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怒りのユユリ

え? と言う隙も無かった。


「スカイウォーク。竜巻をここに」


上空から声が聞こえた。小槌の体は宙に浮いている。だが相変わらず精霊の姿は無い。衣服のはためきから推測すると、気圧を操作して強烈な風を起こして彼女の体を浮かせているのだろう。


「ごめんなさい、巻き込んでしまって。でもどうしても私は村の人達を根絶やしにしたいの」


そこで俺はやっと気付いた。デコイに使われたのは俺だけじゃない、俺たちのパーティー自体が小槌の囮に使われたのだ。


「アルエの能力を考えると私だけでは勝てなかった。竜巻を起こしてもきっと私自身が先に捕らえられてしまう。そうしたらスカイウォークは竜巻を解除してしまう。遠くから暴風を起こしてもメデューサの蛇で緊急脱出する。アルエとジャックインザボックスが繋がれているのは後天的に獲得した能力なの。それまでの彼女達は今の私達と同じ地位にいた。それが‥‥こいつのせいで!!」


逆恨みも甚だしい。だが俺としては同郷の内紛には興味がない。

「アルエ! ユユリを解放してくれ。ジャックインザボックスの能力内ではユユリの能力が十全に発揮できない」


ユユリの特性はユユリ砲による攻撃ではない、抜群の機動力である。ジャックインザボックスに捕らわれている状態ではその特性は活かせない。そして、誘拐の件は後回しにした。目前に竜巻が迫っているからである。


「頼む!」


「ジャックインザボックス! ユユリ解放!」俺の腕の中でアルエは叫んだ。


未だジャックインザボックスの影響が残っているのか、ユユリは露出の多い格好で箱から飛び出してきた。


「嘘吐き!」と言ってユユリは実体化した手でアルエを平手打ちした。「威嚇しかしない、みんなを傷つけないって約束したじゃない!」


「すまない」そう言ってアルエはそのまま気絶した。だが意識を失う刹那、「怖くて‥‥つい」と聞こえた気がした。


怖い? 俺がか?


疑問を押しのけ俺は彼女の体を両腕で抱えて間近に迫った竜巻に対面する。「さて、どうする?」


「お姫様抱っこ!!!!!」ユユリは叫んだ。「乙女の憧れが今、ここに! そしてその相手は私じゃない!」


「いや、だから今はそんな場合じゃあ」


「うるさい!!!」


そう言ってユユリはユユリ砲を竜巻に向けて放った。

精の色が分からない俺にも何故か分かった。いつものユユリ砲ではない。あの荒野で放った、俺とユユリの精を合わせた暴風だ。二度と使わないと言っていたのに。


暴風は竜巻に吸い込まれるように消えた。

ああ、駄目か、と思う刹那に一瞬にして竜巻は消えた。理屈は分からない。だが、気圧の高低差に方向性を与えて打ち消したのかもしれない。


そして、バランスを崩した小槌が落下した。


まずいと思ったが俺はアルエを未だ抱えたままであった。


一瞬だった。空全体が動いたと思った。巨大な何かが地面に激突する間際に小槌の下に潜り込んだ。


そしてそれは姿を現した。巨大な、あまりに巨大な龍だった。空一面を覆う程の大きさだった。


「こんな大きさの精霊は初めて見るな」何処からか現れたステッラは言った。「全長五キロくらいか」


この世界の単位も元の世界に準拠している。しかし五キロは大袈裟だろうと思った。錯覚かと思ったが遠くの山にある木々がスカイウォークの実体化した尻尾になぎ倒されるのが見えた。


「勝てる気がしないな」異変を察したリュウシュウハは俺たちの元へと駆けつけてきた。「あんなものもいるのか」


「文献で読んだものに似ています」ジジはリュウシュウハの背後から言った。「稀に現れるそうですがそのほとんどが短命です」


確かにあの体躯を支える精を維持するのは人一人では荷が重い。


「関係ない!!!」ユユリの声が聞こえた。


珍しいものを見た。ユユリが怒っている。髪の毛が逆立ち、いつもの柔和な表情がそこには無かった。


どうした? と問いかける前にユユリは言った。


「あの子は嘘を吐いた」一瞬顔を俯いた。だが次の瞬間にロケットのようにユユリは飛び出した。「許せない!!!」

宥める言葉をかける前に俺は自分の体の異変に気付いた。両足から激痛が走る。アルエの指示を止める為に全力で走ったのがここに来て仇となった。立ってられない。アルエを落としそうになるとジジの精霊・ゴーレムが俺の体を支えてくれた。


「無理し過ぎだ」ステッラは言った。フィーリアの指先から精繊維が出て俺を包んだ。「精の損傷が激しい。ユユリが何かしたか?」


俺とユユリの精を混ぜた暴風の話は伏せた。なぜかここで言うべきではないと感じたからだ。「限界の力で走った」

嘘ではない。おそらく半分は先ほどの能力を超えたダッシュで肉体と精が傷付いたと思われる。


「精の補充をすればじきに治る。だが、しばらくは歩けないぞ」


支払った代償の大きさに慄いた。それにまだ俺はユユリを褒めてない。

「くそ」


「焦るな、ユユリは強い」リュウシュウハは果敢にスカイウォークに向かって行ったユユリの動向から目を逸らさずに言った。「そら、もう胴体を半分にしたぞ」


空が裂けた。斥力パンチを掲げたままスカイウォークの胴体を駆け抜けた結果である。


「やめてえええええええええええ!!!」スカイウォークの頭の上から声が聞こえた。小槌が叫んでいるのが見えた。


「なぜ、嘘を吐いたの」スカイウォークの頭の上に乗った小槌と対面してユユリは言った。「皆、嘘吐きばっかり!」


「スカイウォーク⁉︎」小槌の意思に反するかのようにスカイウォークは滑空して俺たちに向かってきた。


「しまった!」ユユリは叫んだ。



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