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即興の作戦

頭だけでゆうに馬小屋くらいはある。俺たちパーティは一口で全滅だ。ステッラもリュウシュウハもジジも呆気にとられて精霊を呼び寄せる事すら忘れている。


ここで死ぬのか。ハルナギを復活させる事なく、リュウシュウハが王になる姿をみる事なく、そしてーー。

「俺はまだユユリをまだ褒めていない!」


「モズク、アタラクシオン。左に五度」


おそらく正気を逸したであろうスカイウォークの頭がわずかに逸れて馬小屋を破壊した。そのまま上空へ登りグルグルと回り出した。


「そのまま維持」ハイオルトは涼しげに言った。


彼女は俺たちの背後から現れた。


「皆さん、おはようございます」 お手本のようなお辞儀をしてハイオルトは微笑んだ。「間に合いました」


ハイオルトの側にはモズクがいた。鋏を小刻みに動かしているのはスカイウォークを引力操作している証である。


「いつスカイウォークに接触したんだ?」俺は当然の疑問として問う。


「あの龍の頭にいる女の子が落ちてきた時に」ハイオルトは何故か恥ずかしげに言った。「実はもしもの時を考えて皆さんにもアタラクシオン因子を付けておきました」


話の展開からアタラクシオン因子とは引力で操る時の起点となるものであると理解した。


「本当か?」ステッラの驚愕は当然である。一体いつ付けたんだ?


「公園で皆で会合していた時に」


「油断も隙もないな」リュウシュウハはどこか他人事のように言った。


談笑の後に拳を掲げて勝鬨をあげたい気分ではあるがまだ時期尚早である。「ユユリ!」


俺の叫びにユユリは呼応し「分かっているよ!」と言って再びスカイウォークの元へと立ち向かった。


「殺すな!」何となく理解されているかどうか不安になって付け加えた。


「だから知ってるって!!」不機嫌にユユリは言った。


安心はしたもののどうして良いか分からない。解決策の無いまま禁則事項だけを述べるのは随分と都合が良い。と言って今の自分が役立たずなのは熟知している。


「ステッラ、俺の治療は後で良い。代わりにこの子を頼む」ようやく立っていられるくらいには回復した。それを察したのかゴーレムも俺の背後から消えた。


「正気か? またユユリを奪われるかもしれないぞ」


そう言いつつステッラは即座にフィーリアの精繊維を俺から外してアルエに与えた。

見る見る血色が良くなっていく。気持ち若返って見える。


「あ‥‥、え? いやあああああああああああああ!!!」アルエは叫んで胸を隠すような仕草をして俺の腕から飛び降りて距離を取った。「何で抱きしめているの?」


気を失う前の事を覚えていないのか。軽く傷ついてから俺は言った。


「何もしていないから安心しろ」


「いやあ、さてはキスしたでしょう? オッパイ揉んだでしょう? あ‥‥」最後にアルエは股間を抑えた。「ひとでなし!!!!!」


戦う前とは大分性格が違う。傍らで腹を抱えて笑っているステッラを無視して俺は言った。


「ひとでなしで良いから今はあいつを止めてくれ」俺は上空を旋回し続けているスカイウォークを指差して言った。「ユユリを解放したから、ジャックインザボックスにはひと席余っているだろう?」


訝しげに上空を見上げたアルエは全てを思い出したかのようにハッとした表情を浮かべてから土下座した。「ごめんなさい! 私、覚えていなくて」


「ここまで引き寄せる事はできるか?」リュウシュウハはハイオルトに問いかけた。


ええ、とハイオルトは答えた。「でも、相手の力が強すぎてもうすぐ外れると思います」


「ジャックインザボックスはどうすれば精霊を捕らえられるんだ?」俺は精霊の弱点を晒すような質問をあえてした。土下座している今なら答えてくれるかもしれないと計算した上で。


