敗北
少しずつ光が薄れ、空間がゆっくりと下降していくのが分かる。地上に着いた時にユユリがボロボロの姿で倒れる後ろ姿が見えた。
「ユユリ!!!!!」
俺は後先考えずに飛び出してユユリの小さな体を抱きかかえた。ユユリは体を痙攣させ、それから大量の血を吐いた。それから「ごめんね」と一言呟いて目を閉じた。
俺は血まみれのユユリの口に己が口を重ね人工呼吸を試みた。精霊に人工呼吸が通じるのか分からない。分からないがしないではいられない。そういえばトリアルで警備隊隊長もジョロウに人工呼吸をしていた。きっと効くはずだ。
「いやあ、やるねえ」ユークリウスの声が聞こえる。どうでもいい。生きろユユリ、死ぬなユユリ、俺はお前がいないとダメなんだ。俺がいてユユリがいる。ユユリがいて俺がいる。ニコイチ。そうなんだろう? だから生きないとダメだ、お仕置きするんだろう。すまない、俺はこの世界に来るまで、いや来てからも女性経験がなかった。だから少しだけ女性にーー、リュウシュウハやステッラ、ハイオルトに小槌とアルエ、皆に頼られるのが嬉しいと思ってしまった。でも本当はそんな事はきっとどうでもいいことなんだ。お前がいれば他は何もいらない。もう一生他の女性に出会わなくていい。だから俺にお仕置きしてくれ。そうだ、それに未だ俺はユユリを褒めていない。目一杯褒めて甘やかしてやるぞ。これからしたい事が沢山あるだろう。俺とお前はいつも一緒だ。一緒でないと意味がない。だからこんな所で死ぬんじゃない!!!!
「二度目の死はこの世界では完全なる死を意味する。人間として生きて、死の瞬間そのまま輪廻の渦に巻き込まれるか、残された人の為に精霊として生きるか選択を迫られる。このチビは貴様
の為に精霊になる事を選んだみたいだな。もしかしてあの時潰した女か?」
どうでもいい。本当は薄々分かっていた。ステッラやリュウシュウハが時々言葉に詰まる姿を見ている。俺にいつ打ち明けるか悩んでいたのだろう。悪い事をしてしまった。あるいは何か制約があるのかもしれない。だが、どうせ俺の行動は変わらない。
「健気なものだな、精霊という存在は。見たまえ、最後の一発で巫蠱は消滅してしまったよ。私が貴様たちを殲滅せよと命じたばかりに。不死ではあるが、ここまで完全に分解すると再生まで長い時を要する。待っていられるほど私も気が長い方ではない」
「ジャックインザボックス! こいつを封じろ!」アルエの声が聞こえる。
「お願い、スカイウォーク。この男がもう何一つ話せないようにこの男の周りを真空にして」小槌の声が聞こえた。
「無駄だ」
俺はそこで初めて顔を上げた。ユユリが小さく呼吸をし始めたからである。
小槌とアルエがーー、そしてジャックインザボックスとスカイウォークが何故か動きを止めていた。まるで彼女たちの時だけが止まってしまったかのように。
「精霊使いは精霊を一体しか使役できない、なんて古い考え方だとこの娘に教えられたよ」ユークウスは固まったアルエを拳で叩きながら言った。「いやあ、つくづくアッタルが滅びたのは惜しいと思う。だが探せば何処かにアッタル出身の者たちがいるとは思うがね。実際目の前にいる事だし」
息があるとはいえユユリはーー、ハルナギはこのままでは確実に死ぬ。だがユークリウスが俺とユユリをこのまま見過ごすとも思えない。
「私はね、楽しんでいるんだよ。こうして君を追いかけているのもその証だよ。初めて敗北というものを知った」そこでユークリウスは俯き肩を震わせた。「悪くない。存在を否定されてこそ、勝ち取る喜びがあると知った」
感謝しているよ、と言ってユークリウスは人差し指を俺とユユリの方へと向けた。




