計都再び
「カムイとユユリ、三時の方向へ急速牽引」ハイオルトの声が聞こえた。同時に俺とユユリの体が真横に飛ばされた。俺はユユリを必死で抱え、着地の衝撃に備えた。
「フィーリア、二人を受け止めろ!!」ステッラの声が聞こえた。
柔らかい精繊維に包まれた。その瞬間、目の前を高速で動く何かが見えた。リュウシュウハの精霊・ジャンヌである。
「ジャンヌ、飛炎塊。蹂躙しろ」リュウシュウハは静かに言った。「出し惜しみなしだ」
「クソ」ユークリウスは降り注ぐ炎の塊から逃げ回る。だが逃げた先にいたゴーレムがユークリウスの胴体を鷲掴みにした。
「恐れ入ります。暴れると潰してしまいます」ジジはリュウシュウハの背後から現れて言った。
同時に小槌とアルエは動きだした。
「動けなかった。何があったんだ」アルエはへたり込んで言った。
「多分、どこかにもう一体精霊がいるの」小槌もまた地面に座して言った。
「強引な方法で呼びつけてごめんなさい」とハイオルトはステッラ達に頭を下げた。
「全くだ。いきなり体が引っ張られるから驚いたぞ」ステッラは非難めいた視線をハイオルトの方へと向けた。「だが、お陰で間に合った」
そしてハイオルトに向けて親指を立てた。
ハイオルトは微笑んでから言った。「まずはユユリさんを」
「ステッラお願いだ」俺は土下座をした。「ユユリを頼む」
「言われなくとも分かっている」事実フィーリアはすでにユユリに精繊維で包みまるで繭のような状態にしている。「だが、状況は良くない。精の色が霞んで消えそうだ」
「二度目の死は完全な終わりだ。君たちとの遊戯もこれで終わりかと思うと残念だ」ゴーレムに拘束されたユークリウスは愉快そうに言った。
「黙れ」俺の中にどうしようもない黒い何かが生まれたのを感じた。あるいはそれはこの世界に来てから忘れていたあの感情である。
「ダメだ、カムイ! それ以上体を酷使するとユユリに分け与える精すら枯渇する!」ステッラは俺を窘めた。一番効果的な言葉を吐いてくれたステッラに俺は感謝した。
だが当のステッラは突然、ユユリの方へと振り向きフィーリアにその小さな体を密着させる。「ダメだ、ユユリ! 逝くな!」
「おい、どういう事だ」よく分からないまま俺もフィーリアの体に密着した。「ユユリは大丈夫なのか」
ステッラはそれには答えずただ潤んだ瞳を俺に向ける。
嗚呼、またこれか。俺はなぜいつも間に合わないのか。もう少しましなやり方をすれば大切な人を失わずに済んだのに。「ステッラ、俺の精を死ぬギリギリまでユユリに分け与えてくれ」
「もうやってる! だがユユリが拒んでいるんだ!」
そういえばいつも不思議だった。拡張薬を使ったら精霊使いにも精霊が受けた痛みが伝播するはずと。今までそんな事は一度もなかった。そし今まさに瀕死のユユリの痛みを感じない自分が憎らしかった。
繭の隙間からユユリの顔が見えた。一瞬目が開き、そして彼女は微笑んで言った。
「ニンジン食べられるようになってね、カムイ」
嘘だろう。
絶望の淵にいるその瞬間、周囲から光が消えた。正確には朝日を遮る何かが俺たちの頭上にあった。
計都はほとんど地上すれすれとも言えるーー、手を伸ばせば届く距離に浮かんでいた。
「彼女は僕が預かるよ」と計都から声が聞こえた。と同時に繭が宙に浮かんで計都の中に吸い込まれた。
「まて、ユユリをどうするつもりだ!!」俺は叫んだ。
「治す。君たちでは出来ない。だが僕でも時間がかかる」
「俺も連れていってくれ。ユユリは俺の大事な相棒なんだ」
「ダメだね」
「何で!」
「弱いからだよ。君は君自身の力を一割も使いこなせていない」
俺は絶句した。だがそれしきの事でユユリを諦めるなんて出来ない。手を伸ばして計都に触れた。瞬間、俺は弾き飛ばされて地面を転がった。
「でも君が死ぬとこの子も死ぬ。だからこの子の能力を君にも使えるようにしよう」
そう言うと計都から腕輪と首輪が落ちてきた。カランという音と共に地面に転がったそれを俺たちは知っている。
「カダヴェルじゃないか」俺は混乱しつつ訊いた。「これは他の精霊を操る為の措置だ。俺は他人の精霊に無理強いなんてしたくない」
「君が君自身に使うんだよ。後は自分で考える事だね」
そう言い残すと計都は浮上し始めた。
「待て、ユユリにはいつ会えるんだ!」俺は叫んだ。
「ゲヘナに。あの国の問題が解決した時にこの子に会えるだろう」
「ユユリは死んでいないのか」ステッラは計都へ向けて言った。
「必ず治す」と言うと計都は消えた。
ゲヘナへーー。
残響のように計都の声が残った。




