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小槌の本当の過去

地図に名前の無い村ーー、当の村人からはアッタルと呼ばれていた。アッタルは外界では失われた精霊の技術をいくつも持っていた。その一つが精霊交換である。

アッタルの風習で無作為に選んだ精霊使い同士の精霊を交換して使役するという風習があった。これにより互いの精霊が人質関係になりアッタルからの裏切り者を出さないというシステムである。


未だ精霊というものに慣れていない俺からするとそんな事も出来るのかという感想しか持たないがステッラ辺りが聞いたら腰を抜かしたかもしれない。


「私とアルエの精霊は本来逆だった。私から私のジャックインザボックスを奪ったアッタルの人たち、そして」小槌はアルエを見据えて言った。「アルエを私は憎んだの」


小槌とアルエは年の離れた幼馴染だった。そしてアルエと小槌の兄は恋人同士でもあった。


「兄とアルエが逢瀬を重ねる間、私とアルエの弟は何となく一緒にいた。でもほとんど口をきかなかった」


「喧嘩でもしたのか」俺は阿呆のふりをして訊いた。


「さあ。私は兄ーー、真広が気がかりだったけれどアルエの弟ーー、ナガが何を考えていたのか分からない。ナガはいつもただ、ボーッとして私の側にいた」


「ナガは」とアルエは何かを口にしようとしたが、俺たちの視線を感じると「何でもない」と言った。


「ある夜、真広は手作りのネックレスを私にプレゼントして言った。『これから俺はずっと小槌と一緒だ』。そして次の日、真広とナガはアッタルの外へ連れ出されて戻らなくなった」小槌はまるで目の前でその光景を見ているかのように悲痛な声色で言った。「何でアルエは平気なの?」


突然、八つ当たりのように小槌はアルエに強い言葉を投げつけた。


「私は」何故かその先をアルエは言わず、ただ伏し目にして黙り込んだ。


「そして私にはジャックインザボックスが付き、アルエにはスカイウォークが付いた。そして村にある施設で眠らされ、起きたら互いの精霊が交換されていたの」


それから様々な訓練をする内に小槌はスカイウォークが只の加湿器程度の価値しかないと気付いた。


「何でそんなに弱いの? これじゃあ品評会で最下位になっちゃう!」ある時、小槌はスカイウォークに怒りを爆発させた。その瞬間、小槌の周りを陽だまりのような暖かさが包んだ。


「そんな事を望んでいるんじゃない!」地団駄を踏んで小槌は叫んだ。


小槌の言葉にスカイウォークは首を垂れて宙に浮かんでいた。


「アルエはあんなに出世しているのに。もう実戦だって出ているんだよ。しかも私のジャックインザボックスを使って!」


アルエはその時はまだ後方部隊ーー、傷ついた精霊の医療担当としてしか実戦に参加していなかったがある時戦闘中に傷ついた精霊を癒していると精霊使いの方が敵の攻撃に遭い死亡した。しかし精霊は消えず、ジャックインザボックスの中に留まり続けた。


「それがメデューサ。元々は仲間の精霊だった。メデューサの能力は戦闘向きの強力なものだった。半分精霊の世界にいる精霊を強制的に現世に顕現させ、髪の毛の蛇を使って拘束する。そこにジャックインザボックスの能力を使えば相手の精霊を生け捕りに出来るという稀有な能力に進化した」


アルエは渋々小槌の回想を補強する形で自分のことを話した。


「でも、メデューサの精霊使いが死亡した姿を見て私は怖くなった。私が死んだらジャックインザボックスもメデューサも消えてしまう。私自身を守るのもこの子達を守る為には大事な事なんだと気付いた。だからジャックインザボックスにお願いした。呼び出した後は私の体とジャックインザボックスの体を繋げて、と」


「そして益々私の居場所は無くなったの」小槌は棘のある言葉で言った。「アルエが帰還する度に同期の私が無能扱いされるの。そしてそれは起きた」


何度目かの品評会の折に遂に小槌は村人全員からの嘲笑の対象になった。相変わらず加湿器のような能力しか示さないスカイウォークにアッタルの人達は笑い声と共に物を投げ出した。何が当たったのか分からない。だが小槌の顔を真横に一文字に横切る傷が付いて血が噴き出た。


誰かが治療に向かう事もなく、むしろ血に興奮したかのように村人によって小槌は衣服を剥ぎ取られた。真広のくれたネックレスもちぎり取られた。「嘘つき! 私を守るって言った癖に!」小槌は涙を流しながらスカイウォークに叫んだ。


そしてそれは起きた。


「後は前に話した通りなの。巨大化したスカイウォークによって村人達は宙に投げ出され皆死んだ。多分、スカイウォークが精を大量消費する巨大化をしなかったのは私の事を思っての判断だと思うの。でもその時の私はそんなことにも気づけずに死体の山に囲まれて言ってしまったの“あっちへ行って! 勝手に生きて! 二度と私の前に姿を現さないで!”と」


「その瞬間に私は遠征から帰ってきた。とてつもない強敵にあって部隊は全滅。面も失い、私は命辛々逃げ帰ってきたの」そこでアルエは俺を見据えて言った。「私の部隊はたった一人の精霊使いに皆殺しにされた。そう、精霊ではなく、精霊使いに。ごめんなさい、私がユユリとの約束を破ってあなたを攻撃したのはその時に出会った精霊使いを思い出してしまったからなの」


俺はその言葉に面食らった。確かに俺はトリアルで意識を失い、自らの手で精霊を皆殺しにした。だが、流石にそれは俺じゃない。だがーー。


「仲間のジジから似たような体験をしたと聞いている」俺はジジから聞いた話を思い出して言った。「もしかしたら同じ奴かもな」


「二度と出会いたくない」アルエは恐怖の表情で言った。


這々の体でアッタルに帰ったアルエは村の惨状を見て呆然とした。

「おかえり、アルエ」小槌は落ちていた面を付けて死んだような目をして言った。「私のジャックインザボックスを返して!!」


そこで二人は戦う事になった。どこかへ姿を消したスカイウォークの攻撃だったがアルエはジャックインザボックスの力を活用して逃げ切った。


俺はそこで疑問に思う。

「アルエは何で水み国へ来たんだ? こんな田舎に来てもすぐに小槌に見つかると思うぞ」


「それはーー」アルエが答えようとした瞬間だった。


「踏み潰せ」何処からか声がした。

朝日が遮られ、俺たちの頭上に何かがいた。


「間一髪!!」

ユユリは嬉々として叫んで俺たち三人をまとめてユユリの空間に入れて飛び立った。


「カムイはユユリがいないとダメダメだね」ユユリは得意げに腕を組んで言った。


地上を見下ろすとそこにはハルナギを踏み潰した山蛭・巫蠱がいた。そしてその上にはハルナギを殺した張本人、ユークリウスがいた。


「やあ、久しぶり。相変わらず貴様は忌々しい精霊を連れているじゃないか」



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