そこでこれだ」


リュウシュウハは小瓶を机の上に置いて俺の方へと差し出した。


「これが俗に言う拡張薬だ。これをの飲むと摂取できる栄養が増える。体に必要な栄養をより効率よく摂取できるのに加え、物質にそもそも付与されている精も経口摂取できるようになる。さらに物質を精に変えるので栄養の貯蓄を肥える事なく行える。具体的に言うと干し肉一枚で一週間は空腹感なく動ける。ただこれは精霊を考えない計算だ。精霊も動き、時に戦う。それを考えると干し肉一枚で約二日くらいになるか」


それでも破格の計算になる。精霊使いでなくとも欲しがる人は多いと思えた。


「しかし、もちろん欠点もある。体質によるが、体にまわす栄養を精に変換してしまう事が多いので、どんなに食べても腹が減りやすい。逆に言えば、精への変換率が高い人はより強力な力を精霊に発揮させることができるという事にもなる。栄養摂取効率が良いと言っても実際にはやはり人より大食らいになる。つまり食費が掛かる」


精霊を入れたら二人分の食費が掛かると考えることができる。してみると当然の事のような気がした。


「そして、これが一番大事なことだが、一度拡張薬を摂取すると生涯その体質は変わらない。例え事故により精霊を失う事になろうとも」


生涯体質が変わらない事よりも、精霊を失う事があるという事実に言葉を失った。


「精霊も死ぬ。精が枯渇すると精霊は精の配分を主人にまわす。すると精霊は死ぬ」


「精霊使いが死んだ時は‥‥どうなるんだ」精霊はなぜそれほどに主人を守ろうとするのだろうと疑問に思いつつ口から出たのは違う質問だった。


「精霊共々死に至る。精霊は精霊使いがいないと存在できない。出来たとしてもほんの数分ほどだろう」


宿り木のようなものなのか。


「僕を殺しちゃ嫌だよ。だからしっかり食べてね」とユユリは俺の右肩に腰掛けながら言った。


「ああ、そうだな」と言ったものの、未だその存在の仕組みに驚愕していた。


「そして、最後に」とリュウシュウハは傾注させるべきく人差し指を立てて言った。「拡張薬は体の仕組みを変える。栄養を摂取する体の回路に精の流れを通すので体に負荷が掛かる。つまり」


そう言ってからリュウシュウハはジジを見た。


「長生きは諦めてください。通常の半分ほどの寿命になります」とジジは言った。


「あなたはご高齢にみえますが」動揺を悟らせないように俺はジジに尋ねた。


「私は、中年期に差し掛かっていた時期に精霊を得ました」ジジは冷静に言った。「じきに寿命を全うします」


「ジジ」リュウシュウハは眉間に皺を寄せて言った。「やめろ」


「失礼しました」


二人の絆に感銘する暇はない。当事者になるからである。


「精霊使いとして存在するからには拡張薬は必須だ。だが、戦いを選ばず、精霊と共に質素に暮らす分には拡張薬は必要ない。少し余分に食べれば問題ない。寿命も普通の人とさほど変わらない」

俺は今、二択を迫られている。

拡張薬を使い半分の寿命で精霊と共に戦いを避けぬ暮らしと、ユユリと共に平穏に暮らす生活とを。


俺はユユリは見た。

俺の寿命が半分になるということは、ユユリもまた短い生を生きる事になる。


「カムイのしたいようにしていいよ。でもユユリはどんな事があっても君を守る」ユユリは言った。


俺はリュウシュウハを見た。彼女は拡張薬を指差して言った。


「すぐには決められないだろう。とりあえずそれは私からの贈与品だと思って懐におさめてくれなか。使わないのなら誰か身近な者が精霊を得た時に同じ言葉をその誰かにかけてあげて欲しい」


そう言ってリュウシュウハは立ち上がる。


「どの道この町にはしばらく滞在する予定だった。もし、拡張薬を使わないにしても、その為の装備は必要になる。例えば彼女のその人間の姿は精霊使いからすればあまりに目立つ」リュウシュウハはユユリを見上げて言った。「擬態する衣服もこの町ならば揃う」


様々な感情が入り混じる中、ジジは口を開いた。


「あなたが成し遂げたい事は何でしょう。それを思い出せば迷いも消えます」


「ジジ」とリュウシュウハは言った。「やめろ」


「申し訳ありません。差し出がましい口を」ジジは一礼して言った。


向かいの宿にカムイの部屋もとってある。カウンターで彼女の名前を言えば通してくれるとの事である。そう言って二人は部屋を出て行った。



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