小槌
「コヅチ? 何だ?」
「はい」と言って女の子は手を挙げた。
「コヅチ」
はい、と彼女は再び同じ動作で応えた。
そこで「小槌の宝物」という言葉を思い出す。
「すまない! あれは事故で悪気は無かった」と俺はそのまま土下座の姿勢に移行する。
「あったとしたらどうするの」
「嘘かよ!」俺は身を起こして反射的に叫んだ。
「ああ、ごめんなさい。本当にあったの。ただ、無くなって良かったものだから気にしないで」
狐に化かされたような気分のまま俺はつい呟いてしまった。
「嘘くさいな」
「本当なの。父の形見でも二度と手に出来ない思い出の品」
「重いわ!」思わず俺は叫んだ。
「では無いのだけれど」
「また嘘吐いちゃったよ」
調子が狂う。仮面の女の子は奇妙なペースで話す。ハイオルトもどこか気怠い雰囲気だったが、彼女の場合、常に眠気と隣り合わせであるので仕方ない部分もある。そして気付いた。
「ずっとそこの岩場に居たのか?」
「宝物が木っ端微塵になる瞬間をこの目で確認できたので概ね満足なの。お葬式だから自分でしたかったけれど」
どうせ代替品だし、と付け加えるように仮面の女の子は言った。
このペースに乗せられては駄目だ。お葬式だなんだと正直よく分からないので無視した。罪悪感を押し殺しながら俺は続けた。
「君は精霊使いだな」普通の人間があの惨状を見て冷静でいられる訳がない。
仮面は頷き、右手を差し出した。
「スカイウォーク、ここに雨を降らせて」
俺は阿呆みたいに呆然と仮面の女を見つめていた。すると突然、豪雨が降り注いだ。
「まじか」
俺は立ち上がって一歩足を踏み出した。だがその先には雨は降っていない。局地的にしても随分と正確な狙いの雨である。
「そういう能力なんだな」
小槌は控えめに頷いて言った。「お願いがあるの」
「いや、悪いが俺はユユリを見つけたい。後にしてくれ」俺は小槌に背を向けて歩き出す。だがどこを探せばいいのだ?
「あの人型の精霊さんならアルエが捕まえているの」
「どういう事だ?」
振り返ると局地的豪雨の後の水たまりの向こうで小槌が悪戯っぽく笑って言った。「彼女の居場所を教えたらお願いを聞いて欲しいの」




