ユークリウス
俺の中には決して消えない炎がある。それはどんな風にも洪水にあっても消えない。俺自身が時折思い出しては薪をくべているからだ。それを人は「怒り」と言う。
「ユークリウス!!!!!!!」
俺の体はステッラの精霊・フィーリアに多少治療されたとはいえまだ万全ではない。
「あ、ダメ! カムイ出ないで!」
なのにユユリの空間を破って飛び降り、土煙を巻き上げて着地して巫蠱の元へ駆けつけ体組織を素手で毟った。巫蠱は叫び声を上げて体を仰け反った。
「何だそれは!」必死に巫蠱にしがみ付いたユークリウスの表情が歪む。「貴様、クロッサーか!」
耳慣れない言葉に触れ俺は少し冷静になる。あの時の戦闘で巫蠱は痛手を追ったはずだ。だがそれが綺麗に復活している。それはつまりーー。
「そいつの能力は不死だよ! 普通の方法じゃ倒せない!」ユユリは俺を強引に拾って地上から離脱した。俺がいた場所は早くも復活した巫蠱が全体重を込めて踏み潰していた。
「ユユリ、俺は」
ユユリは空間の中に自ら入り俺を抱きしめた。
「大丈夫だよ、カムイにはユユリがいる。ユユリにもカムイがいる。ニコイチ。忘れないで」
「彼が私を水み国へ案内した人です」と空間内にいたアルエは突然告白する。
「何だと?」俺はユユリの甘い体臭に包まれつつ訊いた。
「ユユリを拐う案を吹き込んだのは彼です。この町、エルシアに居れば小槌に対抗できる精霊と精霊使いが現れると彼は言いました。ちょうど小槌と最初の戦闘のあとに逃げ切った場所で彼に出会いました」
「アルエの行方を私に教えたのも彼なの」小槌もまた呆然としたまま言った。
ユユリの空間の中でしばし沈黙が訪れた。
つまりユユリを捕らえて利用する為に二人は利用されたのか。無関係な事に巻き込まれたと思っていたが、実際は逆だった。
「すまない。俺たちの事情に巻き込んでしまって」俺は二人に頭を下げた。
「今はそれどころでは無いみたいです」アルエが俺の背後を見据えて言った。
何かに勘付いたユユリも不意に顔を上げて空間の外に出た。そして「揺れるよ!」と一言言ってから急降下した。
再びジェットコースターのような状態の中。今まで俺たちがいた上空を見上げた。そこにはアメーバーのような翼を広げた巫蠱がいて開けた大口を今まさに閉じている所だった。
「あんな能力は無かったぞ!」俺は驚きつつ言った。
「機能拡張しているの。アッタルの技術」小槌は言った。気がつけば俺の両腕に小槌とアルエがしがみ付いている。
「普通はしない。精霊も精霊使いも寿命がさらに縮むから。私とジャックインザボックスはあくまでもジャックインザボックスが私にしがみついているだけ。いざとなれば切り離せる。機能拡張も考えたけれど、ジャックインザボックスは小槌の精霊だから」アルエは言った。
その言葉を聞いたあと、小槌の腕がより強く俺の腕にしがみ付いた。
「カムイ、後でお仕置き!」ユユリは叫んだ。
「何で!」俺は憤慨しつつも現状を確認して納得した。だが今はーー。
「しつこい!!!」ユユリは急降下した後、低空飛行で地面スレスレを飛んだ。障害物を避けながらジグザグに飛行する。すぐ後ろを巫蠱が飛んでいる。だが飛行は得意では無いのか、翼を落とし途中から無数の脚を生やして障害物をなぎ倒しながらこちらに向かってきた。
「まるでトカゲの尻尾だな」俺はつい長閑な感想をつぶやいてしまった。
「あの精霊が不死であったとしても全体の質量が変化するとは思えません」アルエは不意に冷静な口調で言った。
「何が言いたいの」小槌は不思議そうな顔つきで俺を挟んで反対側にいるアルエに尋ねた。
「そうか」俺はアルエの言葉を理解した。「ユユリ、上昇だ!」
「なんか知らないけど了解!」
ユユリは即座に急上昇した。地上を見ると巫蠱が再び羽を生やそうとしている。だが、羽の質量が足りないのか、飛び立つと同時に墜落した。ユークリウスが地上に投げ出される姿が見えた。
「成功だ!」俺はつい叫んでしまった。
「まだだよ」ユユリは冷静であった。墜落したはずの巫蠱は形状変化し、地面に平らに伸びて口先だけをこちらに砲塔のように向けた。「まずい!」
何か強い光が俺たち全員を包んだ。
「斥力パンチ!!」
光の最中ユユリの叫び声だけが聞こえた。




