連携の末に
「ジャックインザボックス、メデューサの瞳発動、その後蛇で捕らえて!」茂みに隠れていたアルエは叫んだ。メデューサの瞳がスカイウォークの全体を包み、同時に飛び出した無数の蛇がスカイウォークの首に残らず巻きつく。開いた顎門は閉じて大量の蛇に巻き付かれている。そしてハイオルトの指示なのか、スカイウォークの動きに急制動が掛かった。だが質量の違いか、捕らえたはずのスカイウォークにアルエとジャックインザボックスは引っ張られ、宙に浮いた。想定内なのかアルエは慌てずに叫んだ!「ユユリ!」
「ほい来た」ユユリはスカイウォークの頭上へ飛んだ。
だが次の瞬間、ユユリの動きが止まる。
「ねえ!」振り向いたユユリの顔には焦りが見えた。「小槌がいない!」
想定外の時に頼りになるのが仲間なのか。
いずこから飛び出したゴーレムがアルエの胴体を掴んだ。
「口の中です!」ジジは低音のよく響く声で叫んだ。
「ジャックインザボックス、鼻先だけ蛇を解除!」
アルエの指示でスカイウォークの鼻先だけが露呈した。
牙の間に隠れた小槌が見えた。
「フィーリア、捕まえて」いつのまにか駆けつけたステッラの指示によりフィーリアの精繊維に捕らえられた小槌が皆の前に姿を現した。
「放して、お願い!」小槌の悲痛な声が周囲に轟いた。すると指示を受けていないはずのスカイウォークが一瞬で竜巻を起こした。
上下が逆さまになった世界で俺は皆が、ステッラが、リュウシュウハが、ジジが、そしてハイオルトまでが宙に放り出された姿を確認した。
「ううううううううううっ」俺に聞こえたのはユユリが俺の体に飛びついて必死に制御している時のうめき声だけだった。
また俺は失うのか。大切に育てた関係を、人を。どうしてこんな目にばかり遇う?
「クソが!!!」
俺の叫びにユユリが一瞬怯んだ。次の瞬間不思議な事が起きた。
ステッラとリュウシュウハとジジ、ハイオルトが俺の周囲にいた。正確には俺を連れて飛ぶ時に展開されるユユリの空間の中に皆がいた。
「あれ?」俺は間抜けな声で言った。
「モズクの能力でユユリさんの空間にお邪魔させていただきました」ハイオルトは何故か一人だけ俺の腕の中にもたれ掛かっていた。「すみません、細かい調節が」
「そこ! 事案!」ユユリが空間の外から文句を言った。「けど今はそれどころじゃないね」
珍しくユユリは気持ちを切り替えて俺たちの上空ーー、逆さになった俺たちの下にいるスカイウォークとそれを捕らえたままのジャックインザボックスとアルエを見た。竜巻の衝撃でゴーレムは振り落とされていた。
「みんな、少し揺れるよ!」
ユユリの宣言通り、空間内も掃除機の中の様なひどいありさまになった。なぜかハイオルトだけは俺の胸に抱きついたままでいる。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」
ジェット機のような加速でユユリはスカイウォークの頭上に戻った小槌から面を奪った。「アルエ!」
フリスビーの様に投げた面を蛇の一匹で捉えたアルエは即座に面を付けて言った。
「ジャックインザボックス、スカイウォークを取り込んで」
言葉通りとはならず、むしろアルエとジャックインザボックスが引き寄せられるような形でスカイウォークの全長を取り込んでいった。
不思議な隠し芸を見たような気分で不意にできた開けた空を見て俺たちは途方に暮れた。
稜線に暁が見えた。朝が近い。
「アルエは何処へ?」リュウシュウハは周囲を見渡し、まるで子供の様に疑問を発した。
「あちらに」俺の腕の中でハイオルトは言った。「丘を二つ超えた先に無事着地できた様です」
「そこ! いつまでくっ付いてるの!」ユユリの叫びと共に空間は解除され、地上十センチに浮いていた俺たちは地面に放り出された。
銘々バランスを崩したが流石に転ぶ者はいなかった。俺を除いて。
「カムイ、無様だよ」ユユリが睥睨しつつ言った。
「仕方ないだろう。力を使い果たしているんだ」
それからユユリはクスクスと笑い出し、しょうがないなあ、と言いながら俺の胸に飛び込んできた。そして再び空間を作って言った、「先にアルエの様子を見てくる」
ユユリの言葉に皆は頷いた。
「ねえ、カムイ」穏やかな速度で飛びながらユユリは俺に訊いた。「どうしてそんなに他人が大事なの?」
「俺がか? 特に大事にしている自覚は無いな。ただまあ」元いた世界の事を思い出したがグッと飲み込んで言った。「身近な誰かが傷つくとさ、痛いんだよここが。ずっとな」
そう言って俺はみぞおちを指差した。「痛いのは誰だって嫌だろう?」
「そっか」
そう言ってユユリは眉を寄せて微笑んだ。何故か少し大人びて見えた。
「何だ?」
「別に。ただカムイはずっとカムイなんだなって思っただけ」
「何だそれ」
「ほら、見えたよ」ユユリの指差す先にアルエとジャックインザボックスの姿が見えた。竜巻の最中、フィーリアの精繊維を逃れて何処かへ消えたはずの小槌もなぜかそこにいた。
面の外れた小槌の顔には鼻を横断するように一直線の傷があった。綺麗な顔立ちだけに余計とその傷は目立った。
俺の視線に気づいたのか、小槌は顔面を両手で覆い「見ないでください」と言った。
「何でだ? 綺麗な顔じゃないか」傷はむしろその美しさを際立たせている。俺は心の底からそう思った。
「痛っ!」腕に激痛が走る。ユユリが俺の腕に噛み付いていた。「何しているんだ?」
「カムイのアホウ!!」
捨て台詞のように言ってユユリは何処かへ飛んで行った。




