拐かされたユユリ
街の方から来たと思われるその女の子は息を弾ませ、今まさに倒れそうな具合で俺たちの背後にいた。両手を自らの膝にあて、息も絶え絶えな様に思わず声を掛けずにはいられなかった。
「大丈夫か」
「ジャック・インザ・ボックス!」と少女が叫ぶと同時に彼女の背後に禍々しい大きな箱が浮かんだ。少女は大股を開いて片手を地面に付けた。アメリカンフットボールで見たことのあるポーズだった。少女がその姿勢になる事により、箱は彼女の上に位置する。
箱の正面が観音開きに開いたと思うと、中に暗闇が見えた。その暗闇の中に口があった。そこから何かが俺たちに向けて吹き出された。
「精霊使いか!」俺が反射的にユユリを抱きかかえた。
「あ」という一声と共にユユリは俺にしがみついた。さらに「優しくして」と言ったが無視した。
精霊によって何かを掛けられたのは確かである。だが俺自体の体には異変が無い。
「何だ?」俺は警戒態勢のまま立ち上がって後退りした。そこでようやく異変に気付いた。ユユリが重い。重いだと?
「メデューサ、あの精霊を捕まえろ!」少女の叫びの後、箱の正面の扉は閉じた。だが今度は代わりに上の扉が開き、そこから無数の蛇が飛び出してきた。
蛇達は俺たちをグルグル巻きにした。身体中が蛇の冷たい鱗に晒されて気分が悪かった。だが不思議と噛みつく真似だけはしないので俺もユユリもとりあえずは無事でーー。
異変に気づいた。
ユユリの体が無い。重い体となったユユリがいない。俺は半狂乱になって蛇を引き剥がした。全身で暴れた末に息も絶え絶えになった後に見たのは先ほどの暴風で積み上がった土砂と荒野だけであった。
「ユユリ」俺はつぶやきつつ大地に膝を着き、両前腕を地面に付けた。砂利が当たって皮膚が痛い。
何だ? 何があった? なぜユユリが連れ去られなければならない?
「俺たちが何をしたって言うんだ?」
「あの案山子には小槌の宝物が」
声が岩場の方から聞こえる。暴風から逃れた所に奇妙な面を付けた女の子が立っていた。元の世界にある着物に近い服を着ていた。少し民族衣装に近い。アイヌ民族のそれのような模様が彩られていた。




