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計都

「あの技、ぎゅーんって引っ張るのとか、色々教えて欲しいよ!」


なるほど、そういう狙いか。ならば俺にも条件がある。


「精霊使い自体が強くなる方法は無いのか? 知っているなら教えて欲しい」


戦闘の最中、金魚のフンみたいにユユリにくっついているだけの自分が不甲斐なかった。俺の中にいるもう一人は生身の体で精霊と渡り合える力を持っていたらしい。ならば同じ体を共有している俺にも出来ないはずはない。


「精霊使いが実力を上げるのは正攻法だ。だがここでは出来ないな」なぜか割って入ったステッラが解説する。


「ならばどこで出来るんだ?」少年漫画のような特訓シーンを想像したがステッラの言い草からするとどうにも毛色が違うらしい。


ゲヘナ、とステッラはやや言い澱みながら呟いた。「単純に精霊使いが体力を上げるのも効果はある。だがゲヘナには『別れの洞』がある」



別れの洞? 観光名所にしては不穏な名称である。男女の中を引き裂く場所があるのだろうか。元の世界でもカップルで行くと別れると言われているテーマパークはあった。


「あまりお勧めは出来ないがな」ステッラは鎮痛な面持ちで言った。


「ならば何故言った?」俺は思わず思った事を正直に言ってしまった。「ステッラはそこへ行ったのか?」


「条件を訊いて断念した」


「条件?」


「一度、精霊との契約を破棄される。破棄されるがその間、精霊が消滅する事はない。その洞にいる間は安全だ。だが、精霊使いは外へ出て今度は『繋ぎの洞』に入る。『繋ぎの洞』には試練がある。そこで精霊使いは一人でその試練を乗り越えなければならない。そして」


「試練を越えた先に特別な精霊が待ち受けていてそこで質疑応答がある。合格すれば再び自らの精霊と再会出来て再び契約が結ばれる」リュウシュウハは訥々と語った。「ジジがよく聞かせてくれた」


「私の知っているのはそこまでです。もちろん、『別れの洞』も『繋ぎの洞』へも行ったことはありません」


ジジの言葉に俺は少々まごついた。何となればこの中のパーティーに一人くらいは経験者がいると踏んでいたからである。


「ただ、『別れの洞』の経験者に会ったことはあります」銘々が地面に座っている中、一人立ち尽くしたジジは遠い空を眺めるように視線を掲げた。「さほど話せる事はありません。ただ、一瞬でーー、精霊使いだけで他所の部隊を壊滅させました。精霊はむしろ退屈そうにその様子を眺めていました。その部隊の補給として訪れた私は少し離れた場所から事の成り行きを呆然と見つめるしか出来ませんでした。横を素通りするその人物は『命拾いしたな』とだけ私に告げて立ち去りました」ジジは視線を皆に戻して「以上です」と告げた。


「私はその時、別の任務に就いていた。話だけは聞いている」リュウシュウハは怪訝な顔で俺を見た。「というかな、トリアルでのカムイの戦闘はどう考えても『別れの洞』を経験した者の動きだ、という噂だ。直接見たわけではないが、あの強者供を素手で屠るなぞ常人では出来ない」


やはりそうか、というのが最初の感想である。しかし当事者としてはこのように答える以外には無い。「それは俺じゃない」


嘘を吐いているわけでも無いのに皆が微妙な顔つきになった。だが、俺の中にいる少年の話も俺自身が転生者である事も今は話すべきではないと思った。


「カムイは、そのナンダトコラとか言う所に行った事はないよ! ずっとユユリと一緒だもん!」


別れの洞な、と思いつつも俺の事情を知りつつ何とか皆の不信を宥めようとしているユユリに俺は思わず微笑んだ。


「それは我々も知っている。疑っている訳ではない。自身も持て余している何かがカムイにはあるのだろう、という推測を述べただけだ」リュウシュウハは珍しく慌てたように弁明した。


「なら良し!」ユユリは偉そうに腕を組んで頷いた。


教育的指導をすべきなのだろうが、妙にその様が可笑しいので俺はつい笑ってしまった。釣られて皆も笑った。


「楽しそうだね」と何処かから声が聞こえた。一瞬で俺たちのいた芝生の周りが暗い影に覆われた。頭のすぐ上、5メートルほど上空に熱気球よりも大きい球が浮かんでいた。元の世界にいた時に図鑑でみた木星に近い風貌である。


「計都じゃないか! 初めて見た!」俺は思わず感動から叫んでしまった。ファンタジアで都市伝説のように語り継がれてきた事象に出会えて興奮してしまった。


だがステッラ達はむしろ警戒している。

「何だこれは。カムイ、今『けいと』と言ったか?」ステッラの口調は尋問じみている。


「ファンタジアではたまに目撃情報があった。噂だと思っていたが本当にあるとはな。というか今計都が喋ったように思ったが」


計都は一瞬ブレるような動きを見せてから不意に消えた。

俺たちは束の間言葉を失くしてその場に固まっていた。


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