アルエはすっかり年相応ーー、おそらく十七、八の少女に戻って言った。「他の方には内緒にしてもらえますか」


見渡すと皆は一様に頷いた。「もちろん」


手招きされて地面に座しているアルエに顔を近づける。


「メデューサの瞳で一度完全にこちらの世界に精霊を引っ張り込まなければなりません。それからメデューサの髪の毛である蛇で箱の中へ取り込みます。正直な所を言いますと別に蛇を使わなくても箱に入ればそれだけで中に入った精霊は私の命令をききます」


「少しだけだがユユリは自由に動いたぞ」


「人語を話せるというだけで特別ですが、それ以外にも彼女は色々と特殊です」


つまりユユリが規格外なだけで全長5キロくらいのスカイウォークも捕らえる事は可能だという事か。


「ただ」アルエはそこで心配そうに目を伏せて言った。「箱の中にいる間はわたしの精を糧にします。あれだけの大きさ精霊を私の精でまかなえるか‥‥」


下手をするとアルエの精が尽きる、という事か。小槌はアルエの戦略を理解していた節があるが精の枯渇までは考えなかったのか。


「小槌のあの面があれば何とかなりますが、私は前の戦闘で失くしてしまいました」


つまり、少々卑怯な気もするが小槌の面を奪ってアルエに被せる。そしてスカイウォークをジャックインザボックスに捕らえれば良いという事になる。


「相当大変な作業だな」リュウシュウハは言葉とは裏腹に袖を捲り上げる。

「お伴します」ジジもまた表情には出さずにともやる気のようなものが伝わってきた。


「はあ~」と深いため息を吐いた後にステッラも上空で旋回し続けるスカイウォークを見据えた。「体が半分になっても動いている。つまり体のほとんどが見せかけだ」


「だが尻尾が動いて山の木をなぎ倒したぞ」俺は見たものを正確に伝えた。


「尻尾がなぎ倒したというより、風圧を利用して倒したんだろう。つまりこうだな」ステッラは落ちていた小枝を使って地面に簡単なスカイウォークの全体図を描いた。


スカイウォークの本体は頭部にほとんど集約され、胴体から尻尾に掛けては体内に一本の筋があるという図である。「恐ろしく長い精の噴出機関を持っているのだろう。まあ触手みたいなものか。ユユリにぶった切られた時もほとんど苦しまなかったからおそらく感覚も無い」


「見た目に騙されたな」リュウシュウハはほとんど反省するような口調で呟いた。


「それでも並の精霊より巨大だ。実際、あのままジャックインザボックスに捕らえたらアルエの精が尽きるのは間違いない」ステッラは少しだけ考え込むような素振りを見せた。


「つまりそれは面を外した小槌にも言える事なんじゃあ」俺はつい確信をついてしまった。


「ならばそれぞれの任務遂行の間に時間的猶予はありませんな」ジジが珍しく皆に発破をかけるような事を言った。


沈黙によって俺たちは意思を固めた。


「そろそろアタラクシオン因子が外れそうです」ハイオルトは言った。


ハイオルトの台詞によってこれから起こる事は全て即興でこなさないといけないと知る。


「こちらに誘導します!」ハイオルトが叫んだ。


「ジャックインザボックス、お願い」アルエは悲痛な声色で言った。「スカイウォークを捕らえて」


もしもの時に備えてというより作戦失敗のバックアップとしてリュウシュウハとジジ、ステッラはスカイウォークの被害の届かない場所へ退避した。ユユリへの瞬間の指示がいる場合もあるので俺も現場に残る。


「ユユリ、こっちに来てくれ」


旋回するスカイウォークの側で様子を見ていたユユリは俺の元まで降りてきた。大凡の作戦を伝えるとユユリは素っ頓狂な声で言った。


「それじゃあカムイが死んじゃう!」


「そうならないようにハイオルトが多少は操ってくれる」


「多少!」


先ほどの指示を見るとハイオルトによるモズクの操作は完璧だ。問題はアタラクシオン因子がいつまで持つかに掛かっている。


「来た! カムイの方へは来ないで!」


ユユリの叫びとは裏腹にスカイウォークは真っ直ぐにこちらへ向かってくる。これ幸いとばかりに大きな顎門を広げている。





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