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敵になったユユリ

アルエが宿を取らずに町外れの使われなくなった馬小屋に泊まっているのを見て俺の中の認識が揺らいだ。確かにユユリの誘拐犯には違いないのだがそれも勘違いの賜物である。荒野での実験を見て村を壊滅させた真犯人と思ったのだろう。確かにユユリの精と俺の精を合わせた暴風ーー、テンペストは小槌が話したスカイウォークの能力と見た目は同じに見えるだろう。

だがーー。


「たまたま見つけた精霊使いを犯人と思うだろうか? しかもアガルタからここまでの距離を考えると現実的とは思えない。そもそもなぜアルエと小槌はこの地にいるんだ?」


作戦実行までの合間を見計らってステッラに耳打ちした。

月らしきものの薄明かりの中、ステッラは周囲を見渡してから言った。

「今度の話はどうにも胡散臭い。登場人物が足りないというかな」


裏で糸を引いている人物がいると言う事か。ならばなぜこの話に乗っているのか。


「まず第一にユユリの身の安全だな。これは大前提だ。だから作戦の実行は急務だ。後はまあ助けた後に考えるさ」ステッラはなぜかここで楽観的な見方を示した。らしくない。


「そうか? 私はこう見えて常に未来を見て行動しているぞ」


守銭奴は悲観的未来を見据えて金を貯めていると認識していたがどうもそうではないらしい。


「とにかく一度アルエと対話を試みたほほうがいい。戦わないのならそれに越したことはないのだから」ステッラは気を引き締める為か頬を軽く叩いてから言った。


馬小屋の前にいるのは俺とステッラだけである。馬小屋の側には廃屋があるが、そちらは半壊していてとても住める状態には無い。そちらへジジとリュウシュウハが闇に乗じて動く姿がある。普通の誘拐ならこの挟み撃ちで正解なのだがユユリはジャックインザボックスに囚われている状態である。


小槌は馬小屋を見下ろせる高台にいる筈だ。顔見知りに顔を合わせるとどんな事態になるか分からない。捕縛してからかーー、あるいは最悪でもユユリを救出した後で逃げる時にスカイウォークの力を発揮させてもらうという事で手を打った。ハイオルトは未だ宿で寝ている筈だ。


「ジャックインザボックス!」


闇の中から声があがる。


気付かれた。俺は全身に謎の光を浴びながら横っ飛びに跳んだ。柔道の前回り受け身のような体勢になりつつ藪に転がり入った。次の瞬間、無数の蛇が藪を乗り越えて俺に襲いかかってきた。


「くっ」


話し合いどころでは無い。相手は死に物狂いだ。

更に後方へ転がった。蛇を出し抜く事には成功したがジリ貧である。何せ俺には何の力もないのだから。


「おい、聞いているか! 俺はファンタジアという村から来たカムイって」


更に蛇が伸びる。

聞く耳無しか、と思いつつ再び横っ飛びするが流石にバランスを崩した。

その時、空に光源が現れた。ゆっくりとした軌道で俺の真上にたどり着いたと思うとそこで強烈な光を放った。蛇はそこで動きを止めた。


「こっちだ!」リュウシュウハの声がした。するとあの光源はジャンヌの放ったプラズマか。

左斜め後ろーー、リュウシュウハの声がした方へと遁走する時に横目で見るとジジの精霊・ゴーレムが蛇達をまとめて抱えているところだった。


「お願いします」というジジの声と共にゴーレムは蛇を引っこ抜くように体を捻った。


すると光源に照らされた地面に巨大な箱とまるで紐づけられたように女の子が転がった。普通、精霊と精霊使いは各々が勝手気ままに動く。精の補給があるからなるべく近くにいた方がいいと以前ステッラから聞いていたが、この様子は完全に精霊と精霊使いが物理的に繋がっているように見える。


「フィーリア、拘束して」ステッラは俺の背後から現れて言った。俺が地面を転がっている間ずっと機を伺っていたのだ。作戦通りである。


「メデューサ、引っ込め!」地面に転がった女の子ーー、アルエは言った。するとゴーレムの腕からスルスルと蛇達がすり抜け箱の中に戻っていく。「ユユリ、出て来い!」


アルエの頭の上にあった箱は回転して別の面を正面に据えた。そしてそこの蓋が開いた。

ユユリは見たこともない格好ーー、露出の多い衣装を着て身体中に模様が入っていた。そして呆然と精気の抜けた顔つきをしていた。俺の方を見もしない。

「ユユリ、まとめてやっつけちゃえ!」アルエは地面から立ち上がりつつ言った。


ユユリの手のひらの上に渦が出来る。


「おい、いつもより大きくないか」俺はつい焦って口走る。


例によってユユリは投球フォームからその渦を俺目掛けて投げつけてきた。当たったら死ぬ。だが早目に避けると二発目が飛んでくる。引きつけてから前進ーー、斜め前へ避けていく感覚だ。渦が耳のすぐ横を掠めた。熱くもなく冷たくもない。ただ触れたらそこが抉られるのが分かる。真空が飛んでくるような気分だ。


