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カムイの能力

「これはとんでもないモノをみたぞ」ステッラの額には冷や汗が浮かんでいる。。


「だろう? ファンタジアでは幸運の証とすら呼ばれていたからな」俺は田舎者丸出しで自慢気に語った。


「ああ。あれは多分精霊だ。喋る精霊がユユリ以外にいるとはな」リュウシュウハもまた驚きを隠せないまま言った。


「精霊なのか? しかしファンタジアでは常人が見ているぞ」今度は俺が驚く番であった。


「この公園にいる人たちが全て精霊使いなら話は分かりますが、常人たちも今の計都を目撃しています」ジジは周囲を見回してから言った。


確かにピクニックに来ているのであろう家族連れがこちらを指差して騒いでいる。


「俺も見たしな」とバランタインもおずおずと言い出した。確かに彼はカダヴェルを使ってモズクを操作したが精霊使いではない。カダヴェルを外したら精霊を見ることは出来なくなる。


「つまり、精霊でありながら言葉を話し、常人にも見える精霊か。規格外だな」ステッラは顎に手を当てて考え出した。「しかも忽然と姿を消したぞ」


俺は元いた世界でのUFO目撃談を聞いているような気分になった。


「なぜ精霊だと思ったんだ?」俺はリュウシュウハに尋ねた。


「前にも言ったが精霊からは光が出ている。その光の色によって性質も変わる。あの計都とかいう精霊からは白と黒の両方が斑らに出ていた。正直、関わり合いになるは勘弁願いたい」リュウシュウハの顔色には恐怖に近いものが浮かんでいた。


「色か」俺に見えないものを提示されてもピンとこない。


「いつか見える日が来るだろう。ざっと性質を上げるならこのようになる」ステッラは教師のような口調で言った。

「白は癒し。黒は全体破壊。赤は物理攻撃。青は遠距離攻撃。緑は他物同期。黄色は空間創造。他にも色々あるし知らない性質も多い。逆に言えばよく分からない色の精霊は気をつけた方がいい」


計都は確かリュウシュウハが白と黒と言っていた。癒しと破壊か。相反する能力を有するとは確かに厄介そうである。


「というかな、纏っている色は単色ではないんだな」


「何なら色の擬態もあり得るからあまり当てにしすぎるのもな。そうか、カムイは見えないんだったな。ちなみにユユリは黒と青が渦巻いている。全体攻撃である黒に青で指向性を与えている。青が無ければ仲間ごと破壊される。割と危険な性質だ」


「ユユリは危険じゃないよ」憤慨するでもなく真顔でユユリは言った。「でも他の技も身につけたい」


計都が現れてからやけに静かだったユユリが話し始めて俺は少し安心した。少しだけ様子がおかしかったのを目の端で確認している。


「ふむ」リュウシュウハは腕を組んで、ベンチで眠たげにしている少女の方を向いた。「ハイオルトの技はハイオルトだけの物だ。彼女にしか使えない。だが考え方を学ぶ所はあると思う」


計都の邪魔立てからようやく元の話に戻った。


「能力の指向性を変える、能力の出所を変える、他の物体へ能力を付属させる、私が知るのはそのくらいです」ハイオルトは言うが早いか「すみません、限界です」と言って眠りに落ちた。ベンチで首を傾けているので滑り落ちては危ないと手を差し伸べようとするとモズクが現れハイオルトを直立させた。


