バランタインの話2
一週間に一度、男達は武装してハイオルトの楽園に来る。最初の内は従順なふりをした。剪定した実を上納し、見返りに生活雑貨をもらう。念のため奴らの嘘に騙されている演技をする。
「ハイオルトを元に戻すにはどうすればいい」
「ある程度稼いだら他の宿根を探す。それまでは我慢してくれ」
バランタインはそれが嘘である事を知っている。仮に他の宿根が来た所で新たな犠牲者が増えるだけでハイオルトが助かるわけではない。奴らにハイオルトを戻す知識はない。
「男達にモズクは見えない。再び船に乗ってここまで来る際にモズクを船底に張り付かせた。カダヴェルの効能には精霊と精霊使いにはない拡張機能がいくつかある。精霊との同期だ。精霊の見聞きした内容を遠くから把握できる。俺は船上での彼らの軽口の内容を聞いた。それは聞くに堪えない雑言であり、ハイオルトと俺の尊厳を著しく傷つけるものだった。そしてその中でハッキリとハイオルトがもう助からないと男達の一人が口にした」
衝動だった。モズクだけでも男達を懲らしめるには十分であった。だが、モズクは彼らには見えない。モズクの持つ引力の能力を利用して川底にある岩を集結して巨人を作った。幸い、船頭の他には男達だけである。船を転覆させ、船頭を拾い陸地に上げた。男達は川に流されたが放置した。
「脅かすだけのつもりだったが、俺の気持ちとモズクの気持ちがリンクして制御できなくなってしまった。モズクに積荷を回収させ、俺は楽園の剪定だけを続ける日々に戻った。実の剪定は慎重に行わなければならない。あまりハイオルトの近くを剪定すると彼女に痛みが走る。つまり全てを切り落とす事は出来ない。既にハイオルトから独立した地下茎も出来上がっていた。不思議な事にそれらの実には幻覚作用はなく、毒も無い。俺の主食に成り果てた」
「だが、男達は生きていた」俺はバランタインの感傷には付き合わず、先を促した。脇腹にユユリの肘鉄を食らったが俺はあえて無視した。
「ただ一度の襲撃だったが噂はエルシア中に広まったらしい。船は武装した集団を運ぶようになってきた。楽園に入れるわけにはいかなった。ハイオルトの状況を見たら慰み者にされる。俺は不詳不詳撃退を余儀なくされた。だが驚かせるだけで相手が逃げたのは幸いだった」
「そして俺たちが来た」俺は言った。
男は頷き、顔を上げる。それから座り直し、土下座の姿勢になって頭を下げた。
「頼む! 俺たちを、いやハイオルトを見逃してくれ! 宿根を解除してくれた事には感謝する。だからこのまま静かに眠らせてやってくれ!」
「だから最後まで話を聞いてくれと言っただろう。ステッラ」俺は背後に向けて言った。「続きを頼む」
「任せろ。フィーリア!」ステッラは得意満面に右手を上げた。「ハイオルトの中の精の循環を把握。余分なゴミを排除。後に精の共振」
「共振とは何だ?」珍しくリュウシュウハがステッラに質問した。
「命の共鳴だな。眠り続けている意識を目覚めさせる。この場合、近しいものとの共振が良い。おい!」ステッラは未だ砂地に座しているバランタインに向けて言った。「ハイオルトに触れてくれ。そして願え、目覚めて欲しいと」
バランタインは無様とも言える足取りで宙に浮いているハイオルトの足にすがりついた。「俺のせいでアシュリアの命を犠牲にしてしまった。俺を許せないのは分かる。だがどうか、ハイオルトは、君だけは幸せになって欲しい! その為なら何でもする! お願いだ」
目覚めてくれ、というバランタインの言葉は尻すぼみになった。ハイオルトの瞳が開いたからである。
「そんなに泣かないで。アシュリアも私もおじさんの事は恨んでいないよ。感謝しかしていない」
そう言ったハイオルトは地面に降りた。ふらつきそうになるのをバランタインが支えると彼女はその体を抱きしめた。「ありがとう」
バランタインは無様に泣き続けた。そしてハイオルトは静かに微笑みつづけた。