「ユユリ! 俺だカムイだ! 分かるか!」


二発目が飛んでくる。敵対すると分かる。投球フォームというのはどうしたって軌道を読まれやすい。二発目にしてユユリ砲の癖を見抜いた。お陰で易々と避けれた。これはユユリ砲の根本的な見直しをしなければならない、と考えているとフィーリアの繊維がアルエを拘束した。


やれやれ、これでこの茶番を終わりにできる。そもそも多勢に無勢だ。勝って当然である。ジャックインザボックスの弱点である二体同時に出せない性質を考えればこの作戦は妥当だ。

誇る気にもならない。被害者はこちらなのだから多少手荒な真似もする。だが相手は女の子だ。話せばきっと分かってくれるーー。


「ユユリスプラッシュ!!」


「戻れユユリ! メデューサ出ろ! 蛇だ!」


アルエの端的な指示が飛ぶ。精霊使いの弱点だ。指示が丸聞こえである。だが、フィーリアの繊維をユユリ砲で溶かし、メデューサの蛇を飛ばしてどうするつもりなのか、一瞬分からなかった。蛇は誰も攻撃せず、母屋の梁に巻きつき、そこを支点としてアルエとジャックインザボックスは跳んだ。


なるほど縫い付けられているかのような精霊と精霊使いの繋がりはこういう場面で役に立つのかと感心しているとアルエは一瞬俺を見た。瞳孔が開く。恐怖の表情にも見えた。続けざまに彼女は取り乱したように言った。


「ひ、引っ込めメデューサ! ユユリ出ろ! ユユリ砲最大出力!」


まずい。なりに騙されていた。女の子ではあるが小槌の話によると歴戦の猛者である。逃げるだけではなくすぐさま反撃に転じた。


ユユリは正気の抜けた目付きのまま、ユユリ砲を見たことも無い大きさに作り上げた。それを俺に向けて放つ。


例えモーションで軌道が分かっても球が大きければ逃げ道なんて簡単に潰せる。触れただけでその部位は消し飛ぶのだ。


球が間近に迫る。大きすぎて避けきれない。俺の体をスッポリと包み込む大きさだ。


「や‥‥め、」


「ああああああああああああああああああ!!!!!」誰かの叫ぶ声が聞こえた。「ブラックアウト!!」


叫び声と共にユユリ砲の球は一瞬消えた。そして俺の背後から轟音が聞こえた。振り返るとユユリ砲が当たった跡として強大なトンネルが山肌に出来ていた。一瞬だけユユリ砲の球が消えた。いや、テレポートか?


「間に合った‥‥」ジャックインザボックスの中のユユリはグッタリとして箱の中でへたり込んでいた。「ねえ、カムイ」


褒めてーー。


そう言ってユユリは箱の中で崩れ落ちた。


「引っ込めユユリ! メデューサ出てこ」


最後まで言わせるか。俺は渾身の力で走った。大腿筋に激痛が走る。アキレス腱が千切れたって構わない。ユユリを褒めるんだ。俺の体なんてどうなってもいい。


気がつけば、俺はアルエの口を塞いでいた。いつのまに辿り着いたのか覚えていない。

「話を聞いてくれ。俺とユユリは水み国から出た事はない。最近ファンタジアという田舎町から出てきたばかりだ。君の村を蹂躙したのは俺たちじゃないんだ」


アルエは俺を見上げ、その大きな目を広げて一度だけ瞬きをした。手のひらにアルエの冷や汗を感じる。異常な量の汗だ。


「信じてくれるか?」


アルエは再び瞬きをした。

おそらく、ここで手を離すのは愚の骨頂なのだろう。再びフィーリアに拘束してもらうのが一番良い方法である。だがーー。


「そんなの、ユユリに聞いて知っている」アルエは俺が手を緩めるとすぐに震える声で言った。「あんたら騙されているよ」

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