「寝ながら立った!」ユユリは感嘆の声を挙げた。


俺は試しに皆から離れた。ハイオルトは幽霊のように俺の後に着いてきた。


「移動する時は水平移動か。目立つな」何か他の方法を考えなければならない。おそらく寝入り端にモズクへと「この集団に着いて行く」という指示を与えているのだろう。


「集団というかカムイに着いて行っているんですけど」ユユリは不機嫌に言い放つ。

「昨日の敵は今日の友というやつだ。人間の中で一番接してきたのは俺だからな。まあ闘いを通じてだが」俺はその場で思いついた言い訳を話した。


「俺はこれから別行動だから、困った事があったらカムイさんに頼れと言い含めてあるんです」バランタインが支援してくれた。


「という訳だ」俺は冷汗をかきつつユユリに向かって言った。


「へー」と冷ややかな顔つきでユユリは言った。「でも、その姿で移動するのは流石のユユリでもドン引きよ」


「そうだな」俺は一頻り頭を捻ったあと思いつきを口にする。「ユユリ、最初にあった時に『俺の怒り』と称して渦の球を見せてくれたよな。あれ、出せるか?」


「出せるけど、カムイきっと疲れちゃうよ。あの状態はユユリの制御がないから」


つまり普段は制御して使ってくれていたのか。

ユユリは右手を差し出した。手のひらの上に球状の渦が出現した。


「いつ見ても禍々しいな」俺はつい本音を言ってしまった。


「元々はカムイの力だよ。それを加工してユユリが使っているけど」ユユリは嗜めるように呟いた。それから渦を凝視して「なんか色が違う」と言った。


俺は地面にしゃがみ込んで雑草を引き抜いた。それを渦に近づける。


「あ」ユユリが思わず声を漏らした。


てっきり雑草は粉々になると思っていた。葉先が振動しやがて渦の中に消えた。


「どういう事だ」想定しない事態に俺は動揺した。


「前は青と黒だったけど、今は赤と黄色。太陽みたい」ユユリは言った。


「色が分かるのか?」俺には透明な渦のようにしか見えない。


「見えないの?」渦を消してからユユリは言った。「ユユリは見えるのに」


「透明な揺らぎのようなものは見えるんだがな」


俺は最初、ユユリの力を使ってハイオルトに干渉する事を考えた。もしかしたらそれによってユユリの力の使い方にも選択肢が増えると見込んだ。だが根本となる俺の力の得体が知れないのでどうにも危険に思う。


参ったな、と思っているとハイオルトの頭上から先ほどの雑草が落ちてきた。寝ているハイオルトの顔面に張り付いて、ちょうど根っこが彼女の鼻の穴に入った。


「クシュ」という小さなクシャミと共にハイオルトは目覚めた。「あれ?」


「おはよう」とステッラは戯れに言った。


「おはようございます」とハイオルトはお辞儀をしたが、目覚めと同時にモズクの能力が解除されたのか、バランスを崩して俺の方へと倒れこんできた。

間一髪で抱きかかえるとユユリが物凄い剣幕で「そこ、事案発生!」と叫んだ。


俺はゆっくりとハイオルトを下ろし、それから「事故だ」とユユリに弁明した。


「どうだか」とユユリはご立腹である。


「驚いたな。転移だ」とリュウシュウハが突如口を挟んだ。「見るのは初めてだ」


「すまん、どういう事だ? ユユリの力は確か青と黒で遠距離破壊だったはずだが」


「精霊の力は精霊使いの精を基にしている。だがその能力は精霊と精霊使いで違う事は稀にある。精霊は精霊使いの精を加工して自分の能力に変換する。つまり」ステッラは子供に言い聞かせるように解説した。「転移はカムイの能力だ」


「俺は人間だぞ。能力は使えないだろう」


俺の言葉にリュウシュウハとステッラは顔を見合わせた。やれやれ、まいったなという按配である。


「精霊との回路を開いた者なら人間でも能力は使える。ただ、普通は精霊を介した方がより大きな力を使える」


そう言ってリュウシュウハは手のひらの上に炎を作り出した。


「私自身の能力はプラズマ発生だが見ての通り、ジャンヌに比べたらとても小さなものだ」リュウシュウハは炎を球電に変えて宙に浮かせた。「まあ野外の炊事には役に立つという程度だな」


球電はバチッという音を立てて消えた。


「もしかして説明していないかったのか」ステッラはリュウシュウハに非難の目を向けた。


「失念していた。てっきり会話の流れで知っていると思っていた」


すまない、と言ってリュウシュウハは頭を下げた。


「謝罪されるほどの事ではないさ。実際、勘違いしていたのは俺の方だしな」と辛うじて言ったものの俺の意識は別の方へ向かっていた。もしかしたら戦闘でユユリの足を引っ張る事がなくなるかもしれない。だとしたらーー。


突如として視界が揺らいだ。そして右半身に激痛が走る。大丈夫ですか、というハイオルトの声が聞こえた。


「やはりな」とステッラの声が聞こえた。「人間が能力を使うのは難しい。制御するには相当訓練しないといけない。だから皆精霊を介する方法に落ち着く」


大地に横たわった俺の体を皆が覗き込んでいる。ユユリは俺の首を持ち上げ膝枕をしてくれた。

「カムイ、子供みたい」

へへ、と笑った。


いや、四肢が重くのっぴきならない状況なのでまるで人形遊びされている気分なのだがともあれユユリの機嫌が直って良かったと思った。


「つまりこれは精の使い過ぎという事か」俺なりに分析して述べた。


然りとばかりに皆が頷くのを尻目にハイオルトが肩掛けのポーチを開いて中からパンを差し出してきた。「これ。よろしかったら」


俺は礼を述べて行儀が悪いとは思ったがその場で頬張った。


「王様か」とリュウシュウハは言った。

「ハーレムか」とステッラが言った。

「甘えん坊か」ユユリが呟いた。


「言いたい放題だな!」俺はつい憤慨して叫んだ。


「え、えーと。芋虫ですか?」ハイオルトは空気を読んで言った。


「私も何か言うべきですか」とジジが言った辺りで起き上がる事ができた。

バランタインは安心したように微笑んで言った。「仲がよろしいんですね」


仲が云々は分からないがハイオルトを預けるに足ると思われたのなら幸いであった。









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