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訓練

エルシア編2


バランタインとの別れの後、宿に戻ると早々にハイオルトは眠りに就いた。

翌日、セント・リリアへ出発する予定であったがホテル内でリュウシュウハとジジが何事か協議している。聞けば神聖アガルタ帝国にある精霊の村が壊滅状態にあるとの事である。俺たちに何の関係があるのかと問うと精霊の動向を把握しておくとシンアルの動きも分かるとの事である。

「どうやってその事実を知ったんだ?」


リュウシュウハは懐から手紙を取り出して言った。

「精霊使いには独自の連絡路がある。勿論精霊を介してだ」


この世界では大陸を挟んでの手紙のやりとりには最低数ヶ月かかる。そして高額である。だが各大陸にいるそれぞれの精霊使い同士が結託して気送管を作った。一種の転移装置のような気送管を実現できたのはひとえに精霊の能力を組み合わせた結果である。もっとも、拠点は各大陸に一つずつしかないのでそこから先は通常の郵便配達を利用する事になる、とリュウシュウハは説明した。


「転移の能力は希少だ。彼らがそれを実現できたのは四体の精霊の能力を掛け合わせた上で、更に偶然による所が大きいと言われている」リュウシュウハは感慨深げに言ってから意味深にカムイを見た。


「俺は俺自身の能力を使う事はできない。ユユリを介してしか使えない。まして大陸間なんてとんでもない」言い訳じみているなと思いつつ俺は言った。


「分からんぞ。訓練次第では何かとんでもない能力に進化する可能性もある」


リュウシュウハの言葉に感化されたわけではないがユユリと技の応用方法を試してみようという話になった。

「どうせ明日まで暇だしな」


「ハイオルトから訊いた方法を試したい!」やる気満々にユユリは言った。


二人で話しながら目立たない所を探して歩いていくも結局町外れまで辿り着いてしまった。エルシアの南側は山脈があり、東側には岩場の多い荒野が広がっている。辛うじて街が見える距離まで荒野を進むと何故か案山子があった。案山子の向こうの岩場に何かが隠れた気がした。野ウサギか何かだろう。


「変な顔」と言って案山子を見たユユリは笑った。


ここらでいいか、と思いつつユユリに対面して言った。

「ユユリ砲、ユユリスプラッシュ、斥力パンチ。これくらいか」俺は指折り数えた。「近距離と遠距離と多人数相手の技だから大体これで充分とも言えるが」


「ダメ! もっと技の数を増やさないと、避けられた時に大事なカムイの精を無駄にしちゃう」ユユリは憤慨して言った。


「避けられるか」俺はユユリの言葉にヒントを得た。「ホーミング機能だな」


「ホーキング理論?」


絶妙に言い間違えるな。元の世界の天才物理学者が転生してこちらの世界で自由に歩ける体を手に入れていたらきっともっと幸せだったろう。彼は晩年異世界の存在を証明しようとしていた。この景色を見たらきっと気色満面で喜んだろう。そう願わずにはいられない。


「ホーミング機能だ。つまり、相手が避けたら追いかける機能だな」


兎の着ぐるみを着たユユリは顎に手を添えて考え出した。「そんな事出来るかな‥」


それから手のひらの上に小さな渦を作り出し、それを案山子に向けて放った。そしてーー。


「うおおおおおおおおおおおおお‼︎‼︎‼︎‼︎」と少年漫画のような掛け声と共に釣竿を横に引くような動作をした。

渦は少しだけ軌道がずれて案山子を素通りした。


「あんまり上手く出来ない」ユユリは落ち込んでいるように見えた。「ダメっ子ユユリでごめんね」


慰めても良いが俺はふとそこでユユリと初めて出会った時の事を思い出した。


「あの山蛭の腹に大穴を開けた時、相手に当たったユユリ砲の弾を広げていたぞ」


えー、そんな事したかなあ、とユユリは後頭部を掻きながら言った。今ひとつピンときていない様子である。


「こう、両手を徐々に広げていって」俺は身振りでその真似をしてみせた。


「んん。多分あれはカムイの精を加工しないでそのまま使ったから出来たのかも。一度ユユリの精として加工すると簡単な状態に変わるの。ただの燃料って感じ。節約にもなるし。でもあの時のカムイの精はまるで生き物だった。だから僕が命じると牧羊犬みたいに反応してくれた」


今度は俺が考え込む番であった。

「俺の精を無加工で使えば」確か俺の精は転移である。つまり移動特化型だ。何かしら良い反応が期待できると考えた。


「ダメ!」ユユリは俺の顔の前で人差し指を立てて言った。「またぶっ倒れて笑い者になるよ!」


笑い者だったのか。地味に傷ついてから俺は言った。

「その辺りを上手く調節できないか? つまり、半分だけ無加工で使うとか」


んんん、と腕を組んで唸ってからユユリは諦めたように手のひらを差し出し、人差し指の上に小さな渦を作り出した。


「どうかな」ユユリは鼻くそでも投げるみたいに指先を弾いて案山子に渦を投げた。完全にやる気を無くしている。「はい! 曲っがーれっ!」

ユユリは片足を上げて、両手の人差し指だけを伸ばしたまま万歳し、左側に両腕を体ごと振った。不貞腐れてふざけ出した。


渦は少しだけ軌道がぶれてから案山子に当たった。


「ああ、ダメかあ」とユユリが言ったと瞬間だった。確か渦はピンポン球ほどの大きさだった。

ゆっくりと案山子から光が溢れ出し、それはやがて野球場を飲み込むほどの大きさになった。


俺はいつのまにか宙に浮いていた。気づけばユユリに抱えられ、上空高く浮いていた。

案山子の周りは暴風と稲妻が吹き荒れたカオスな空間と化していた。


「何だあれは!」俺は驚きのあまりつい洩らした。






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